富士フイルムがDX戦略で注力する「プラットフォーム指向」と「現場主導」
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富士フイルムは11月28日、自社のDX戦略に関する記者説明会を開催した。2026年までに現場主導のデータ活用を浸透させ実務を迅速化するほか、2030年度にはデータ連携の範囲拡大と人工知能(AI)によるデータ活用の高度化を目指している。
同社は、デジタル化による写真フィルムの需要減に伴い、本業であるイメージング事業の危機から脱出するため、2000年代以降は大幅な事業転換を進めてきた。これにより収益構造は大きく改善し、今後は多角的なデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進していく。
同社の2000年度の事業ポートフォリオはイメージング(54%)、マテリアルズ(34%)、ヘルスケア(12%)で合計1兆4403億円だった。これが2022年度にはイメージング(15%)、マテリアルズ(24%)と低下し、ヘルスケアが32%と上昇したほか、新たにビジネスイノベーションが29%を占めるようになり、合計2兆8590億円となった。
同社のビジネスモデルが変革した背景には「プラットフォーム指向」がある。執行役員 CDO/ICT戦略部長の杉本征剛氏は、「自社単独で開発した特定用途向けの専用機能を垂直統合するコンポーネント型開発から、自社・他社開発の共通機能を柔軟に組み合わせて多様な用途を実現するプラットフォーム型開発へと進化させたことが大きい」と話す。
「急速なデジタル化の進展に備えるためには高度な知識と労働集約型の画像処理ソフトウェア開発を個別に行っていては、スピードと競争力で他者に太刀打ちできる可能性が極めて低い。そこで各現場でもブロック玩具のように、共通部品の上に事業現場の個別ニーズに対応した個別部品を開発するだけで製品やサービスを低コストで提供できるプラットフォーム型開発への移行と各事業製品への導入を推進した」(杉本氏)。これにより、DXに対する取り組みの基盤が培われたという。
具体的な実装例としては、経営情報システムの「One-Data」がある。グループ全体の重要業績評価指標(KPI)や各社の統合基幹業務システム(ERP)をクラウド上で共有化し、経営判断に生かすソリューションだ。現時点では連結管理システムと各社ERPの結合と経営レポートの生成にとどまっているが、今後は顧客関係管理(CRM)による販売予測、需給データを踏まえた製造情報などを従業員が自ら作成するセルフサービス型ビジネスインテリジェンス(BI)や他基盤のDXソリューションを通じて、AIによって経営判断や業務支援などデータ活用の段階を押し上げる予定である。
もう一つは「マテリアルズインフォマティクス」(MI)で、大量のデータを分析し、新しい材料の設計や性能予測を実行する基盤となる。従来の材料開発は試行錯誤や従業員の経験に基づく方法で実施してきたが、MIを整備することで24時間の分析実行が可能になり、開発期間の短縮やコスト削減、未知の化合物の発見につながるという。
杉本氏は「(クラウドコンピューティングを用いた計算と)MIは一線を画す。当社が長年培った熟練の知識と独自アルゴリズムをプログラムに組み込み、有望な化合物や複合材料を厳選した工法材料を対象にするよう工夫している」と長所を強調。既に3倍の熱物性値を持つ新たな半導体材料の候補を発見し、今後の有用性に自信のほどを示した。同社はMI人材の育成にも着手し、インターンから新規卒業者、材料研究者までの教育プログラムを用意している。
最後はデータ基盤となる「デジタルトラストプラットフォーム」(DTPF)。データ提供者の信任を得るためのブロックチェーンや個人情報を保障するマスキングなどを組み合わせ、医療の診断データやAI分析を国際的に実施する基盤である。自社の「富士フイルムメディテラスよこはま」を手始めに、2022年7月にはがん検診を中心とした健診センター「NURA(ニューラ)」2拠点をインドに新設、2023年9月にモンゴルで1拠点を新設し、基盤の有用性を証明してきた。
DTPFはヘルスケア分野にとどまらず、在庫管理の最適化など多様な場面に利用できるが、「現実世界でグローバルサプライチェーンに参加する各企業や個人による個別の活動情報を既存システムの枠を超えてDTPF上で共有し連携」(杉本氏)できるという。2023年度中にはイメージング事業やマテリアルズ事業で多くの需要を踏まえ、「2024年度からはセンサーシステムやIoTからのデータ取得を予定しており、2025年度はスマートコントラクトの検証も行う。2026年度は分散型自律組織(DAO)を踏まえたオープンな基盤に発展させていく」(同氏)
さらに富士フイルムの知見を生かして医師の画像診断を支援する「SYNAPSE Creative Space」もアピールした。杉本氏は「画像診断支援AIの開発には大きく3つのハードルがある。1つ目は高度な光学的知識の必要性、2つ目は高性能なサーバーと開発環境整備の高負荷、3つ目は画像への注釈付与の作業負担である。SYNAPSE Creative Spaceは画像診断支援AIの開発をオールインワンでサポートするプラットフォームになる。工学的な知識がなくても実行できる」と説明する。
国内の医療機関でも脳腫瘍が疑われる領域の分割化や、突発性正常圧水頭症の画像診断支援に用いられてきた。現在はベータ版だが、2023年度中の正式リリースを予定している。