「人材と資金」がEUのスタートアップ政策に対するフランスの戦略のカギ

今回は「「人材と資金」がEUのスタートアップ政策に対するフランスの戦略のカギ」についてご紹介します。

関連ワード (変化、年前、目的等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、TechCrunch様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


現在、欧州連合理事会議長国となっているフランス。同政府はこの機会を利用して、テクノロジースタートアップ政策において進展を図ろうと目論んでいる。フランスのデジタル大臣であるCédric O(セドリック・オ)氏はTechCrunchとのインタビューの中で、欧州のテクノロジーエコシステムに関するニュースをいくつか紹介してくれた。

その前に少しだけ振り返ってみよう。ここ数年、EUでは税制や人材確保、投資などに関する法律を見直し、調和させようという取り組みが盛んに行われている。

2021年、欧州委員会と加盟国は「Startup Nations Standard」を発表した。その名が示すように、この新制度は欧州各地のスタートアップ政策の基準を確立することを目的としており、言い換えると、加盟国間で共有できるベストプラクティスのようなものである。

ポルトガルが欧州連合理事会議長国になった際、ポルトガルはさらに一歩進んで「European Startup Nations Alliance(ESNA)」を創設すると発表した。ESNAは「Startup Nations Standard」を担う新たな組織であり、ベストプラクティスをまとめるだけでなく、技術的なサポートや進捗状況のモニタリングも行うというものである。

同じ頃、フランスのエマニュエル・マクロン大統領が「Scale-Up Europe」という別のグループを立ち上げている。テック企業や投資家、団体がマニフェストに署名し、2030年までに1000億ユーロ(約13兆2100億円)以上の価値を持つテック企業を10社にすることを目標に掲げている。

フランス政府は2日間の会議の中で、人材の魅力を高めるためにESNAに新たな責務を課すこと、運用額10億ユーロ(約1321億円)以上のレイターステージの投資ファンドを10~20個設立すること、ディープテック分野への投資を強化することなどを発表している。

レイターステージの資金提供から見てみよう。EUの加盟国のいくつかは、European Investment Fund(欧州投資基金、EIF)に出資して新たなファンド・オブ・ファンズを設立すると発表している。

「ヨーロッパの強力なエコシステムを構築するためには、資金調達が重要です。世界中から投資を集めたいとは思っていますが、欧州の資金、欧州の知識、欧州のチームによる欧州のベンチャーキャピタルを実現したいと考えています」とオ氏は話している。

「我々の目標は10億ユーロ以上のファンドを10~20作ることです。現在米国では10億ユーロ以上のファンドが40あるのに対し、欧州では2つとなっています。Eurazeo(ユーラゼオ)とEQTの2つで、フランスのファンドとスウェーデンのファンドです」。

この新たなファンド・オブ・ファンズは、欧州の大規模なレイターステージのファンドにリミテッドパートナーとして投資する計画である。この新しい仕組みにより、ファンドマネージャーはより簡単に新しいファンドを調達できるようになり、例えばEIFがあるファンドに1億ユーロや2億ユーロの投資をすると言えば、この新しいファンドにはより多くの機関投資家が集まるだろうという考えである。

また、Bpifrance(公的投資銀行)のような一部の国立投資銀行は自国のファンドに対しても支援を行っている。フランスでは、民間の保険会社や公的な投資家もTibi(ティビ)氏の取り組みに倣ってレイターステージのファンドに参加しているのである。

今回の発表はヨーロッパ全土に関するもので、加盟国の予算の一部を欧州におけるレイターステージのテック分野への投資に充てることを主な内容としている。

オーストリア、ブルガリア、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルグ、オランダ、ポルトガル、ルーマニア、スロベニア、スペイン、スウェーデンの18カ国がこのEIFのファンド・オブ・ファンズに貢献するという拘束力のない誓約書にすでに署名しており、近日中にさらに多くの国が加わる予定だという。

