富士通と東海大学、非破壊で冷凍マグロの鮮度を評価–超音波AI活用

今回は「富士通と東海大学、非破壊で冷凍マグロの鮮度を評価–超音波AI活用」についてご紹介します。

関連ワード (ビッグデータ等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 富士通と東海大学 海洋学部水産学科 後藤慶一教授の共同研究グループは12月21日、冷凍マグロの鮮度について、超音波と人工知能(AI)を組み合わせた「超音波AI」を活用し、冷凍状態のまま非破壊で評価することに成功したと発表した。

 近年、日本食ブームなどを背景に、刺身向けなどの高品質なマグロの需要が高まっており、2020年に5万トン以上を漁獲・生産する国は15カ国に上るなど、マグロの需要が世界的に増加している。

 天然マグロの大部分は漁獲時に船上で急速冷凍され、消費者のもとへと届けられるが、その品質は漁獲時の状況や流通過程での管理に大きく左右されるという。品質の判別には、水揚げ時などに行う「尾切り選別」をはじめとする破壊的検査が主に用いられている。尾切り選別では、冷凍状態のマグロの尾を切り、その断面から脂の乗り具合や色味、鮮度を判断してランク付けを行う。

 だが、尾切り選別には熟練の技術が求められ、海外では適切な判断が難しいという。加えて、評価の範囲が尾周辺のみであることから、「良品」として購入した事業者が実際にさばいてみると、味がなく固い「こぶ」、マグロが暴れてできる打ち傷による「血栓」、柔らかい部位に生じる「身割れ」などの品質異常が見られるケースがある(図1)。

 同日開催の説明会に登壇した東海大学 海洋学部 水産学科 研究員の八木雅文氏は「このように、マグロをさばいてみるまで品質の状態は分からない。従って、非破壊的に全体を見ることができる技術が求められていた」と説明した。

 富士通は2018年から超音波AI技術に取り組んでおり、富士通 研究本部 人工知能研究所 所長の穴井宏和氏は「われわれが蓄積してきた超音波AI技術と、東海大学が持つマグロの品質に関する知見を掛け合わせることで、国際化が進むマグロの流通に信頼をもたらせるのではないか」と自信を見せる。

 非破壊検査には既にさまざまな分野で超音波検査が用いられているが、冷凍マグロなどの冷凍物では音波の減衰が大きく、一般的な超音波機器を使った検査は困難だった。そこで共同研究では、マグロの鮮度を対象に、減衰の少ない低周波数の超音波を用いて検査し、その波形を機械学習で解析することで、冷凍マグロの鮮度判定を実現した。

 研究ではまず、冷凍マグロの超音波検査に最適な超音波の周波数を調査し、500キロヘルツ程度の低周波数の超音波が最適であると判明した。次に、正常な検体と鮮度不良の検体からそれぞれ取得した超音波波形を比較したところ、鮮度不良のものから取得した波形では中骨からの反射が大きいことが判明し、その結果を用いて中骨からの反射波を用いた鮮度の判別を試みた。ただ、目視で判別できる波形だけでなく、判別が困難なものも存在する。そこで富士通の超音波AI技術を活用し、こうした波形も含めて鮮度不良の判別に取り組んだ(図2)。

 具体的には、正常と鮮度不良のマグロの輪切り検体合計10個から取得した222個の超音波波形のうち、中骨からの反射波を切り出して機械学習を実施。上記の検体に加え、正常な輪切り検体と鮮度不良のもの合計6個から取得した126個の超音波波形を用いて鮮度不良度のスコアを算出し、正常な検体の波形と鮮度不良の波形を区別できるかを検証した結果、鮮度不良度のスコアに有意差が認められた。

 また、鮮度不良スコアが作るAUC-ROCを用いて同機械学習モデルの性能を評価したところ、性能が発揮できるとされる「0.7」を超える「0.791」の値を獲得。これは約7~8割の確率で正しく判定することを意味し、従来の尾切り選別の性能と同程度だという。2022年4月1日に始まった両者の共同研究は、2023年3月31日まで実施される予定。

 説明会では、同技術のデモンストレーションも実施。品質が正常だと波形が白、異常だと赤で表示される(写真3、4)。

 同技術により、水産商社が漁師からマグロを購入する際、ハンディーターミナル形式で数カ所かざすことで全体の鮮度を容易に検査できる。また、漁港などで行われるベルトコンベアー式の検査に同技術を適用することで、冷凍マグロの鮮度について自動かつ一括での検査が可能となる。

 両者は今後、マグロの検体数を増やすことで超音波AI技術の精度向上を図るほか、血栓や腫瘍などの鮮度不良以外の異常検知にも取り組む。さらに、水産加工工場といった現場での実証実験を進めるとともに、冷凍物を扱う畜産業や医療・バイオ分野などに同技術を応用する研究を行うとしている。

COMMENTS


Recommended

TITLE
CATEGORY
DATE
拡張現実をさらに拡張する「AAR」 頭上のプロジェクターからARで見えているものを投影 :Innovative Tech
イラスト・デザイン
2021-03-13 14:03
デンソー、AI活用で社員のメンタル不調を早期発見
IT関連
2024-08-16 04:17
モバイルが盛り上がりに欠ける中、地味なMWCが閉幕
IT関連
2022-03-05 14:50
リスキリング後の昇給に前向きな企業は約7割–パーソルイノベーション「学びのコーチ」調査
IT関連
2023-03-15 03:38
PwCコンサルティング、茨城県つくば市の職員と生成AI活用に関する研究を開始
IT関連
2023-08-12 02:42
稼げるセキュリティ資格–資格試験勉強の注意点と複数資格を取得する際の考え方
IT関連
2023-11-21 18:17
Microsoft、3月29日に本社キャンパスを再開 ハイブリッドワークを常態に
企業・業界動向
2021-03-24 13:43
テレワーク実施率22% 緊急事態宣言再発令後、低水準
IT関連
2021-01-26 17:59
ディープフェイク研究の取り組みを強化するFacebook
IT関連
2021-06-17 15:35
キヤノン「EOS R3」開発発表 初の視線入力機能搭載、プロ仕様のフルサイズミラーレス
くらテク
2021-04-15 04:23
AWSが依然首位、「Microsoft Azure」と「Google Cloud」も成長–2020年Q4クラウドインフラ支出
IT関連
2021-02-05 19:02
凸版印刷、物流業務のデータを集約し運用状況を可視化–管理業務の省力化に寄与
IT関連
2023-01-25 02:27
Sansan、契約データベース「Contract One」で検索強化–図表内や手書き文字情報も検索可能に
IT関連
2024-07-03 04:24
「完璧にフィットする」──3D足計測マシンが五輪選手に好評 ぴったりのサンダルをアシックスがプレゼント :東京五輪とネット(1/2 ページ)
ネットトピック
2021-08-08 06:35