第2回:ERPの「現在」をひも解く–なぜ導入に失敗したのか

今回は「第2回:ERPの「現在」をひも解く–なぜ導入に失敗したのか」についてご紹介します。

関連ワード (問題だらけのERPの過去・現在・未来、特集・解説等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 前回は統合基幹業務システム(ERP)の「過去」、特に経営層がERPに期待したことについて見てきた。今回は「現在」に視点を移し、その期待したことが実現されていないギャップについて考察を進めたいと思う。

 「結果的には、ホストと同じ機能を維持することに注力してしまい、データ活用といっても経営レベルでは従来と同じレポートを出すだけに終わってしまった。プロジェクトでは、サプライチェーン(供給網)を回す、請求書を出す、決算を処理するといった実績系を開発することで精一杯となり、最終的に工数と予算が尽きてしまった」

 「『とにかく間に合わせろ!』となって導入することが目的となってしまう。ITは手段のはずだが、いつの間にか導入が目的になっていることも多い」

 「プロジェクトの目的が崇高すぎて、理想と現実の間をつなぐガイダンスがなかった」

 これらは全てERPを導入した企業の実際の声だ。このような否定的なコメントはなかなかインターネット上でも見つけることが難しいが、ERPのユーザー企業がレポートを作成している例もある。問題を見つめる意味でぜひご一読いただくことをおすすめしたい。

 また、経済産業省の「DXレポート」においても、「我が国の場合、汎用(はんよう)パッケージを導入した場合も、自社の業務に合わせた細かいカスタマイズを行う場合が多い。この結果、多くの独自開発が組み込まれることになるため、スクラッチと同様にブラックボックス化する可能性が高い」との問題点が指摘されている。

 2000年前後はERP導入に大きく投資する企業が多かった。経営層は業務プロセス改革(BPR)の実現手段としてERPに着目した(1990年前半のBPRブーム)。また、IT部門は大型汎用機(メインフレーム)からの脱却(ダウンサイジング)や「2000年問題」(年数字2桁管理問題)への対応といったIT自体を目的としたものだった。

 この2つの目的は全く異なるものであるのだがタイミング的に混ざることが多かった。求める結果は大きく異なるが、ERPという手段は一緒。一見すると一石二鳥になるかと思えるが、結果的には二兎を追って一兎も得られないことが多かったのである。

 そして、経営層は中長期的な要求であるのに対し、IT側の要求は実務的・短期的であり、多くのプロジェクトはIT側の要求、つまり「システムの置き換え」を重視した。経営層もITの話はIT部門に任せ、プロジェクトから距離を置き、数年たって期待していた効果が実現されていなかったというのが実態であろう。

 前回取り上げた「業務の標準化」「全体最適」「可視化」「リアルタイム経営」「データに基づく経営」といった期待は、経営にとって大きな意味を持つが、現場にとってプラスがない。より率直に言えばマイナスであり、痛みを伴うものである。

 経営がERPに求めたことが実現されなかったとしてもやむを得ないところだろう。このような構造的な課題が横たわる中で、より具体的には以下で述べるような点がギャップ、つまり失敗の原因となっている。

 仮に「ERP導入プロジェクト」という名前のプロジェクトがあれば、まず失敗するだろう。プロジェクトの名前を「ERP導入」とした時点で経営が期待していることを満たすことがないからだ。「経営改革プロジェクト」やそのような類の経営のためのプロジェクト目的設定でない限り経営の期待が満たされることはない。

 BPRや経営改革など経営が求める「コト」に対してERPという「モノ」は必要だが十分ではない。ERPを目的にした段階で十分ではなく、プロジェクトで難しさに直面した際に容易に手段の目的化が起きてしまうのだ。

 経営改革や業務の標準化、全体最適、データに基づく経営などを明確な目標とした定めたプロジェクトであっても現場で骨抜きになることが多い。なぜならば現場では個々人が日々工夫と改善を重ねてきた独自の業務があり、その独自業務を支える現行システムがあるのだ。

 ERPという汎用品を使うことでシステム機能の要求実現度が下がり、結果として業務品質が下がる。これまでの努力が無駄になるのだ。だから現場で方針が歪む。「標準化」は「個別化」になり「全体最適」は「個別最適」に、「データ」ではなく「経験と勘」に基づく経営に逆戻りする。

 多くの企業で使われてきた実績のあるERPパッケージであっても汎用品である。個々の業務を支援するために不足する機能もあるだろう。

 長年の現場部門とIT部門との細やかなサービスの提供関係(現場部門からの要求を膨大なバックログを抱えながらもIT部門はシステム化してきた)から、ITシステムのサービスレベルを下げるのが難しくなっていることが多い。機能が足りないから汎用的なERPは使えないという意見も発生し得るし、機能が足りなければ原型をとどめないほどにERPをカスタマイズしてしまうことも起きる。

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