「やわらかいインフラ」の実現が要–シスコ2023年度の事業戦略を発表

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 シスコシステムズは10月19日、「シスコジャパン 2023年度事業戦略」を発表した。記者会見に登壇した代表執行役員社長の中川いち朗氏は、同社における2023年度(2023年8月期)の事業戦略の重点について、「ビジネスや環境の変化に合わせて動的にインフラを拡張・運用できる『やわらかいインフラストラクチャー』の実現を目指す」としている。

 会見の冒頭で中川氏は日本のデジタル変革(DX)に触れ、「コロナ禍によりデジタルシフトが急速に進んでいる中、日本のデジタル化が世界と比べると遅れている」と言及。同社の存在意義である「すべての人にインクルーシブな未来を実現する」を掲げ、今こそこのパーパスを実現する時だと主張した。

 企業は、「地政学的な問題による投資と立地の見直し」や「DX基盤としてのクラウド活用」「人材獲得のための働き方改革」といった課題を抱え、デジタルを活用した解決策を求めているという。シスコはこの問題に対して、製品提供だけでなく、中長期のパートナーとして解決を支援することをグローバル戦略として掲げている。この戦略を進めるに当たり、同社は製品やソリューションのクラウド化を始め、新しい技術を迅速にユーザーに提供するため、ソフトウェアビジネスにシフトした。また、企業にとって製品価値をライフサイクル全体で最大化するため、サービスモデルの変革にも注力している。

 このグローバル戦略に沿いながら、日本特有のIT市場を見据えた同社における3カ年成長戦略が「Project Moonshot」だ。ネットワーク、セキュリティ、クラウド、コラボレーション、5GのテクノロジーによるDXプラットフォームによって、「日本企業のデジタル変革」「日本社会のデジタル変革」「クラウド時代のサービスモデル変革」「パートナーとの価値共創」の4つの戦略分野を実現する。

 中川氏によると、2022年度における同プロジェクトは着実に実行し、引き続き堅調な成長ができたという。半導体受給などの問題がありつつも、コロナ禍前の2019年度の水準を上回り、第4四半期の受注額は四半期ベースで過去最高になった。

 2023~2025年度のProject Moonshotでは、「日本企業のデジタル変革」「日本社会のデジタル変革」「クラウド時代のサービスモデル変革」「パートナーとの価値共創」の4つの戦略は変化せず、クラウド時代のDXプラットフォームを強化するという。具体的には、DXプラットフォームを構築していた5つのテクノロジーをクラウド型に変え、「アプリケーションの再構築」「ハイブリッドワークの具現化」「企業全体のセキュリティの担保」「インフラストラクチャーの変革」の4つのプラットフォームに再統合する。いずれもシスコのアーキテクチャーと一対一で対応するものではなく、クロスアーキテクチャーで利用することで価値が増大するスイートソリューションになる。

 シスコによると、97%の日本の顧客が既存システムを、クラウド技術を活用して新しい柔軟なITへの移行を希望しているという。一方で、スイスのビジネススクールのIMDが行った調査「World Digital Competitiveness Ranking 2022」によると、日本のデジタル競争力は29位と世界のスピードに追いついていないことが明らかになった。

 これは、「規制の枠組みの撤廃が迅速に行えていないこと」と「ビジネスの機敏性(アジリティー)がないこと」が足かせになっていると、副社長 カスタマーエクスペリエンス担当の望月敬介氏は説明している。この2つがあることで、旧来型の仕組みと同時に新しいテクノロジーを動かさなくてはならず、業務が増えてしまい結果として「人材やスキル不足」につながるという。さらに、従来型のITインフラはアジリティーの足かせになっていると話した。

 2021年3月に国内の企業、公共団体を含む1000組織を対象に実施したシスコの独自調査によると、19.7%が「新たな開発環境の提供には数週間から数カ月かかる」と回答し、29.1%が「クラウド基盤はすぐに提供できるが、ネットワークの設定は手動なので時間がかかる」と回答した(図1)。望月氏はこの結果を踏まえ、「このままではDX推進が難しい。これからは『やわらかいインフラ』への移行が重要になる」とコメントした。

 やわらかいインフラは、同社のカスタマーエクスペリエンス部門の技術者が社内用語として使用してきた言葉で、クラウド時代のDXプラットフォームを言い換えた言葉になるという。これは、既存のIT環境を全体的に俯瞰しながら、「Connect」(接続)「Secure」(安全)「Optimize」(最適化)「Automate」(自動化)「Observe」(監視)の機能を統合的に提供し、環境の変化に合わせて動的にインフラを拡張・運用できるようにする。やわらかいインフラにより、顧客にIT環境の俊敏性や強靱(きょうじん)性、高い生産性を実現するとしている。

 シスコとして、やわらかいインフラの実現に当たり、「テクノロジー/製品の準備」と「サービス・メニューの準備」は既に整っているという。その一方で、同社の顧客全員にDX促進の支援を行うのは難しいため、シスコパートナーとの共創モデルが必要になる。現在は、パートナーと共に「パートナーデリバリー・モデル」を準備している段階だという。

 やわらかいインフラの実現により得られる定量効果は、ビジネスパフォーマンスの改善により「新たな取り組みに充てられる時間の増加」が特に大きいという。また、ネットワークの効率化により、「ネットワークの運用費用削減」や「ネットワーク基盤の費用削減」も効果としてあげられた(図2)。また、定性効果としては、「リスク低減およびセキュリティ強化」や「ITの効率性向上」「カスタマーエクスペリエンス(CX)向上」「イノベーションの加速」「ビジネスアジリティーの向上」を挙げた(図3)。

 望月氏はデジタル化を加速するため、「1.シスコはパートナーと共に、より多くの顧客のインフラを“やわらかいインフラ”へと移行し、顧客のDX加速に貢献する」とし、やわらかいインフラを構築するソフトウェア製品の更新や機能拡張を支えるため、「2.すべての顧客にライフサイクル型 伴走サポートを提供し、クラウド時代に合った再校の顧客体験を提供する」という2つの施策を挙げた。

 最後に中川氏は今回の「やわらかいインフラ」について、インフラ製品を扱うベンダーとしてはユニークな戦略だと話し、その理由について述べた。「まず、テクノロジーベンダーでありながら、導入後のライフサイクル全般において顧客へのビジネスの貢献に戦略の重点を置いていること。そしてソフトウェアにシフトしながらもネットワークをはじめコアコンピテンシーを重要なコンピテンシーとして持ち続けていること。最後に、サービスビジネスを拡大しながらもパートナーとのコラボレーションを前提としてビジネスを推進しているところ。これはシスコのユニーク性だと自負している」

 同社は、常に寄り添う戦略的パートナーとして、パートナーと共に顧客のライフサイクル全体を伴走型で支援し、企業のDXに貢献していくとしている。

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