CX向上の鍵は「購入前の関心データ」–AWSで進める“ビックカメラ流DX”

今回は「CX向上の鍵は「購入前の関心データ」–AWSで進める“ビックカメラ流DX”」についてご紹介します。

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 アマゾン ウェブ サービス ジャパン(AWSジャパン)は6月26日に説明会を開催し、日本独自のクラウド移行サービス「ITトランスフォーメーションパッケージ」(ITXパッケージ)の最新版を解説するとともに、同プログラムを活用したビックカメラにおけるDXの取り組みを紹介した。

 ITXパッケージは、顧客のクラウド移行を計画段階から支援するサービス。AWSジャパンは2021年4月にITXパッケージを独自に開発し、2022年3月には二酸化炭素(CO2)の排出削減、同社のカスタマーサクセスマネージャー(CSM)によりクラウド推進体制(CCoE)の構築を支援する機能を拡充した「ITXパッケージ 2.0」を発表。そして2023年4月、顧客の多様なクラウドジャーニーを支援する「ITXパッケージ 2023 ファミリー」を発表した。ITXパッケージは現在、170社以上が利用している。

 最新版のITXパッケージ 2023 ファミリーは、(1)従来のクラウドリフト&シフトサービスを提供する「ITX for Cloud First」、(2)アプリケーションのクラウドネイティブ化を伴う移行を支援する「ITX Cloud Native」、(3)パートナー企業のプログラムと組み合わせて提供する「ITX for MCP Partner」、(4)中小規模の顧客における移行を支援する「ITX Lite」――の4本柱で構成されている。

 クラウドジャーニーでは「リロケート」「リホスト」「クラウドネイティブ」の3段階があり、ITXパッケージではオンプレミス/他社クラウドからクラウドネイティブへ一気に移行する「1ステップ」、リホストを経てクラウドネイティブへ移行する「2ステップ」を用意している(図1)。説明会に登壇した執行役員 事業開発統括本部長の佐藤有紀子氏は「どちらが優れているということはなく、お客さまのロードマップやリソースに応じて選択してもらいたい」と説明した。

 ビックカメラ 執行役員デジタル戦略部長 兼 ビックデジタルファーム 代表取締役社長の野原昌崇氏は、家電小売業市場の特徴を説明。高機能な製品を手がける家電メーカー、全国に店舗を有する家電小売店はそれぞれ寡占状態にあり、「複合寡占」と呼ばれるという。

 ホームセンターやドラッグストアの商品は消耗品かつ生活必需品であるのに対し、家電小売業の商品は単価が高く買い換え期間が長い耐久消費財で、消費者は機能やブランドにこだわって購買する。

 「極端な言い方をすると、われわれには購買履歴データベースが役に立たない」と野原氏。「ホームセンターやドラッグストアの商品は消耗品なので新商品を手軽にトライでき、購買履歴データベースから同カテゴリーの新商品をレコメンドすれば足りるだろう。一方、われわれの商品は耐久消費財である分失敗できず、機能の充足性が重要となる。有機ELテレビを好むお客さまも毎年買うわけではないので、購買履歴データを見ても後手を踏んでしまう」(野原氏)

 ビックカメラは顧客を中心に据え、ビジネスを再構築するためにDXの必要性を認識。従来は全ての消費者に同じ販売促進をしていたが、今後は「去年有機ELテレビを購入した顧客は今年何が欲しいのか」などと一人一人を理解して販促することが必要となる。「今までは散発的な関係だったが、これからはお客さまといかに長期的な関係を結ぶのかがポイントとなる」と野原氏は述べた。

 ビックカメラは2022年6月、「お客さま喜ばせ業」の深化に向けてDXを宣言し、AWSのクラウドサービスを全面的に採用した。同社はAWSを最大限活用してシステムを内製化することで、OMO(オンラインとオフラインの融合)と基幹システムのモダナイゼーションを図る。これにより、コスト削減と事業の俊敏性向上を目指す。

 同社のOMO戦略では、例えば次のような購買フローを描いている(図2)。まず、専用アプリの全地球測位システム(GPS)が会員の来店を認識し、ビーコンで導線を把握して関心のありそうなクーポンを配信する。会員がアプリの「接客リクエストボタン」をタップすると「ロイヤルカスタマー担当」など彼らの属性に合ったスタッフが対応する。レジは混雑が予想されるため、会計は店内からECで注文可能。商品は物流倉庫から即日出荷され、翌日午前中に「置き配」で到着する。

 この購買フローでは、会計・商品配送の情報を購買履歴データベースで収集するが、その前段階である来店・接客時の情報は「購入前関心データベース」で集める。同フローはあくまでも仮説だが、「クラウドだからこそ新しい取り組みをアジャイルに検証できる」と野原氏は評価する。

 基幹システムのモダナイゼーションでは、2023年秋にAWSへのリフト完了を予定しており、その上でクラウドネイティブアーキテクチャーへの変身を図る。As-Is(現状)ではオンプレミス上で基幹システムを稼働させており、To-Be(目指す姿)では同システムをAWS上に移行する(図3)。

 そして基幹システムの対応範囲を縮小し、物流など顧客体験(CX)の要となる領域に関しては、クラウドネイティブアーキテクチャーのもとアジリティー(俊敏性)の向上を目指す。プロセスについて野原氏は「1ステップで進めたかったが、大きなシステムを一気に変革するのはコストの先が見えないため、2ステップを選択した」と説明した。

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