具体的には、フランスは「フランス2030」の投資計画のうち10億ユーロを振り向けると言い、ドイツは10億ユーロを投資、さらにEuropean Investment Bank(欧州投資銀行)はこのファンド・オブ・ファンズに5億ユーロ(約660億円)を特別に割り当てる他、別途でレイターステージのファンドに直接投資を行うと伝えている。

その他いくつかの国立投資銀行も、大規模なレイターステージファンドに直接資金を投資すると発表している。フランスとデンマークの投資銀行は欧州のレイターステージファンドにそれぞれ5億ユーロを割り当てる計画で、またギリシャも近々計画を発表する予定だという。

10年前に米国の経済を大きく変えたように、デジタルト・ランスフォーメーションがヨーロッパの経済に大きな影響を与えるだろうとオ氏は考えている。

「今、欧州は転換期にあると考えています。そして問題は、その変化を誰が利用していくのかということです。米国の企業なのか、ヨーロッパの企業なのか。それがヨーロッパの企業になるように、できる限りのことをしたいと思っています」。

そして、ヨーロッパ内で大規模な成長資金を調達できるようになることが、この先大規模なテック企業を生み出すことにつながると同氏は強く信じている。「プライベート投資による欧州の大規模なファンドが増えれば、クロスオーバー投資でも、公共投資でも、近いうちにヨーロッパのNASDAQの上昇につながるでしょう」。

画像クレジット:Ministère de l’Économie, des Finances et de la Relance

ヨーロッパの多くの国では、すでに技術系人材のための特別なビザプログラムを設けている。例えばフランスには「French tech visa」があり、またスペインではスタートアップビザを含む法的パッケージの立ち上げに取り組んでいる。

しかしそれぞれのプログラムの違いは、近い将来ほぼなくなることになるかもしれない。ESNAは、加盟国がそれぞれの規制が欧州の基準と比べてどうなのかを確認できるよう、ベストプラクティスを共有する計画だからだ。

フランスはさらに一歩進み、専門のチームを持つ「European Tech Talent」サービスデスクを作りたいと考えている。ESNAは各加盟国の移民局に取って代わるものではないものの、将来の移住者がビザを比較できる単一の情報源ができることになるため、外国人の人材を雇用しようとしている技術系のCEOにとっても、特に有用なものとなるだろう。

「こういったプログラムによって何れすべてがつながっていくことを期待しています」とオ氏はいう。

また、ESNAのサービスデスクは、問い合わせを適切な行政機関の適切な担当者に転送してくれるという。オーストリア、ベルギー、キプロス、チェコ、エストニア、フィンランド、ポーランド、フランス、ギリシャ、アイルランド、イタリア、リトアニア、ルクセンブルグ、マルタ、ポルトガル、スペインの少なくとも16カ国がこの誓約に署名することに合意している。

技術者に対するこの新たな取り組みは、言わばプロモーションのためのものである。真新しいサイトとどんな質問にも答えてくれるチームがあれば、優秀なエンジニアにとってヨーロッパへの移住はこれまでになく魅力的なものになるかもしれない(一部の国では極右の候補者がかなりの人気を博しているという事実が、この取り組みにダメージを与えているかもしれないが)。

「米国のテクノロジーが成功しているのは、優秀なフランス人、ナイジェリア人、インド人を集める能力に関係しています。ヨーロッパはこのテーマでは遅れをとっています。我々はEUブランドを作っていない。しかし、コロナ後の世界には歴史的なチャンスが広がっています。欧州の福祉モデルと欧州の生活の質は極めて重要な資産となっています」と同氏は話している。

European Innovation Council(欧州イノベーション会議、EIC)には100億ユーロ(約1兆3251億円)の予算があり、これはかなりの額の資金管理である。EICはヘルスケア、エネルギー、グリーン・イノベーションなど、さまざまな戦略的産業における画期的な技術を支援することになっている。

