「あの頃は経費精算が面倒だった」と懐かしめる社会に–コンカー三村社長

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 経費精算クラウドサービスを提供するコンカーが日本上陸して13年目を迎えた。電子マネーの普及や金銭授受のデジタル化に伴い、企業は一昔前のアナログな経費精算から解放されつつある。就任12年目となる同社 代表取締役社長の三村真宗氏は「5年、10年後には『あの頃は経費精算が面倒だった』と懐かしめるような社会を目指したい」と自社ソリューションのさらなる普及を目指す。

 三村氏が就任した2011年当時、国内でクラウドは広く知られていなかった。2006年にAmazonが「Amazon EC2」(現AWS)、2008年にGoogleが「Google App Engine」(GAE、現Google Cloud)、同年にMicrosoftも「Microsoft Windows Azure」(現Microsoft Azure)を発表。確かにクラウドの波は訪れていたが、国内で定着していたのはSalesforceぐらいだった。

 三村氏も「クラウドに対する心理的障壁が高く、外部にデータを預けることを懸念する顧客も少なくない。われわれがセキュリティは万全だと主張しても通用しなかった」と当時の様子を振り返る。この状況を大きく変えたのが野村證券との契約だ。

 「われわれにとって最初の大口顧客は野村證券。金融庁の外郭団体へヒアリングし、経費精算における個人情報の厳格情報が抵触する否か、クラウドにデータを格納しても問題ないかと丹念に確認して、野村證券には安心してもらった」。その結果、他の企業に案件相談する際も「野村證券が導入したなら大丈夫」とスムーズに進むようになったという。

 三村氏にコンカーの社長就任が打診された際、同氏が同社に抱いた第一印象は、分野として「地味」の一言だった。同氏はそれまでSAPジャパンに在籍し、経費精算は統合基幹業務システム(ERP)の単なるモジュールに見えたという。だが、熟考を重ねると、「経費精算は自分も嫌いな業務の一つ。本社の説明はクレジットカードやスマートフォンとのデータ連携と、従来の経費精算と全く異なる。かつ面の広がりで、あらゆる企業のニーズを満たせるだろうと考えた。不便な箇所(業務)に需要があり、そこに技術革新を適用すれば事業は拡大すると判断した」と語る。

 とはいえ2011年当時、経費精算クラウドサービスの市場は存在しなかった。この課題を乗り越えるため三村氏は「市場の立ち上げは顧客にもそれなりの投資を強いてしまう。だが、ビジネスパーソンの生産性向上や負担軽減につながる。この分野を経営アジェンダにまで高めなければならない。自身も積極的にIT投資を行う経営者になろうと決意した。(現在)よくも悪くも多くの参入企業を生み出したのは、日本で一つの市場を作り上げ、各企業のデジタル化が進んだことの証左だと思うと感慨深い」とも述べた。

 そして、同社は市場開拓に当たり、“マーケットメッセージ”と“規制緩和”に着手する。

 前者は「Concur未導入ではクラウドの波に立ち後れる」といった類のものだったが、効果的ではなかったという。三村氏は、その理由を「われわれのクライアントは最高財務責任者(CFO)。自社の業務や経営課題が解決できれば、オンプレミスもクラウドも気にしない」と説明する。そこでコンカーは、海外で一般的になっていた間接費・間接業務のデジタル化を目指す“間接費改革”を全面に押し出した。

 もう一つの規制緩和は2014年頃から政府に投げ掛けていた電子帳簿保存法の改正である。当時は電子帳簿保存法を利用する企業は少数派。それでも海外の状況を踏まえて、財務省、国税庁、政治家と活動を行い、2015年の同法改正にたどり着いた。

 クラウドソリューションに抵抗感を当初覚えていた国内企業にConcurが広まった理由として三村氏は「段階的に理解が深まっていった。大きなモメンタムがあったというよりも、世の中全体がクラウドにシフトし始めた」と当時の状況を説明する。

 ただ、Concurはグローバル製品のため、当初は日本の商習慣に合致しなかった。例えば、少額交通費の経費精算に対応していないという課題があった(現在は実装済み)。他方で「(Concurは)オープンなアーキテクチャーで実装し、API経由で多くのデータと連携できる。一番大きいのは『Suica』との連携。プラスチックのカード自体は20件程度しか履歴を保持できないが、JR東日本がデータを解放してくれたため、われわれは(サーバーから)直接データが飛んでくるので、カードを読み込む必要はない」(三村氏)と機能面の強化も着々と積み重ねていった。

 三村氏は、日本の経費精算市場および自社の事業展望について次のように語っている。「今の経費精算市場は多くのプレーヤーが参入しているため、それぞれが特色を打ち出すほかはない。例えば、大手企業にはわれわれのビジョンに共鳴してくれるところも少なくないが、中堅中小企業はコスト優先感覚が根強い。だが、中堅中小企業こそ人材不足をITで補い、社員をエンパワーする必要がある。クラウドの強みは中堅中小企業でも大手企業並みの業務品質を目指せること。諦めないでほしい。また、5年、10年間先に振り返ると、『あの頃は経費精算が面倒だった』と懐かしめるような、そんな社会を目指したい」

 また、同社はGreat Place To Work Institute Japanが選定する中規模部門(従業員100〜999人)の「働きがいのある会社」を5年連続獲得している。三村氏は最後のコメントとして、「これからの日本は働き方改革が一段落し、これからはやりがいや働きがいを目指すべきだ。われわれの取り組みが正解とは言わないが一つの事例として、世の中に発信活動しながら、働きがいに関心を持つ経営者が増えることを、祈りながら活動も行っている」とも述べた。

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