富士通がミリ波センサーで人の姿勢を高精度に推定する新技術–介護・医療施設での活用想定
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富士通は7月6日、一般的なミリ波センサーで取得される粒度の粗い点群データから人の姿勢を高精度に推定できる新技術を開発したと発表した。介護施設や医療施設などでの活用が想定されており、対象となる人物の転倒などを検知できる。
こうしたシステムでは、ビデオカメラと画像認識処理の組み合わせが一般的だが、鮮明な映像が記録されることから、対象者のプライバシーや心理的抵抗感の問題が生じる。一方、ミリ波センサーでは人物からの反射として得られる点群データに基づく処理となるため、ビデオカメラの映像とは異なり個人識別はもちろん性別や年齢などもほぼ判別不能な抽象的なデータとなることから、プライバシー侵害の懸念は低くなる。また、暗闇での検出や、布団・薄い布/壁などを透過して検出することも可能といい、光学カメラでは対応できない状況での活用も期待できる。
富士通 フェロー SVP コンバージングテクノロジー担当(兼)研究本部 コンバージングテクノロジー研究所長の増本大器氏は、同社におけるコンバージングテクノロジーの研究開発について説明した。まずは、同社のパーパス「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくことです。」を紹介。この実現を目指す新事業ブランドとして2021年10月に発表された「Fujitsu Uvance」(ユーバンス)を支える5つの技術領域である「コンピューティング」「ネットワーク」「人工知能(AI)」「データ&セキュリティ」「コンバージングテクノロジー」に研究開発リソースを集中しているとした。
その上で、コンバージングテクノロジーについて「デジタル技術と人文社会科学の融合により、人と社会を深く理解して働きかけ社会課題を解決する技術」だと説明した。同社のコンバージングテクノロジー研究開発では「人(Human)」と「社会(Society)」にフォーカスし、「ヒューマンセンシング」「ヒューマンエンハンスメント」「ソーシャルデジタルツイン」「ソーシャルデザイン」「生体認証技術」の大きく5つのテーマに取り組んでいる。
今回発表の新技術は「『人』を理解し予測する」ことを目指したヒューマンセンシングの領域での研究成果となる。ここでは、「映像処理と行動科学の知見を融合し、人の行動を高精度に分析・予測」するための研究が行われているという。
続いて、同社 研究本部 コンバージングテクノロジー研究所 ヒューマンセンシングプロジェクト プロジェクトマネージャーの紺野剛史氏は、新技術の詳細を説明した。同社が開発した行動分析技術「Actlyzer」(アクトライザー)と、行動科学に基づいて人の高度な知識を活用してミリ波センサーの疎な点群データを拡充し、人の形状の認識精度を向上させた結果を組み合わせた「コンバージングテクノロジー」として今回の技術が成立しているとした。
今回活用されているのは安価な79GHz帯のミリ波センサーで、毎分数十回の電波照射を行って3次元の点群データを得ることができる。高価で大規模なミリ波センサーを利用すればより解像度の高い点群データが得られるが、今回は安価なセンサーを活用し、疎な点群データしか得られない中で的確に人の形状認識精度を向上させ、実用的なソリューションの実現につなげた点がポイントとなる。
富士通では、人の姿勢が点群の時系列データで表現可能であることに着目し、複数回の照射による大量の点群データから人の姿勢推定に適したデータを選定する「点群データ拡張技術」と、拡張した点群データから高精度に人の姿勢を推定するために大規模データセットを構築し、点群データと人の関節点の3次元座標情報を対応しさせたデータセットで学習した高精度な「姿勢推定AIモデル」を開発することで、ミリ波センサーの点群データから推定した姿勢とActlyzerとの連携により、行動の前後関係を含む詳細な分析が可能になったという。
具体的な活用例としては、介護施設などでの見守り用途が考えられ、実運用上の課題を洗い出すための実証実験も開始されているという。今回の技術は個室内にいる1人の対象者を1つのセンサーでセンシングする前提で開発されており、大勢が一堂に集まっているような環境には対応できないが、今後の技術開発によって数人程度には対応できる可能性があるという。用途に照らして考えれば、人の目のない個室内で倒れた人を迅速に検知するといった使い方には適するといえそうだ。同氏は今後の取り組みとして、「病院や介護施設との実証実験を実施することでさらなる効果検証と精度向上を重ね、2023年度中のサービス化を目指す」とした。