これまでEICファンドは、ディープテック企業への直接的な株式投資に1500万ユーロ(約20億円)までしか投資できなかった。EUの革新・研究・文化・教育・青年担当委員のMariya Gabriel(マリヤ・ガブリエル)氏は、EICが従来の1500万ユーロの上限を超えてより大きな投資を行えるようになると発表している。

また「EIC Scale Up 100」と呼ばれる欧州のランキングが発表される予定だ。このランキングを活用してEUがあらゆるサービスや経営上の支援を行い、最も有望なディープテックベンチャー企業を支援しようという計画だ。

今回の発表で、フランスとEUはスタートアップ政策における競争促進のビジョンを打ち出している。オ氏は欧州のスタートアップと米国のスタートアップをよく比較するが、ビッグテックに対抗する最善の方法は、ヨーロッパ独自のビッグテック企業を作ることだと同氏は考えている。

「私たちは米国人よりも上手くできると信じています。Back Market(バックマーケット)やYnsect(インセクト)のように、米国企業よりも優れた企業が出てきていますし、それを目指すべきだと感じています。本能的な個人的意見としては、閉ざされた市場ではなく、もっと野心的で競争的なものを支持したいと思います」と同氏は話している。

画像クレジット:Ministère de l’Économie, des Finances et de la Relance


【原文】

It’s the French Presidency of the Council of the European Union right now. And the French government is taking advantage of this opportunity to make some progress on the tech startup policy front. In an interview with TechCrunch, France’s digital minister Cédric O shared some news for the European tech ecosystem.

But first, let me rewind just a little bit. Over the past few years, there have been a lot of initiatives to overhaul and harmonize EU legislation around taxation, talent attractiveness, investment and more.

Last year, the European Commission and Member States launched the Startup Nations Standard. As the name suggests, this new instrument is in charge of establishing a standard for startup policies around Europe. In other words, it’s a set of best practices that can be shared among Member States.

We also want to enable European venture capital with European funds, European knowledge and European teams. Cédric O

During the Portuguese Presidency of the Council of the EU, Portugal announced that it would go one step further and create the European Startup Nations Alliance (ESNA). It’s a new entity that is in charge of the Startup Nations Standard. In addition to compiling best practices, it can provide technical support and monitor progress.

Around the same time, French President Emmanuel Macron launched a different group called Scale-Up Europe. Tech companies, investors and associations signed a manifesto with the goal of reaching 10 tech companies that are worth €100 billion or more by 2030.

New financial incentive to create 10 to 20 large VC funds

During a two-day conference, the French government is announcing some new responsibilities for the ESNA to foster talent attractiveness, some commitments to facilitate the creation of 10 to 20 late-stage investment funds with at least €1 billion under management and a boost in deep-tech financing.

Let’s start with late-stage funding. Several EU Member States are announcing that they’ll contribute to the European Investment Fund (EIF) to create a new fund of funds.

“In order to structure a strong European ecosystem, financing is key. We still want to attract investments from the whole world. But we also want to enable European venture capital with European funds, European knowledge and European teams,” Cédric O told me.

“Our goal is to create 10 to 20 funds with more than €1 billion. As a reminder, today, there are two funds with more than €1 billion in Europe compared to 40 funds in the U.S. These funds are Eurazeo and EQT — a French fund and a Swedish fund.”

This new funds of funds will invest as a limited partner in large late-stage European funds. With this new mechanism, fund managers should be able to raise a new fund more easily. For instance, if the EIF says they’re willing to invest €100 million or €200 million in a fund, it should attract more institutional investors in this new fund.

Some national investment banks, such as Bpifrance, have also been backing funds in their own countries. In France, private insurance companies and public investors are also participating in the late-stage funds following the Tibi initiative.

This time, it’s a pan-European announcement that mostly involves redirecting a small portion of Member States’ budgets toward European late-stage tech financing.

