グリッド、「社会インフラ特化型SaaS」に新機能–多様な業界でエネルギー最適化など支援

今回は「グリッド、「社会インフラ特化型SaaS」に新機能–多様な業界でエネルギー最適化など支援」についてご紹介します。

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 グリッドは6月12日、社会インフラ特化型SaaSの「ReNom APPS for Industry SaaS」の電力オペレーションを最適化する「ReNom Power」で3つの新機能を発表した。これにより、大手電力会社の運転業務を支援するだけでなく、電力を活用する化学メーカーや新電力などにも対象を広げられ、幅広い企業でエネルギーの最適化や二酸化炭素(CO2)の削減に貢献できるとしている。

 新機能の1つ目は、石炭燃料調達後の受入工程における貯炭場受払計画の自動化および最適化を行うものだ。化学メーカーでは、化学品などを生産するプラントを稼働させるために、電力や蒸気などを供給する用役設備を通じて、需要に合わせた運転計画を立案している。だが、買電単価や各種燃料単価の変動、各種設備の制約条件も考慮するために複雑な計算が求められ、計画策定に多くの時間を費やしているという。

 この新機能は、これまで大手電力会社への導入実績があるAIアルゴリズムを採用する。ビジネスルールや物理法則などを活用したデジタルツインと融合し、化学メーカーに特化した用役設備の運転計画の自動化、最適化ソリューションとして提供する。

 具体的には、デジタルツインにより、用役設備や周辺機器に関するキャパシティーを緻密に再現するほか、蒸気や電気の需要量、各種燃料の単価に加えて、発電機の出力特性、プラント設備の制約、燃料別の供給制約などの制約条件を反映しながら、AIが調達計画を計算する。利用者は、必要となるデータや制約条件などを登録し、AI運転計画をワンクリック操作で実行すると、AIが立案した運転計画が出力される。

 グリッド コンサルティング部の橋場優氏は、「用役設備は電力、蒸気、水、空気、窒素といった用役を扱う設備で、インフラを支えるインフラといえる。特に電力や蒸気は、ボイラーやガスタービン、蒸気タービン、発電機など大掛かりな設備が必要で、調達コストの改善や計測作成業務の自動化や高速化が求められている。新機能により価格変動に合わせた計画や燃料在庫を考慮した燃料選択、デマンド変動に合わせた計画を立案できる」と説明した。

 年間10億円規模の燃料コストが発生する化学メーカーなどが対象で、用役設備運転計画を最適化することで年間約1~3%のコスト改善効果を見込めるほか、1カ月分の運転計画作成に1日程度を要していた計画立案業務を自動化で数分規模にまで短縮できるという。

 既に化学メーカーから引き合いがあり、今後は化学プラントを持つ石油、製鉄、セメント、製紙などの業界にも対象を拡大していく。ReNom Powerは、これまで大手電力会社が対象だったため顧客は約10社に限られたが、これを2桁後半の規模にまでを広げられる。

 2つ目の新機能は、電力業界を対象とした、石炭燃料調達後の受入工程における「貯炭場受払計画」を自動化および最適化する機能になる。海外輸入する石炭種は、品質の良いほかの石炭と混焼する必要があり、在庫量や発電量に合わせて最適な組み合わせが求められる。新機能はこれを自動的に計算する。石炭は、電力会社にもよるが、2~3種類の石炭を組み合わせて混焼することになるという。

 また、貯炭場に適切な空きスペースがない場合は、石炭輸送船が滞船してコスト増に直結するため、最適化する必要があるという。この新機能では、3カ月先までの調達計画を基に膨大な組み合わせの中から、コストを削減しつつ安定的に電力を供給できるように、混焼する石炭の組み合わせを算出して、輸送された石炭の保管場所を計画する。業務効率化に加え、滞船日数の削減や安定した石炭運用の実現に貢献するという。

 グリッド エンジニアリング部長の梅田龍介氏は、「石炭火力発電所を持つ電力会社が対象。混焼時は、大気汚染防止などの理由から基準を超えない範囲で異なる石炭種を組み合わせなくてはならない。安定的に運用するには、石炭の種類と量を適切に確保し、組み合わせに必要な石炭がなく混焼できない事態を回避しなくてはならない。また、輸送船やバースのスケジュール、貯炭場スペースなどの条件を組み合わせて最適な運用をする必要があり、新機能でこれらの計画を自動的に策定できる」とする。

 これにより例えば、3カ月分の運転計画の作成に要する時間を1日程度から10分程度に短縮したり、各石炭の払い出しや受け払いのバランスを可視化したりすることで、計画の正しさを評価し、船や発電所、現場のトラブルが発生する度に行う計画更新の負担を軽減する。日々の状況変化を基にAIが何度も計画を立案し、頻繁な変更にも随時対応できるという。

 3つ目の新機能は、小売電気事業者を対象にした電力調達計画立案の自動化および最適化になる。小売電気事業者の電力調達の方法は、日々価格が変動する「市場からの調達」と、固定価格で電力を確保する「発電事業者からの相対調達」に大別される。変動する需要を満たす電力を確保するには、市場調達と相対調達のバランスを調節して調達コストを最小化することが重要になり、新機能は、正確な需要予測と市場価格の予測、相対契約による単価や購入量の制約などを考慮した複雑な計算を自動化し、最適化できるという。

 梅田氏は、「小売電気事業者の営業費用の多くを購入電力費が占めており、調達コストの削減が鍵になる。また調達に際し、需要計画、スポット市場価格実績や価格予測、相対契約による制約、電源の停止状況を踏まえた計画立案が必要で、考慮すべき事柄が多く、それらが常に変動するため、コストを最適化した計画策定が難しい。新機能は、変動する需要を満たしながら、電力量を最小コストで調達できるようになる。大規模小売企業であれば、億単位で削減効果を見込める」とした。

 グリッドが展開するReNom APPS for Industry SaaSは、電力業界向けの「ReNom Power」のほか、海運業界向けの「ReNom Vessel」、サプライチェーン関連企業や上場企業の経営面での意思決定を支援する「ReNom VALUAITON」、社会インフラ現場における業務DXを支援する「ReNom Doc」で構成され、同社はオペレーション最適化を実現する「社会インフラ特化型SaaS」と位置づけている。

 ReNom APPS for Industry SaaSでは、組み合わせが10の1000乗に達すると言われる社会インフラの計画立案に関わる複雑な業務をAIにより自動化する。利益の最大化や計画時間の削減、CO2排出量削減に貢献するとし、梅田氏は「社会インフラのオペレーションを最適化するインダストリークラウドとして、展開していく」としたほか、「ReNom Powerでは、既に発表している発電計画、需給計画の最適化に今回発表した新機能の燃料受入や貯蔵を加えたが、今後は燃料調達の領域にまで機能を拡張し、カバーできる範囲を広げたい。燃料調達の部分については、まずはプロジェクトを開始し、2024年度以降に製品化していきたい」と語った。

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