デジタル前提のIT構造に変えていく–日本オラクルの2023年度事業戦略
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日本オラクルは7月7日、2023会計年度(2022年6月1日~2023年5月31日)の事業戦略説明会を開催した。会見した取締役 執行役社長の三澤智光氏は、日本企業のIT環境が抱える構造をインフラとアプリケーションの両面から変えていくとする方針を掲げた。
2023会計年度の主な施策は、(1)ミッションクリティカルシステムの近代化、(2)ビジネスプロセス全体のデジタル化、(3)安全安心で豊かな暮らしを支える社会公共基盤の実現、(4)社会や企業の活動のサステナビリティーの加速、(5)ビジネスパートナーとのエコシステムの強化――になる。説明会で三澤氏は、(1)と(2)の取り組みに大半の時間を割いた。
これらの背景として三澤氏は、冒頭で1995年から国内IT投資と国内総生産(GDP)が共に停滞し続けているとの持論を紹介。これは経済学などの観点で立証されているわけではないとしつつも、三澤氏自身は相関性を抱かずにはいられないという。「多くの経営者がデジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むとしながらもIT投資を増やすとの声は少ない。それなら、IT投資が増えない前提で、中身の構造を変えるしかない」と主張した。
一般的に、日本企業はIT投資の8割を既存システムの運用と保守に、2割を新規システムに充当しており、ITの仕事をする人材の8割はITベンダー側に所属していると言われる。三澤氏は、その理由として日本のIT投資が、古くからのビジネスモデルや業務の仕組みに合わせるカスタマイズ主体で進んだ影響があるとし、ITシステムはあまりに複雑化して変化への対応の柔軟性を失っていること、ビジネス上の価値が希薄になったこと、サイバー攻撃などのさまざまなリスクを抱えていること、クラウドの価値を過信していることがあると指摘した。
そこで、主要施策(1)として「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)、(2)「Oracle Cloud Applications」(OCA)の推進を掲げている。
OCIは、IaaSと「Oracle Database」などを含むPaaSだが、三澤氏は、「OCIの確立は2018年頃で、2000年代に確立した他社(のIaaS)より遅いが、それより新しいテクノロジー」と強調。そのため柔軟なリソースの調達、拡張などの柔軟性、従量課金などのクラウドの特徴に、パッチの自動適用やデータの暗号化など運用とセキュリティ対策の自動化によるコスト削減が可能であり、世界中で大企業の基幹業務システムを手掛ける膨大な知見を生かした非機能要件などへの対応力も強みだとアピールした。
ただ、顧客企業に画一的なクラウドへの移行を訴求するわけでもないとする。顧客がOCI基盤自体を自社データセンターに導入して利用する「Oracle Dedicated Region」などがあり、国内では野村総合研究所がOracle Dedicated Regionを使って同社顧客へのクラウドサービスを運用する。直近では、英Vodafoneが基幹業務システム基盤をこれに置き換えた。
三澤氏は、こうした一足飛びのクラウド化も段階的なクラウド化もできるとするOCIがITインフラの構造的な問題を解消し、ITインフラをデジタル前提のビジネスモデルや業務プロセスに必要なものに変えられると主張。ワークロードに応じた適材適所の組み合わせができるとする。また、クラウドを志向する顧客へのデリバリー能力も強化を続けているとし、OCIを取り扱う大手システムインテグレーターが順調に増加しているとした。
主要施策(2)のOCAでは、ERP(統合機関業務システム)や財務会計、人事などのアプリケーションを「フルスイートのピュアSaaS」として提供する。これらは、かつてのオンプレミス向けだったソフトウェア製品群をSaaSとして抜本的に再開発した経緯もあり、三澤氏は、随時アップデートというSaaSの特徴でアドオンが不要になり、アドオンのためのカスタマイズ開発といった膨大なコストも不要になるため、顧客はビジネス環境の変化に合わせた業務プロセスをすぐに整えられるようになるとした。
業務アプリケーションは本来、標準化された業務プロセスを提供することによって効率性と生産性を向上させる役割であるにもかかわらず、標準化されない業務プロセスに合わせるためのアドオンとカスタマイズの積み重ねでそのメリットが損なわれたとする。その状態でシステム同士が密結合し、アプリケーションが稼働するITインフラもそれにひも付いて柔軟性が失われているとしたほか、人工知能(AI)などのテクノロジーの実用的な効用も得がたいものになってしまっているという。
三澤氏は、ピュアSaaSのOCAとその基盤であるOCIの利用を顧客に促すことによって、デジタルを前提とするビジネス環境や業務プロセスを確立し、ひいては日本企業のDXの推進につながると説明。(3)~(5)についても、同社のクラウドサービスが各種の行政機関や公共団体において採用が広がっていること、2050年に「ネットゼロ」に実現を掲げる同社自身の取り組みが進展していること、事業戦略で掲げる各種施策が拡大するパートナーエコシステムによって実績を高めていることを報告した。
今回の5つの重点施策について基本的な方向性は、三澤氏が社長就任から継続しているものになり、「直近の業績は好調であり、オラクルに関するニュースなども明るいものが増えているのでうれしく思う」と、事業戦略の進展具合に手応えを感じているとした。