We think we’re at a tipping point in Europe. And part of the question is: Who is going to take advantage of that shift? Cédric O

Eighteen European countries have already signed a non-binding pledge saying that they plan to contribute to this EIF’s fund of funds — Austria, Bulgaria, Denmark, Estonia, Finland, France, Germany, Greece, Italy, Latvia, Lithuania, Luxembourg, the Netherlands, Portugal, Romania, Slovenia, Spain and Sweden. More countries should join the list soon.

In particular, France said it would redirect €1 billion of its France 2030 investment plan, Germany said it would invest €1 billion and the European Investment Bank would allocate €500 million for this fund of funds specifically and make some direct investments in late-stage funds.

Some national investment banks have also announced that they’ll invest money directly in large late-stage funds. The French and Danish investment banks will allocate €500 million each for European late-stage funds. Greece also plans to make an announcement soon.

According to Cédric O, digital transformation is going to profoundly affect the economy in Europe — just like it strongly reshaped the American economy 10 years ago.

“We think we’re at a tipping point in Europe. And part of the question is: Who is going to take advantage of that shift? Will it be American companies or European companies? We want to do everything we can so that it’s European companies,” Cédric O said.

And he strongly believes that the ability to raise large growth rounds in Europe will lead to large tech companies down the road. “More big European funds in private investments — maybe soon in cross-over investments, maybe soon in public investments — will lead to the rise of a European Nasdaq,” Cédric O said.

Image Credits: Ministère de l’Économie, des Finances et de la Relance

Leveling up tech visas

Many European countries already have special visa programs for tech talent. For instance, France has created the French tech visa. Spain is also working on a legislative package that includes startup visas.

And it could soon become a bit complicated to understand the differences between each program. The ESNA will share best practices so that Member States see how their respective regulation compares with European standards.

The European welfare model and the European quality of life have become extremely important assets. Cédric O

France wants to go one step further and create a European Tech Talent service desk with a dedicated team. The ESNA isn’t going to replace immigration offices in each Member State. But there will be a single source of truth where future migrants can compare visas. It can be particularly useful for tech CEOs looking to hire foreign talent as well.

“What we hope is that it’ll lead to an alignment of these programs,” Cédric O said.

The ESNA’s talent desk will also redirect inquiries to the right people in the right administration. At least 16 countries have agreed to sign the pledge — Austria, Belgium, Cyprus, Czech Republic, Estonia, Finland, Poland, France, Greece, Ireland, Italy, Lithuania, Luxembourg, Malta, Portugal and Spain.

This new tech talent effort is a promotion effort. With a shiny new site and a team that can answer all your questions, moving to Europe could be more tempting than ever for a highly qualified engineer. (The fact that far-right candidates are quite popular in some countries might damage that effort though.)

“The effectiveness of American tech is related to its ability to attract the best French, Nigerians and Indians. And Europe is lagging behind on this topic. We haven’t created the EU brand. But we have an historic opportunity in a post-COVID world. The European welfare model and the European quality of life have become extremely important assets,” Cédric O said.

Uncapping the deep-tech cap

With its €10 billion budget, the European Innovation Council has quite a bit of money under management. The EIC is supposed to support breakthrough technologies across different strategic industries, such as healthcare, energy and green innovations.

Until now, the EIC Fund could only invest up to €15 million in direct equity investments for deep-tech companies. Mariya Gabriel, the EU’s commissioner for innovation, research, culture, education and youth, is announcing that the EIC will be able to make larger investment, above the previous €15 million cap.

Finally, there will be a European ranking called the EIC Scale Up 100. With this ranking, the EU will try to help the most promising deep-tech startups through various services and admin help.

With today’s announcements, France and the EU lay down a pro-competition vision for startup policies. Cédric O often compared European startups with American ones. He believes that the best way to fight Big Tech is by creating our own Big Tech companies in Europe.

“I think we can be better than Americans. We are starting to see companies like Back Market or Ynsect that are better than American ones. I think that’s what we should aim for. Instinctively, my personal opinion is that I’m in favor of more ambition and competition rather than a closed market,” Cédric O said.

(文:Romain Dillet、翻訳:Dragonfly)

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