NICTが2025年大阪・関西万博に向けて開発中の「多言語同時通訳」とは
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国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が「2025年大阪・関西万博」に向けて、AIを活用して英語から日本語、中国語、韓国語に同時通訳する技術を開発し、テキストだけでなく音声でも提供する計画だ。1対1だけでなく「1対n」の多言語同時通訳が実現すれば、日本と世界の壁はさらに低くなりそうだ。
「NICTは今、2025年大阪・関西万博で多言語同時通訳の技術を使っていただこうと、関係企業と協力して開発に鋭意、取り組んでいる」
NICTが6月28、29日に開催した「NICT オープンハウス 2024」で基調講演を行ったNICT理事長の徳田英幸氏は、AIを活用して英語から日本語、中国語、韓国語に同時通訳する技術の開発に注力していることを明らかにした(写真1)。
NICTは総務省所管の国立研究開発法人で、情報通信分野の研究開発を行っている日本で唯一の公的研究機関だ。2024年で20周年を迎えたのを機に、徳田氏はNICTとして2030年代の社会イメージをデザインしていく上で、「人間中心(人とAIの共創)・持続可能性・包摂性」を基本理念とし、「人々が時間・空間・身体の制約から解放され、豊かに暮らせる人間中心の安全安心な『Society 5.0』をデザインし、実現する」ことを掲げた(図1)。
そして、そうした未来社会に向けて「Beyond 5G/6G」「AI」「量子ICT」「サイバーセキュリティ」の4つを戦略領域としていくことを明言。同氏はその理由として、「この4つの領域は、生活、産業、医療、教育、防災、環境などのあらゆる場面においてイノベーションをけん引し、日本の社会経済が国際的な優位性を担保する上で極めて重要な社会インフラとなる」ことを挙げた。
4つの戦略領域の1つであるAIでは、NICTとして「AIによって言葉の壁を越える」ことをテーマに挙げた。徳田氏はその背景やチャレンジについて次のように語った。
「AIは既に日常生活に入ってきており、私たちがイメージしている人とAIが共創できる環境がいろんな分野で整ってきたと感じている。そうした中で、NICTではこれまで長年にわたって多言語音声翻訳の研究開発を進めてきた。そのチームが最近では大規模言語モデル(LLM)の研究開発に注力し、NICT版LLMが間もなく実現する見込みだ。これにより、言葉の壁、知識の壁、文化の壁がない世界を目指している。ただ、最後の文化の壁については、文化に関する内容を現存するLLMに問い合わせると、意味不明の言葉が返ってくることが少なくないので、それを踏まえて日本語で明瞭な回答を得られるLLMを実現しようということで、尽力しているところだ」(図2)
さらに、これまでの多言語音声翻訳の延長線上で、今、急ピッチで開発中の技術として、徳田氏が明らかにしたのが、冒頭で紹介した多言語同時通訳である。