ソフトウェア企業に見る、DevOpsによる製品開発と事業展開の変化
今回は「ソフトウェア企業に見る、DevOpsによる製品開発と事業展開の変化」についてご紹介します。
関連ワード (経営等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。
本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
著名な開発者・投資家のMarc Andreessen氏が2011年に語った「ソフトウェアがあらゆる世界を飲み込む」との言葉のように、デジタルトランスフォーメーション(DX)によって近年はあらゆる産業の企業や組織がソフトウェア開発に乗り出し、変化への対応と展開スピードの観点からDevOpsを取り入れようとする動きも広がる。それに成功している企業は、DevOpsをどう実践し、定着させてきたのだろうか。
ウェブ構築や各種の機能拡張ツールを手掛けるWix.comでエンジニアリングのバイスプレジデントを務めるAviran Mordo氏は、「『開発者ファースト』のビジョンを具現化していく上で、旧式の手法を続けることに限界を感じ、文化を含めた変化の必要性に迫られた。そこでDevOpsの導入と定着に取り組んできた」と述べる。
Wix.comは2006年に創業し、イスラエルのテルアビブに本拠を構える。2022年9月末時点での事業展開先は日本を含む190カ国・地域に広がり、ウェブ開発者などのユーザーは約2億3800万人を数える。特に2014~2021年の7年間でユーザー数が約1億5000万人増加した。
DevOpsは、CI/CD(継続的なインテグレーション/デリバリー)といった手法を使うというだけでなく、組織体制や文化など有形・無形の取り組みを実践、定着させてこそ、本当の意味でそのメリットを享受していけるようになるだろう。
Mordo氏によれば、Wix.comでは、各種ソフトウェア製品の開発を担う「カンパニー」と、カンパニーの製品開発を支援する「ギルド」の2種類のチームで、DevOpsによる製品開発を実践しているという。
同社の製品は、ウェブ制作・構築では「Wix エディタ」「Editor X」「Wix ADI」、アプリケーション開発では「Velo by Wix」がある。拡張機能では、電子商取引(EC)の「Wix ストア」や予約フォームの「Wix ブッキング」、多言語化の「Wix マルチリンガル」、情報発信の「Wix ブログ」、検索エンジン最適化(SEO)機能、各種クーポン/メールマガジン発行機能のほか、フィットネス、レストラン、ホテルなど業態特化のものもある。
これらの製品ごとにカンパニーがあり、カンパニーに所属する製品開発者は、例えば、Wix ブッキングでは5~10人程度、Wix ストアで100~150人程度の規模という。一方の「ギルド」には、フロントエンドやバックエンド開発、品質保証、セキュリティ、モニタリングなど各領域の専門技術者が所属し、各カンパニーで進められる製品開発・改良の各工程を支援するほか、市場に合わせた製品のローカリゼーションなどの対応も支援している。
ユーザーは、これらの製品を単独あるいはプラットフォームとして組み合わせながら利用する。そのため、各カンパニーが担当製品を継続的かつスピーディーに進化させる開発を手掛け、ギルドはそのパイプラインが円滑に機能し、かつ、製品群全体の連携・協調などを担保する役割を担う。
Mordo氏は、「製品開発は、まずトップが年次での全体的な戦略や方向性を提示し、カンパニーではユーザーの要望も組み入れてロードマップを策定し、開発を進める。カンパニーでの開発スピードを向上させるために、ギルドが開発のボトルネックを把握してカンパニーに改善方法を提案したり、製品の品質を高めたりする支援を行ったりしている」と話す。
こうした取り組みを通じて3年前から製品開発基盤の整備も進め、DevOpsを定着化させてきたという。これにより例えば、マイクロサービスの導入・展開に要する期間を、従前の3~4週間から現在では1時間程度に短縮したとのこと。また、以前よりも多くの新しいバージョンを短い間隔で展開できるようになったという。
一般的に、開発側(Dev)ではスピード感や効率性などが優先され、運用側(Ops)では安定性や安全性などが優先される。DevとOpsで優先事項は異なるが、それぞれ対立することなく融合させていくことがDevOps定着の鍵になる。
同社でプロダクトのバイスプレジデントを務め、カンパニーとギルドの双方を所管し、製品のローカリゼーションなども担当するDavid Schwartz氏は、カンパニーとギルドという異なる役割の存在こそがDevOps実践のメリットだと説明する。
「カンパニーはユーザーを第一に考えた製品作りにフォーカスできる一方、製品群全体を見るのは難しい。ギルドは製品群全体にフォーカスでき、個々の製品の細かいところまでは難しい。また、カンパニーが(開発スピードの)アクセルを踏み、ギルドがブレーキをかけることではない。カンパニーは短期的な視点、ギルドは長期的な視点を持っている。そうした違いを併せ持っていることが重要だといえる」(Schwartz氏)
Schwartz氏によれば、カンパニーとギルドそれぞれの特徴が固定化しないよう双方の人材交流を日常的に深めるようにしている。「体制変更のような組織管理的なアプローチではなく、例えば、ある課題の解決方法を一緒に模索し議論し、検証していく、とても良い手法やノウハウを皆で共有していくといったオープンで活発なコミュニケーション、コラボレーションを日常的に行っている」(同)