SAPのAIトップに聞く「ビジネスAI」–将来は自然言語がERPのインターフェースに
今回は「SAPのAIトップに聞く「ビジネスAI」–将来は自然言語がERPのインターフェースに」についてご紹介します。
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本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
ビジネスアプリケーション大手のSAPが、「ビジネスAI」として生成AIなどAI活用に本腰を入れる。5月に開催した年次イベント「Sapphire」では、「SuccessFactors」に生成AIを組み合わせたソリューションを披露するなど生成AIだけで多数の組み込みを発表した。
製品へのAI適用を受け持つのが「Central AI」だ。Central AIを率いるシニアバイスプレジデント兼AIグローバルヘッドのFei Yu Xu博士と、AI担当最高執行責任者(COO)のAndre Kombal氏に同社が進めるAIについて聞いた。
–SAPはいつ、どのような目的でCentral AIを立ち上げたのでしょうか。Central AIの役割についても教えてください。
Xu博士:Central AIは、SAPのAI部門であり、SAPの「Innovation Center Network」内で2015~2016年ごろに立ち上がりました。当時は「機械学習部門」と呼ばれており、研究開発、概念実証(PoC)、デモンストレーションなどが活動の中心でした。
私は、2020年にSAPに加わり、AI部門を再編しました。既に機械学習だけでなく、ほかの技術もあり、これらを製品にどう組み合わせるかを強化しました。AIの活用には、データサイエンス、ナレッジグラフ、さまざまなツールが必要であり、包括的に管理する必要があるからです。
私はAI担当グローバルトップとして、SAPのAI戦略全体を統括しています。同時に、Central AIも見ています。Central AIチームには、大きく2つの役割があります。
1つ目は推進で、AI活用によるSAPのトランスフォーメーションを推進することです。2つ目はイネーブル(enable)で、製品、マーケティング、セールス、プロダクトなどSAPの各チームがAIを活用できるようにすることです。ここで、AI技術が再利用可能であることが重要です。また、パートナー技術を利用できるように交渉を含めたやりとりも行います。Central AIチームのほか、各ラボ(研究所)にもAI専門家やデータサイエンティストがいます。
Kombal氏:AIのCOOとして、Central AIチームの戦略に責任を持っています。社内のコミュニケーションと予算ポートフォリオも受け持っています。
–SAPにおける製品へのAI活用の現状を教えてください。
Xu博士:SAPには、既に130以上のAIシナリオをソリューションポートフォリオに組み込んでいます。また、「SAP Business Technology Platform」では、「SAP AI Business Services」「SAP AI Core」などを提供しています。AIベースの機能を使うSAPのクラウド顧客は、既に数万人規模に達しています。
Sapphireでは、生成AIを「SAP Signavio Process Manager」のProcess AIに組み込んだり、「SAP Analytics Cloud」に組み込んだ「Just Ask」などを発表したりしています。
–SAPはAIを「組み込む」戦略とのことですが、製品開発チームとの連携について教えてください。
Xu博士:われわれのチームには400人がいます、製品開発チームとは毎日協業しています。製品チームは製品のオーナーであり、標準技術や専門知識を持っています。顧客のニーズを把握しているのも製品チームです。
われわれCentral AIチームは、イネーブルの部分で支援します。そのため製品チームとは、アイデア出しの段階から関わっています。製品にAIを組み込むために、パートナーの技術を製品チームが使えるように準備したり、トレーニング、推論などのためのプラットフォームを用意したり、必要なデータへのアクセスの部分を手伝います。法務部門とのやりとりが入ることもあります。
–Sapphireで生成AIにおいてMicrosoftと提携し、「Azure OpenAI」や「Microsoft AI Copilot 」をSuccessFactorsに組み込むことを発表しました。AIにおけるパートナー戦略について教えてください。
Xu博士:方針として、大規模言語モデル(LLM)については、オープンソースの汎用のLLMのエコシステムがありこれを活用します。SAPが進めるのは「ビジネスAI」で、アプリケーション主導のテクノロジーです。
SAPはファイナンス、支出管理、CRM(顧客関係管理)など、ビジネスプロセスのためのAIが組み込まれたアプリケーションを提供します。オープンソースの汎用のLLMだけでは不十分で、プロンプトエンジニアリング、組み込み、ファインチューニングなどをSAPが行いました。
SAPは、生成AIだけでなく特定型AIも活用します。ビジネスドキュメント、請求書、受注伝票などの処理でAIを利用するためには、精度と品質が高いことが必須です。ここはSAPのビジネスドキュメント処理技術を利用しており、多言語対応のために生成AIを用います。汎用のAI技術は、まだ時系列データ、構造化データを利用した予測が難しいため、ここはSAPが内部で進めています。
パートナーではMicrosoft、IBMなどと提携しています。この分野は動きが早く、今後もオープンな提携を模索します。ビッグデータ技術でも、DatabricksやDataRobotなどと提携しています。つまり、SAPはオープンな提携戦略を進めます。
–SAPユーザーがAIを活用できるために、SAPが注意していることがあれば教えてください。
Xu博士:簡単にメリットを享受するためには、デザインは重要です。SAPには最高デザイン責任者がおり、デザインチームがあります。SAPはデザインシンキングを積極に取り入れています。まだまだ改善の余地はありますが、使いやすさの取り組みを重視しています。
Kombal氏:SAP Concurは、最も使いやすいAI資産といえます。注釈、実装など技術的な作業を必要とせずに、AIのメリットを享受できます。一般的に、Concurのようなクラウドで提供されるSaaSは、大きな技術的作業を必要としません。
–Central AIチームは今後どのような分野にフォーカスしますか。
Xu博士:われわれのミッションは、顧客がインテリジェンスを活用できるトランスフォーメーションに寄与することです。サプライチェーンをもっと回復力のあるものにしたいですし、サステナビリティー(持続可能性)の取り組みにも貢献したいですね。その全てにおいて、AIは何らかの役割を果たすと考えています。
既に生成AIは、80以上のユースケースに取り組みました。今後は文書の作成支援、サポートのQ&A、開発者のコード生成支援、ビジネスドキュメントなどでの活用をさらに進めていき、全てのソフトウェアで、インターフェースとしての自然言語が利用できるための作業も進めます。
まずは「SAP Start」で導入し、その後拡大します。次世代のERPに向けた準備を進めます。