第2回:ALL STAR SAAS FUNDの湊氏が語る、「VC視点で投資したい企業」に共通する“CPM発想”

今回は「第2回:ALL STAR SAAS FUNDの湊氏が語る、「VC視点で投資したい企業」に共通する“CPM発想”」についてご紹介します。

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 米国市場の冷え込みが要因となり、2022年以降、ベンチャー投資は“冬の時代”に突入しつつある。一方で、時価総額を着実に上げている企業も存在する。そんな成長企業とそうでない企業との差はデジタル経営変革にあるだろう。

 連載の第2回では、SaaS起業家やSaaS企業に投資・支援を行うベンチャーキャピタル(VC)のALL STAR SAAS FUNDでシニアパートナーを務める湊雅之氏を対談相手に、日本企業やスタートアップの動向、課題、CPM(Corporate Performance Management)導入などについて話を聞いた(以下敬称略。聞き手:ログラス 矢納弘貴)。

矢納:数年前から「VUCAの時代」と見聞きする機会が増えました。Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をつなぎ合わせた造語で、先行きが見通せず将来の予測が困難な時代ということですが、グローバルで見てもウクライナ危機や台湾問題をはじめとして、1年前には予想もできなかったことが起きています。湊さんは昨今のグローバルトレンドをどう見ていらっしゃいますか。

湊:VUCAは冷戦終結後の1990年代から使われ始めた言葉ですが、今まさに全世界が直面している状況ですよね。日本も含めたあらゆる地域において、多方面で不確実性が高くなっています。世界的なインフレやエネルギー価格の高騰などはウクライナ危機に端を発し、中国・台湾問題も予断を許さない状況です。中国との対立を深める米国の動向も見逃せません。何か有事が起きた瞬間、ゲームのルールが激変するのは確実で、企業がリスクを予測できない中、物事が刻々と変わっていく状態といえます。

矢納:3月19日に救済合併が発表されたスイスのCredit Suisse Groupや3月10日に経営破綻した米Silicon Valley Bank(SVB)など、世界の金融市場でも激しい動きが見られました。

湊:SVBがわずか48時間で経営破綻してしまうなんて、誰も想像していなかったと思います。人やお金に関わる情報を徹底して管理できていないと、企業経営が難しい時代ではないでしょうか。さらに、ジェネレーティブAI(生成AI)を筆頭に、10年に1度あるかないかくらいのテクノロジー領域における大きな変化も今、起きています。今後、それらがさまざまなソフトウェアに影響を及ぼすことが考えられるでしょう。予期できないことが次々と起こり得る点で、リスク管理の時代と言っても過言ではないと思います。

矢納:未来予測が非常に難しく、外部環境の変化の影響を受けやすい社会になっている今、経営層はどういった姿勢でいることが求められるとお考えですか。

湊:当たり前のように聞こえるかもしれませんが、外部情報も含めた現状把握、従業員・投資家とのコミュニケーションに対し、いかに素早く対応できるかが重要です。SVBの例で言うと、破綻確定の情報を得て慌てて預金を下ろそうとしたら、引き出しできなくなっていた……では手遅れなわけです。リスクシナリオの分岐をいかに迅速に検知し、行動するかにかかってきます。

矢納:これまで経営といえば、1円の誤りもない正確な情報、言い換えると事実や過去の情報を踏まえて現状把握した上で、次のアクションを意思決定するものとされてきました。でも、今の時代はそれでは間に合わない。だからこそ、ある程度正確な情報を踏まえて、複数のシナリオパターンを迅速に作って用意しておくのが重要ということですね。

湊:おっしゃる通りです。補足すると、何かが起きてから動くのでは間に合わないので、普段からリスクシナリオを元に対応しておくことです。対応スピードの差によって、結果は大きく左右されますから。

