IT部門が抱えるSaaS管理の課題を解決–「SaaSポートフォリオ最適化プロジェクト」の手法とは(後編)
今回は「IT部門が抱えるSaaS管理の課題を解決–「SaaSポートフォリオ最適化プロジェクト」の手法とは(後編)」についてご紹介します。
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本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
企業内でSaaSの導入が進む中、IT部門ではツールやアカウントの管理工数の増加、セキュリティリスクの拡大、コストの上昇といった課題が発生しています。前編では、「SaaSポートフォリオの最適化」をするためのプロジェクトのプロセスをご紹介しました。後編では、プロジェクトを進める上でのポイントや、プロジェクトを経て見つかった新たな課題、さらに進化を続けるSaaS管理ツールに触れながら、SaaS管理の未来について解説します。
SaaS管理に課題感はあるもののまだ何も着手できていない、取り組みたいけれどノウハウがない、という場合は、まずメンバーを固めるところから始めるのが良いと思います。人員が足りない、スキルを持った人材がいない、そもそもIT部門がない、というケースでも取り組みは可能だと思います。
当社の「SaaS Managementチーム」でメインに動いていたのもITエンジニアではなく、過去に総務を担当していたメンバーでした。役職を問わず当事者意識をもって取り組むメンバーがいることがまず重要です。
振り返ると、前編で紹介したロードマップの2番目のステップである「現状把握」が重要でした。現状を把握して可視化した途端、TODOが見えました。逆に、現状が掴めないままでは何をして良いかのめどが立たず、場合によっては意味のないことをやってしまいかねないと思います。
そして、従業員とのコミュニケーションも重要です。事業部が管理しているSaaSについて、ログなどを参照しても利用実態が掴めない場合は、SaaSの管理者とコミュニケーションを取り、状況によってはアカウントやツールの削除を依頼する必要があります。その際、事業部から「IT部門が何か面倒なことを言ってきた」と思われないためにも、IT部門と事業部が課題感とゴールを共有している必要があります。
具体的には、協力するメリットを理解してもらえるよう、コストの最適化やセキュリティレベルの向上といった得られる成果をしっかり伝えることです。取り組みによって、事業部で負担しているSaaSのコストも下げられることを理解してもらい、IT部門に協力したくなるようなコミュニケーションをとるよう意識して動きました。
さて、プロジェクトを一通り終えて分かったことは、「SaaS管理は一回やって終わりではない」ということです。今後も新しいSaaSの登場やメンバーの退職、会社の方針転換や利用するSaaSのトレンドなど、状況は日々変わっていきます。
同時に、この先の新たな課題も見えてきました。それは、「SaaSポートフォリオを最適化し続けること」と「セキュリティレベルのさらなる向上」です。事業部のビジネスに最大限貢献するため、事業部にとってユーザー体験(UX)やコストパフォーマンスが悪いSaaSや、古くなったSaaSをリプレイスする、同じカテゴリーや機能のSaaSを統合するなどの動きが必要です。また、セキュリティレベルを向上させるには、外部共有機能のあるSaaSの共有範囲を管理し、ゲスト管理を厳格化する必要があります。
こうした業務には、SaaSについて深い知識をもったメンバーが必要です。当社ではチームの一人を「SaaSソムリエ」に任命しました。SaaSの選定や利用方法を全社に発信・案内できる存在になれるよう努めています。SaaSソムリエは、社内で使われるSaaSの機能やプラン、業務への適合具合、管理方法などをひたすら調べ、必要があればツールを統合します。事業部が新規SaaSを導入する際には相談窓口としての役割も担っています。また、セキュリティ強化の対象となるSaaSのリストアップや機能・状況設定の調査、注意事項の整理、CASB(キャスビー)連携、ゲスト管理の厳格化を各SaaS管理者と連携して実施し、セキュリティレベルの向上にも努めています。
このように、「SaaSプラットフォームの最適化」は今後も続いていくプロジェクトですが、前編で解説した「SaaS for SaaS」の存在は大きいと感じています。
「現状把握」のフェーズで作成に膨大な工数がかかった「SaaSカタログ」ですが、今後も手作業で更新を続けていくにはどうしても限界があります。社内で新たなSaaSが追加されたり、使われなくなったりするたびに更新をしなければなりません。
当社では同カタログの2回目の更新から、「マネーフォワード Admina」を活用することで8万件あるSaaSデータベースと会計ソフトのデータを連携し、どのSaaSが使用されているのかが請求データから自動で分かるようにしました。
また、Adminaの「Chrome Extension」を社員に配り、どの社員がどのSaaSにアクセスしているかのログを取りました。そのログとAdminaのSaaSデータベースとをマッチングさせ、無料SaaSの検出やSaaSの利用状況をバイネーム、かつリアルタイムで洗い出すことができました。
会計データや「Chrome」との連携機能は、プロジェクトの最中に開発されて備わった機能でした。今後もSaaS管理ツールがどんどん進化していくことに期待しています。
それに、今注目の「ChatGPT」などの生成AIの機能が数多くのSaaSに搭載され始めています。当社も早い段階で社内の利用ガイドラインを作成して活用を始めていますし、現にAdminaも2023年6月にChatGPT APIを活用した新機能「Admina AI」をリリースしました。当社に限らず、今後あらゆるSaaS管理ツールがテクノロジーを取り入れて進化し、さらに業務が楽になることが期待されます。
同時に、ツールの進化によって、ITリテラシーが高くない人でも主体的にSaaS管理に取り組める環境も整ってきていると感じます。こうしたツールの存在は、現場とのコミュニケーションコストや作業負担を軽減し、IT部門への協力を後押しすると考えています。
さらに、SaaS管理ツールは、特定の部門や一部の組織のみで利用することも可能です。IT部門があまりSaaS管理に積極的でない会社の場合も、まず特定の部署のSaaSを管理するために導入できる、というのもメリットではないでしょうか。
「SaaSポートフォリオ最適化プロジェクト」の最終的なゴールは、「会社全体でITに対する投資対効果を高めること」であると思います。限られたコストをどこに投資し、次にどのようなアクションを取ればよいかを突き詰め、ビジネスに貢献することが、我々が思い描いているゴールです。当社は今後も挑戦を続けていきます。