IT系コミュニティをタダ飯狙いの不審者からどう守るべきか。あるイベントで発生した深刻な事案と提言

今回は「IT系コミュニティをタダ飯狙いの不審者からどう守るべきか。あるイベントで発生した深刻な事案と提言」についてご紹介します。

関連ワード (ソウゾウ、人物、対決等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、Publickey様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


タダ飯狙いでIT系コミュニティのイベントなどに入り込む人たちがいる、ということが少し前から話題になっている中で、実際に不審者がイベントに入り込もうとした事案がまた明らかになりました。

12月11日と12日の2日間、都内で開催されたコミュニティ主催の技術系カンファレンスで、おそらくは無料の食事を目当てにした不審な人物らが侵入しようとした出来事が発生していたことがイベントの当事者の発言で示されています。

スタッフとして不審者に対応した一人である鍋島理人氏は、「勉強会参加者や運営に危害が及ぶほどの脅威であり、必要なのは不審者対策そのものだと認識を改めた。というか僕はそれぐらい怖かった」とポストし、今回の事態の大きさを吐露しました(鍋島氏は以前、翔泳社でDevelopers Summit(通称デブサミ)のオーガナイザーを勤めたこともある、イベントやコミュニティの運営に関して十分な知見を備えた人物です)。

実際にタダ飯おじさん、あるいは、めし目的人間と対決した結果、食事で済む問題ではなく、勉強会参加者や運営に危害が及ぶほどの脅威であり、必要なのは不審者対策そのものだと認識を改めた。というか僕はそれぐらい怖かった。敷居が高くなるけど、有料化だけでなく、会場のセキュリティレベルも要考慮

— Masato Nabeshimax5 【ITライター・イベンター・DevRel界隈】 (@nabemasat) December 12, 2023

鍋島氏と同様に、タダ飯狙いの存在がここまでの事態になり得ると考える人は少なかったはずです。しかし後述するように、今回の事案は主催者にとって「イベントが壊されてしまいかねない被害が予想される状況」と心配するほどの深刻なものでした。

こうした事案を記事にすることでIT系コミュニティの活動に水を差す可能性はもちろんありますが、一方で参加者を含む多くの関係者で情報と危機感を共有し、それぞれの現場で対策を考えるヒントにすることが、今後の事案の発生を未然に防ぐ要素としてIT系コミュニティの継続的な安全に資するとPublickeyは考え、記事にすることにしました。

ニセの名刺で入り込もうとする人物、恫喝し強引に入ろうとする人物

イベントの1日目には、ニセのプレスの名刺を持ってイベントに入り込もうとした人物がいたとのこと。名刺の内容がフェイクだったことが分かり、入場を断ったとのことです。

プレスを名乗るメシ目的人間とうっかり名刺交換してしまった…書いてある情報は100%フェイクで、向こうには僕の個人情報が渡ってしまった…プレス対応を悪用してるのがさらに邪悪…つらい…

— Masato Nabeshimax5 【ITライター・イベンター・DevRel界隈】 (@nabemasat) December 11, 2023

鍋島氏が、より深刻だと感じたのは2日目にあらわれた別の人物です。

イベント参加者として現場を目撃したかとりょー氏のポストによると、その人物は入り口でスタッフの制止を押し切って強引に入り込もうとするなど、暴力が発生しかねない緊張感があったとしています。

自分の今までのタダ飯のイメージと絶望的に乖離があったのでまとめる
– 入口でスタッフの制止を押し切って強引に押し入る
– 追い出された後も再度侵入する
– 押し入って一直線に飯を強奪して逃げ去る
– 挙動が不審かつ恫喝するなど遵法精神が怪しく暴力が発生しかねない緊張感があった https://t.co/MUieJPcKAX

— かとりょー (@r_karotou) December 12, 2023

鍋島氏もこの人物の挙動には恐怖を感じていたことをポストしています。

なお対決したと言っても、僕は睨み合いつつも無言の棒立ちで、ガタガタ震えてただけでした。最後はチェア自らが動いて帰ってもらいました。あざますm(__)m

— Masato Nabeshimax5 【ITライター・イベンター・DevRel界隈】 (@nabemasat) December 12, 2023

このとき、イベントのチェアマンとして対応したのが草間一人氏です。Publickeyは草間氏にここまでの記事案を紹介した上で、当時の状況の説明や受け止め、そして提言などのコメントを求めました。

下記が草間氏による事案の経緯と、これまでの経験を踏まえたIT系コミュニティを守るための提言です。草間氏から届いた文章を、ほぼそのまま掲載します。

草間氏による、不審人物に対処した経緯と提言

問題人物の行動は、Xのポストで書かれていた通りです。スタッフも警戒していたため即座に問題人物をマークし被害が出ないように行動しましたが、強行突破してくる、対処したスタッフを恫喝するなどの目に余る行動を取り始めたのです。

警察を呼ぶという選択肢もありましたが、このような状況でも警察は現行犯で逮捕できる状況が揃っていない限りは穏便に退去を促す程度のことしかしてくれません。また、目撃者の証言にもあるように、警察の到着を待っていてはイベントが壊されてしまいかねない被害が予想される状況でした。

私はその時、イベント内コンテンツの司会を務めていましたが、報告を受けて一刻の猶予も許されない状況であると判断。問題人物のところに駆けつけ、即刻退去を要求するも相手は応じませんでした。そのため強制的に建物外に連れ出し、今後一歩でも踏み入れたら即座に警察を呼ぶと告げ、視界外まで追い払うことで終息しました。連れ出す際には激しい抵抗を受けましたが、比較的速やかに対処することができました。