矢納:ここまで国内外の企業や企業経営に共通するお話をいただきました。ここからはさまざまな企業を見てこられたVCとして、まずは今の日本企業(スタートアップを除く)が抱える課題についてお聞きしていきたいです。

湊:少子高齢化や労働人口減少が進んで、優秀層の争奪戦が加速しています。また、人材の流動性が少しずつ上がっている傾向が見られます。分かりやすい例で言うと、誰もが知るような新卒の就職で人気の大企業であっても、2〜3年で辞める若手が出てきています。

矢納:優秀な人材の取り合いは猛烈ですね。日本企業ならではの強みはありますか。

湊:ミドル層が力を持っている点でしょうか。比較のために挙げると、米国型、もっと言うとシリコンバレー型の企業は経営層(創業者含む)の力が強いのです。経営層の意思決定スピードが速く、それを現場に落として素早く回していくトップダウン型といえます。一方で、日本企業はミドル層が実質的な権限と強みを持つ、ボトムアップ型のケースが多い印象です。今後、ここに可能性があるのではないかと思います。

矢納:ミドル層からのボトムアップ型組織に光がある、というのは気になる話です。

湊:日本企業がトップダウンとボトムアップ双方の強みを生かしたハイブリッド型の経営をできるようになれば、欧米企業よりも強い組織を作っていけるのではと考えています。トップダウンだとマクロな変化への対応はしやすいですが、ミドル層から動いて、スピード感を持って打ち手を実行できる組織であることも重要ですからね。

矢納:両方の要素があるといいということですね。続いて日本のスタートアップについて伺っていきたいのですが、トップダウン式の経営をする企業は多いと思います。VCの視点で彼らが抱えやすい課題やそれへの対処方法があれば、ご自身の経験を交えて教えていただきたいです。

湊:トップダウン“だけ”で止まっているスタートアップは意外と多いです。例えば、経営者が「年間1万社の新規顧客を獲得します」といった数値計画を私たちVCに提出したとします。意気込みは素晴らしいですが、ボトムアップで毎月約800社の契約を獲得していく、それだけのリードソース(見込み客の獲得方法や獲得元)を取っていくのは、果たして現実的なのかという話です。

矢納:「どうやるか(How)」のところが抜け落ちていますね。

湊:「人」についても考えられていません。果たして、その計画を実行するメンバーがいるのか、人が足りているのかということです。実現可能性を検証し、野心的な目標と現実を照らし合わせ、両者をどうやって近づけていくかを考える必要があります。投資先でもトップダウンで計画を作るものの、現場の足腰が整っていなくて、計画の修正を2回くらい行う……といったケースは珍しくありません。気合いと根性だけの経営には危うさがあるのです。

矢納:高い目線を持って計画を立てるのも大切ですが、投資判断をする側は受注率やリードタイム、CVR(コンバージョン率)などのデータまで落とし込んだ計画を重要視している、ということですね。加えて、経営層は現場のリアルな状況を踏まえ、彼らと十分に連携した上で計画を作る必要があると。数年前はいわゆるサプライズ決算が時価総額を押し上げる一因になっていましたが、直近の動向を見ていると、野心的な目標に対し実現性の高いストーリーを描くことこそが、時価総額の押し上げに効いているのを感じます。

湊:近年流行りの人的資本経営にも通ずるところがあります。計画だけではなく、人が大きなドライバーになっています。人的資本経営が事業計画・事業戦略とどうつながっているのか、機関投資家は深いレイヤーで見ています。「現場が実行に移せることを施策として打っているか」が肝になるのです。

矢納:一方で、ボトムアップが行き過ぎると、現実的な動きの積み重ねばかりで、未来を感じづらくなり、現場が疲弊することも考えられます。湊さんの言葉を少しお借りすると、トップダウンとボトムアップ両方がバランス良く回るのが重要ということですね。

湊:その通りです。経営層と現場が一方的ではなく、いかに双方向でコミュニケーションできているかがカギになると思います。

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