「デジタル×人文社会科学」で価値創出に挑む研究者の覚悟とは
今回は「「デジタル×人文社会科学」で価値創出に挑む研究者の覚悟とは」についてご紹介します。
関連ワード (松岡功の「今週の明言」、経営等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。
本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、富士通 フェロー SVP コンバージングテクノロジー担当の増本大器氏と、シスコシステムズ 執行役員セキュリティ事業担当の石原洋平氏の発言を紹介する。
富士通は先頃、同社が注力する「コンバージングテクノロジー」において、一般的なミリ波センサーで収集した点群データから人の姿勢を高精度に推定する新技術を開発したと発表した。増本氏の冒頭の発言はその発表会見の質疑応答で、コンバージングテクノロジーの必要性について聞いた筆者の質問に答えたものである。
新しい技術開発の発表内容については速報記事をご覧いただくとして、ここでは増本氏が説明したコンバージングテクノロジーに注目したい。
コンバージングテクノロジーは、同社が研究開発のリソースを集中している技術領域の一つで、「最先端のデジタル技術と、行動科学や経済学などの人文社会科学を融合することによって、人と社会を深く理解して働きかけ、社会課題を解決する技術」と同社では定義している(図1)。
コンバージングテクノロジーの研究開発の全体像は、図2の通りである。この図の見方は、増本氏によると「コンバージングテクノロジーは人と社会にフォーカスする技術なので、縦軸を『人』と『社会』、横軸は技術で何を行うかという観点から、受動的な『理解・予測』を行うのか、能動的な『働きかけ』を行うのか、で分類している」とのことだ。
そうした座標軸の中で、同社は5つの研究テーマを掲げている。1つ目は人を理解し予測する「ヒューマンセンシング」、2つ目は人に働きかける「ヒューマンエンハンスメント」、3つ目は社会を理解し予測する「ソーシャルデジタルツイン」、4つ目は社会に働きかける「ソーシャルデザイン」、5つ目は人と社会を結びつける「生体認証技術」である。今回発表の新技術は、この中のヒューマンセンシングの領域の話だという。
「社会に根ざす技術の開発や教育に向けては『文理融合』を進めていく必要がある」との考え方は以前からあった。筆者もひと頃、「文理融合」をテーマに大学や企業を取材していたことがあるので、コンバージングテクノロジーという言葉を聞いて通底しているものを感じた。とはいえ、富士通はなぜ、今、コンバージングテクノロジーに注力するのか。会見の質疑応答で聞いてみると、増本氏は次のように答えた。
「私たちが今、コンバージングテクノロジーの研究開発に取り組むのは、強い問題意識を持っているからだ。それは、ITやデジタル技術はややもすると人や社会と離れてどんどん進化していく。したがって、常にITやデジタルは本当に人や社会のために役立っているのか、技術を追求するだけではなく、人や社会を理解して、そこに価値をもたらすという観点を持ち続けないといけない。そうした観点で見ると、人文社会科学には膨大な知見が蓄積されており、これまで培ってきた人類の英知だと感じている。それらとITやデジタルを組み合わせて価値を生み出すことは、まさしく時代の要請だと受け止めている」
なぜ、今か。既にITやデジタルは社会に浸透しつつあるが、増本氏が言葉の定義のところで挙げた「最先端のデジタル技術」というのがミソだろう。例えば、最先端の人工知能(AI)が活用されるようになると、という話だ。同氏の回答に研究者としての「覚悟」を感じたので、明言として取り上げさせてもらった次第である。