第1回:日本企業はなぜ「健康経営」に着目するのか
今回は「第1回:日本企業はなぜ「健康経営」に着目するのか」についてご紹介します。
関連ワード (CIO/経営、デジタルが実現する新たな「健康経営」の実践等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。
本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
人材の獲得・育成の課題を解決する施策として、「健康経営※」に力を入れる企業が増えています。経済産業省は、「健康経営優良法人認定制度」を設けて、健康経営を後押しています。同省の「健康経営優良法人2021」では、大規模法人部門で1801法人、中小規模法人部門で7934法人が認定されました。「健康経営優良法人2023」での認定は、大規模法人部門が2676法人、中小規模法人部門は1万4012法人と、2年で倍増しており、企業も積極的に活用しています。
※「健康経営」は、特定非営利活動法人 健康経営研究会の理事長である岡田邦夫氏が提唱した概念であり、同研究会の登録商標です。
では、企業は健康経営に対して、どういった施策を実践すればよいのでしょうか。この連載では、これから3回に分けて説明していきます。
日本企業が健康経営に力を入れる背景には、生産労働人口が減少して少子高齢化が進み、2065年には10人で働いたところを6人で対応しなければならない状況が想定されていることがあります。企業には、新たな人材を囲い込み、貴重な人材の離職を防ぐといったさまざまな課題があります。また、日本では以前から人的資本への投資意欲が欧米諸国と比較して低いこともあり、労働生産性そのものが経済協力開発機構(OECD)加盟国の平均以下で、米国と比較すると60%に満たないという調査結果も出ています。
さらに、健康保険組合の財政ひっ迫問題も背景にあります。高齢化が進むと、健康保険組合が負担すべき医療費が増えて財政を圧迫していくため、加入者である従業員が健康でなければ組合の運営が難しくなるのです。
端的に言えば、会社の従業員が健康であれば、皆働きがいをもって生き生き働け、その結果生産性も上がり、企業ブランドも上がる――というサイクルを作る活動が、今まさに企業経営において重要かつ必要なテーマとして着目されているということです。従業員が生き生き輝けば、従業員が所属している企業も輝き、人も集まるといったアップスパイラルの流れを作っていく取り組みこそが健康経営の本質です。
さらに、健康経営が非常に着目されている背景には、政府の政策もあります。内閣官房の非財務情報可視化研究会から、2022年8月30日に「人的資本可視化指針」が公表され、上場会社は2023年3月期決算より、有価証券報告書において人的資本の情報開示を行うことが義務化されました。
「ひと」を「費用」としてとらえるのではなく、企業の貴重な「資産」としてとらえ、いかに大切に育んでいくかの取り組みを具体的な施策としてナラティブ(物語や叙述といった意味)に、株主などのステークホルダーへ情報開示することが義務になります。ひとや、働く環境、それらに対する投資の状況などを可視化し、改善に向けた施策の実行と効果の測定などが必要です。
女性の活躍という課題も含めて、企業組織の生産性をいかに向上させるのかが大きなポイントになってきます。具体的に何を利益としてとらえるのかという話にはなりますが、今いる人たちがどういう課題を抱えているのか、その人たちが今働いている環境や時間に何か課題がないかなどを把握していかないといけない、しかし、その取り組みをどう進めていけばよいのかわからない――という話を企業のトップ層や管理部門の方々からよく伺います。
健康経営の実践において、まずは現状の把握、さらに課題の想定を経て、ようやく企業組織の生産性をいかに上げていくのかという、難解なテーマに取り組むことができるようになります。
先ほど、2065年には今働いている人の40%ぐらい生産労働人口が減るという中で、企業は人材をなかなか新規で囲い込めないという点に触れました。企業は現状を把握し、生産性向上を阻害するさまざまな課題を掘り下げ、打ち手を実施した上で、どんどん「アウトカム」(健康経営の質を評価する指標で、適切なストラクチャーにおいて、提供されるプロセスが従業員の健康状態、ひいては企業利益に結びついていることを評価する指標)していく流れをしっかり作ることが大前提だと思います。