しかし、もし相手が凶器を持っていたら、あるいは意図的、もしくは偶発的なフィジカルコンタクトで流血沙汰になっていたらと考えると、非常にリスクの高い状態だったといえます。このような事態が起きないよう、根本的な対処が必要となりそうです。

今回の出来事と、これまでタダ飯目的の不審者対策を行ってきた経験を踏まえて、今後コミュニティが行っていくべき対策について考えてみたいと思います。

タダ飯を食らう人物について

当該の人物は、私が知る限りでも7年以上前から勉強会に出没し、食事を食い漁る、置かれているビールをバッグに詰めて逃げるなどの行為を行う問題人物でした。しかし最近の目撃証言によると、タダ飯を食らうだけでなく、注意した人物を恫喝するなど行動がエスカレートしているという報告が多く聞かれるようになっています。

また、問題を起こすのは当該の人物だけではありません。私が主催しているイベントでは、タダ飯目的としてブラックリストに入れている人物が10名近くいます。これらの問題アカウントがほぼ同タイミングで懇親会付きの勉強会に申し込んでくるなどの行動が確認されており、タダ飯目的の情報交換網が存在するのは間違いないと考えられます。

交通費を払ってまでタダ飯にありつこうとするのは非合理的に思われますが、こういった繋がりに向けての情報提供やタダ飯成功に対する賞賛がモチベーションとなっているとすると、この行動にも説明がつきます。

つまり彼らは、経済的な理由だけでなくゲーム感覚でコミュニティの荒らし行為を行っているのです。

問題拡大の原因について

何故このような行為のエスカレートや集団化が起きているのでしょうか。 そもそも、タダ飯行為はどのようなタイミングで発生するのでしょうか。普通に考えると、「誰も見ていない隙を狙う」と思うでしょう。しかし、たくさんの人が参加している懇親会の場で誰も見ていない隙なんて、そうそう発生するものでしょうか?

実際のところ、彼は誰かの視線があろうがなかろうが関係なく行為に至ります。そのため、目撃証言は非常に多いのです。

では何故目撃証言があるのに行為を止められないのか。それは、社会心理学でいうところの傍観者効果が理由だと考えられます。

多元的無知 – 他者が積極的に行動しないことによって、事態は緊急性を要しないと考える
責任分散 – 他者と同調することで責任や非難が分散されると考える
評価懸念 – 行動を起こした時、その結果に対して周囲からのネガティブな評価を恐れる

(上記Wikipediaからの引用)

傍観者効果は上記3点で起こると言われています。今回のケースでいうと、「誰も咎めないし、こういうものなのかな」「声を上げることで場を壊してしまわないかな」という考えを持ってしまい、誰も行動できなくなってしまうのです。

見られていようが誰にも咎められない状況は、問題人物の行動をエスカレートさせます。仮に咎められたとしても、恫喝を行うことで黙らせることができる。そういう成功体験を積み重ねてしまった結果が、問題の拡大に繋がっていると考えられます。

主催者はどうしていくべきか

これに対して、傍観してしまった人を責めるのは意味がありません。これは人間の心理に基づくものだからです。傍観者効果を防ぐ為には、そうならないための仕組み作りが重要です。

たとえば、何か問題が発生した際にはすぐに最寄りのスタッフに話しかけられる状況にしておくと良いでしょう。スタッフシャツや腕章の着用で判断できるようにし、参加者が大声を上げずともスタッフに相談すれば対処してもらえると周知しておくのです。

問題行為を発見したら傍観せずスタッフに相談するよう、繰り返し呼びかけておくのも重要です。参加者全員で、問題行為を起こしづらい雰囲気作りをしていくことが大事です。

CoC(Code of Conduct – 行動規範)は必ず作成し、参加者が確認できる場所に掲示しておきましょう。イベント申込みの際には、CoCに同意したという項目をフォームに追加しておくとより安全です。これは、問題人物に強制退去を求める場合の根拠にもなります。

決して行ってはいけないのは、タダ飯を食わせておけば大人しいからという理由で容認することです。これは、前述したような成功体験となり行為のエスカレートに繋がります。あなたのコミュニティがタダ飯おじさんを育てたと思われないためにも、しっかりとした対策を行うようにしましょう。

SNSの投稿に関する懸念

もうひとつ懸念していることがあります。それは、このような話題が出る度に、SNS上で主催者側を非難する意見が見受けられることです。

まず「無償なのだから問題人物は許容すべき」という意見。これは本当に問題で、これは問題人物を増長させるのみならず、参加者の脳裏にこの一文がよぎるだけで傍観者効果を生んでしまいます。

「懇親会提供するのが悪い、嫌なら出さなければ良い」という意見。確かに食事を出さなければ問題人物は来なくなるでしょうが、何故懇親会をやるかというと場を盛り上げ、交流を活発にして価値を生み出したいからです。問題人物のためにこのような機会が奪われてしまうのは社会の損失です。 責められるべきは懇親会を提供する側ではなく、それを悪用する人物です。

「無料にするのが悪い、有料にすれば問題は起きない」という意見。有料にすれば、確かに参加者の質は上がります。しかし今回、有料の懇親会にも潜り込もうと試みる人物が出没するなど、必ずしも解決策とはならないことが確認されました。また、有料化することによってイベントと参加者の関係性が「提供者とお客さん」になってしまい、コミュニティといえないものになってしまったと悩む主催者もいます。

無料で門戸を開くことで多くの人に機会を与えることで生まれる価値も間違いなく存在します。このような機会を奪わないようにするためにも、コミュニティイベントの灯火は消さない努力が重要となります。

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