IT人材も資金も乏しい中小企業のデジタル化への道
今回は「IT人材も資金も乏しい中小企業のデジタル化への道」についてご紹介します。
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中小企業のデジタル化はなかなか進まない。経営者は「人材がいない」「予算がない」などと、人も金もないことを理由に挙げる。その一方で、ITベンダーらは「デジタル化のビジョンを描け」「デジタル人材を育成、獲得しろ」などと中小企業の経営者に発破をかける。「大企業にさえできないことを、中小企業にできるのか」と、中小企業向けグループウェアと営業支援システム(SFA)などを手掛けるNIコンサルティング 代表取締役の長尾一洋氏は理解不足を指摘する。
長尾氏によると、中小企業の課題は「当社にはできない」と、経営者の食わず嫌いにあるという。別の言い方をすれば、「ITはよく分からない」といってITベンダーに丸投げすることである。ITベンダーはそれを収益源にするので、言われた通りのITシステムを時間をかけて作り上げていく。そうして出来上がったものは、自分が思っていたイメージと異なるため、当然のことながら不満を抱く。費用も思っていた以上にかかるので投資効果を疑問視し、デジタル化に踏み出せなくなる。
そんな中小企業に参考になる事例も少ない。ペーパーレス化による業務改善や効率化の実例はあるが、そこはゴールではない。データの集約、業務プロセスの自動化などを推進するには、役員を含めた全従業員の参加が求められる。大企業にも例の少ないビジネスモデルを創出するデジタル変革(DX)はさらにその先の話になる。
それでも、長尾氏は「今こそデジタル化に取り組むべき」と、中小企業の経営者に提案する。まず「インボイス制度」(2023年10月施行)と「改正電子帳簿保存法」(2022年1月施行)をきっかけに、SFAやグループウェアなどのITツールを導入し、しっかりと使いこなす。こうしたツールを導入したら、設定をITベンダー任せにしないことだ。自ら取り組むには、経営者の決意と従業員の当事者意識が欠かせない。当事者意識の高まりは、「面倒だ」というデジタル抵抗勢力を味方にするだろう。そのため、経営者は従業員と現在の状況と将来の方向性を共有する。業績の開示はもちろん、従業員による持株会を採用するのもいいだろう。
そうした環境を整備するとともに、プログラミングをせずにシステム開発をしたり、機能を追加/修正したりできるノーコードツールも導入する。長尾氏は「ノーコードならIT人材のいない中小企業にも使いこなせる」といい、中小企業のデジタル推進のカギを握ると信じる。確かに、安価に利用できるノーコードツールは数多くあり、ウェブページの構築や日報アプリの作成などに活用できる。NIコンサルティングも月額300円で使えるツールを8年前に発売し、約1000社の中小企業が利用しているという。
NIコンサルティングは1991年3月の設立以来、グループウェアとSFAを中核に事業を展開し、合計で9000社超の中小企業などが同社ツールを利用しているという。だが、その活用度はあまり上がっておらず、「DX仕立てにした」(長尾氏)という。ここでのDXは、ゲームチェンジャーやプラットフォーマーを目指すものではない。繰り返すが、インボイス制度や改正電子帳簿保存法をきっかけにデジタル化に着手し、効率化を図っていくことだ。
その一環から、長尾氏は2022年10月に「デジタル人材がいない中小企業のためのDX入門」(角川書店)を上梓した。人工知能(AI)の導入や業務改善、顧客管理、リモートワークなどを、IT人材や予算のない中小企業でも実現できる方法を提言するもので、「手ごたえを感じている」という。2022年度の売り上げは前年同期比で2割増の約25億円を見込んでいる。
同社の販売形態は直販と間接があり、主な代理店は中小企業に強い複写機の販売会社になる。受託ソフト会社の取り扱いはほとんどなく、その理由はシステム構築を請け負う企業と「利害が衝突する」(長尾氏)からだという。手間暇がかかる割に、儲からないこともありそうだ。
では、人材も資金も乏しい中小企業のデジタル化に応えるのは誰になるのか。「救うのはノーコードしかない」と長尾氏は主張する。グループウェアやSFAから経費精算、ワークフローなどの周辺領域へと利用を広げ、ノーコードはそれらの活用度を向上させる。「デジタルを活用する世の中にし、新規顧客を現在の年間1000社から1万社に増やしたい」(同氏)。中小企業の本格的なデジタル活用の日は近づいている。