リテールメディア戦略で実店舗を軸とするWalmart–米国に見るトレンド
今回は「リテールメディア戦略で実店舗を軸とするWalmart–米国に見るトレンド」についてご紹介します。
関連ワード (マーケティング、リテールテック最前線等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。
本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
本連載では、エッジAI基盤「Actcast」を展開するIdein 代表取締役/CEO(最高経営責任者)の中村晃一氏が、米国小売市場の最新動向を見定めるとともに、自社のエッジAIの活用事例を解説する(連載第1回)。
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日本の小売市場ではここへきて、店舗のデジタルサイネージをはじめとした「リテールメディア」が盛り上がっているが、本場・米国は果たしてどのような状況か。特に、リアル/オンラインを統合して販売を行う「オムニチャネル」が進む中で、激しい争いを繰り広げるWalmartとAmazonの動向は知りたいところだ。同時に、日本企業はこれからどんな手を打てば良いのだろうか。
そこで話を聞いたのが、リテールテックスタートアップのNuRetail ファウンダー 兼 代表取締役CEOの飯田健作氏。同氏はウォルマートジャパン(現西友)やウォルト・ディズニー・ジャパンに身を置き、小売業界を網羅的に把握している。私・中村との対談を通して、世界の小売市場の現状、リテールメディアの可能性、日本企業がこれから取るべき方策を語ってもらう。
中村:飯田さんは、米国をはじめとした先進国の小売市場の現在についてどう捉えていますか。例えば米Walmartは、最近話題のリテールメディアの広告費を発表し、他社も追随する動きが広がっているようです。
飯田氏(以下、敬称略):小売市場の規模は全世界で3000兆円と言われますが、その市場のトレンドを作っているのはWalmartです。資金も規模も戦略性も実行力も桁違いで、常に新しいことを大々的に行っています。この企業がリテールメディアに力を入れるとなると、世界のトレンドになっていく可能性が高いです。
Walmartがリードし、世界中の小売企業が追随していくのが近代の流れです。同社は新しいモデルを作るのが極めて早く、他社は自分たちでゼロから試みるより、先行するWalmartの成功モデルから学んだ方が競争を勝ち抜きやすいという側面が多分にあると思います。
中村:逆に言えば、Walmartの動向をしっかり見ていれば、小売市場の未来予測もできると言えそうですね。その中で、米国におけるリテールメディアの期待度はどれほどなのでしょうか。
飯田:高いことは間違いないと思います。リテールメディアによって販売を促進できれば、小売業者や商品を作るメーカーの売上増につながる。さらに、それ以外の第三者にメディアを開放すれば、小売業者には新たな広告収入が入ってくる。要はそのメディアを見て行動を起こす人がどれだけ増えるかであり、良い結果が出れば期待値は増すでしょう。
リテールメディアと言うと店舗のデジタルサイネージからECの広告まで幅広いですが、Walmartはあくまで「物販や実店舗の利益を上げる手段」と考えているのではないでしょうか。実店舗におけるリテールメディア活用が主軸のはずです。
なぜなら、同社の店舗は全米にくまなく点在しており、ECと比較して店舗ネットワークの価値、来店客との接触頻度の高さ・強さが再認識されています。消費者は近隣に店舗があるので、ECで購入して商品の到着を待つより、買いに行った方が早い。24時間営業が基本で、商品点数も非常に多い。
ECでは、集客が容易である一方、コンバージョンレート(CVR:訪問者のうち、購入などの最終成果に至った件数の割合)は低いです。しかし、購入率が高い実店舗とのオムニチャネルを展開すれば、たとえECで買われなくてもその後の来店時に再度購買のチャンスを作る「二毛作」を展開できます。だからこそリアルは重要であり、同社が進めるオムニチャネルやリテールメディアも、あくまで実店舗を軸としていると考えています。
中村:AmazonはECから出発し、最近はリアルにも乗り出しています。Walmartにとって最大の競合と思えるのですが、両社の競争をどう見ていますか。
飯田:Amazonは、先述した「ECの限界」「オムニチャネルの可能性」を感じて米スーパーマーケットのWhole Foods Marketを買収したと見ていますが、店舗運営のノウハウはまだ少ないです。となると、小売市場に関してはWalmartに分があると思っています。
中村:ECが伸びてきた時、実店舗が残るか、オンラインに置き換わるかという話がありましたが、実店舗の価値が高いということですね。
飯田:そうです。例えば、高級ブランドのように商品を直接確認したいものや、Disneylandのように体験を中心とした小売業では当然リアルが強くなります。食品や日用品はECでも十分なのですが、こうした商材は今すぐ欲しいことも多い。住んでいる国や地域にもよりますが、ECは届くまでに1~2日かかるので、車で10分の場所に店舗があるのなら買いに行った方が早いですよね。それをかなえる店舗網をWalmartは持っているのです。