「量子ソフトウェアと古典チップの設計はよく似ている」–Classiqが日本オフィス開設へ
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量子コンピューティング関連企業のClassiq Technologiesは7月14日、報道機関向けに説明会を開催し、「数カ月以内に東京にオフィスを開設する予定」だと発表した。
共同創業者で最高経営責任者(CEO)のNir Minerbi氏は、同社が2020年に創業後、既に6300万ドルの資金を調達するなど投資家から高い注目を集めていること、イスラエル企業で米国にもオフィスを構え、東京が世界でも3拠点目となること、20以上の特許を保有する技術志向の企業であること、などを紹介した。
日本企業からも出資を受けているほか、研究開発面では慶應義塾大学と密接な連携を取っているなど、「日本とも関わりが深い」とMinerbi氏は話す。また、同社には「イスラエル国防軍(IDF)が提供するエリート技術者養成プログラム『TALPIOT』の卒業生11人が所属」しているとのことで、これは業界でも最大規模のチームなのだという。Minerbi氏自身もイスラエル国防軍のインテリジェンスチームで10年ほどの勤務経験があり、そこで量子コンピューティングの知識や技術を学んだという。
同社が注力しているのは、量子コンピューター向けソフトウェア(量子ソフトウェア)を開発するための支援環境となるソフトウェアの開発だ。数十量子ビット規模の量子コンピューター向けのソフトウェア開発であれば、技術を熟知していれば開発は可能だという。
同氏は「数十量子ビット程度のシステムでも、それを活用する量子回路を設計できる人は世界に数百人程度しかいない。さらに今後、数千量子ビット級の量子コンピューターが出てくると、量子回路の設計を人力で行うことは不可能になる」と指摘。「量子コンピューターのハードウェアは進歩していくが、その能力を引き出せる量子ソフトウェアを開発できなくては意味がない」
Minerbi氏はさらに、米IBMが発表している量子コンピューター開発のロードマップでは2023年に1000量子ビット(qubit)超のシステム(コード名:Condor〈コンドル〉)がリリース予定であることも踏まえて「Are we ready for 1000 qubits?」(1000量子ビットへの準備はできているか?)と問いかけた。
同社の中核的はアイデアは、従来型コンピューター(古典コンピューターと呼ばれるもの)のCPUなどの大規模な電子回路の設計で使われる、VHDLなどのハードウェア記述言語と同様の手法で量子コンピューター向けの量子回路設計を自動化できるのではないか、というもの。同氏は「量子回路の設計と古典コンピューターのチップ設計は似ている」と言う。
同社では、この手法を「Quantum circuit synthesis」(量子回路合成)と呼んでおり、これを実現する同社の「Classiq platform」では「高度な量子回路をスケーラブルに構築できる」「必要なリソースを大きく削減できる」「開発期間を大幅に短縮できる」「量子の開発ワークフローにドメインエキスパートを組み入れる」「知財を生み出し、保有できる」などのメリットが得られるとした。
同社のプラットフォームは「IBM Q」や「IonQ」「ColdQuanta」「Rigetti」「Pasqal」といったハードウェアやMicrosoft Azure、Amazon Web Services(AWS)などのクラウドサービス、NVIDIAやIntelなどのシミュレーターなど、さまざまな量子コンピューティング環境をサポートしており、特定のハードウェアやプラットフォームに依存しない抽象度の高い量子回路開発を可能とする。
量子コンピューターの実用化時期についてはまだ確実に見通せる段階ではないが、徐々に近づいてきているのは間違いない。Minerbi氏は「数百万量子ビットを必要とするような大規模な量子アルゴリズムが実用レベルに達するのは2020年代末~2030年代初頭くらいではないか」との見通しを示したが、その時に向けた量子アルゴリズムの開発などは既に活発化しつつある。
そのソフトウェア開発に関しても、現在の古典コンピューター向けのソフトウェア開発が高水準言語によるもので、それを支えるソフトウェア開発環境があってこそだと考えれば、ハードウェアの開発と歩調を合わせてソフトウェア面での環境整備が必須だということは明らかだ。現時点で即座に量子コンピューティングに対する投資が始められるユーザー企業はまだ限られているかもしれないが、徐々に量子コンピューティング時代が現実化しつつある気配が実感できるようになってきたという印象がある。