AIコンバージェンス時代の競争優位性–AI活用力は差別化要因となるのか

今回は「AIコンバージェンス時代の競争優位性–AI活用力は差別化要因となるのか」についてご紹介します。

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本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 AIコンバージェンスの時代に向けて、企業は新たな競争環境の中で自社の優位性とは何かを再考することが求められます。デジタル化が高度に進展し、AIの活用が前提となる時代において、テクノロジーの活用が企業の競争優位性にどのように寄与するのかを考察します。

 AIの技術的進展と普及が、社会だけでなく産業や事業に大きな影響を及ぼし、ビジネス環境が一変しようとしています。本連載の前回「ポストDX時代の企業像–AIコンバージェンスに適応した企業の行動様式」では、AIが前提となる時代に適合した企業像を再定義することの重要性と、企業がこのような時代に生き残るための要件を示唆しました。

 今回は、AIコンバージェンスの時代における競争優位性を考える上で避けて通ることのできない「AI活用力は差別化要因となるのか」という点に焦点を当てます。まずは「AI活用力は差別化要因となるのか」という問いの前提として「AIの進展が人間の仕事を奪うのか」という点について考えてみましょう。

 テクノロジーの進展は、今に始まったわけではなく、これまでも世の中を大きく変えてきました。カーナビも、駅の自動改札も、コンビニエンスストアの電子マネー決済も、テクノロジーは人々の利便性を高めるために従来のやり方を置き換え、人間の仕事を奪いながら進展してきたと言っても過言ではありません。

 このように、人が行ってきた作業や業務が機械やコンピューターによって置き換えられてきましたが、これまでその範囲は限定的なものであり、反復的な物理的作業や事前に手順をプログラム化できる業務が主な対象でした。

 しかし、AIの登場によってこれまでの常識は塗り替えられようとしています。これまで機械に任せることができなかった経験を要する仕事や、複数の要素を組み合わせて判断しなければならないような仕事の一部が、機械学習や深層学習などを活用して遂行できるようになっています。特に、AIが得意とする記憶、計算、検索、論理、推論・予測(確率)、パターン認識(統計)が適用できる分野では、人間に勝ち目はありません。また、人間には不可能だった仕事も機械が可能にすることもあります。

 例えば、1万枚のレントゲン写真を数秒で読み取り、即時にがんの予兆を発見することは、どんなに優秀な医師でも不可能ですが、AIの画像認識技術によって可能となっています。このように、医師、弁護士、技術者といった専門的な知識や経験が求められる仕事であっても、一部の業務は機械で代替可能といえます。そして、生成AIの台頭によって、これまで大きな労力と専門性を必要としていた翻訳、要約、作図、動画生成、プログラミングといった複雑な作業もAIによって代替可能となりつつあります。

 さらにAIは、人件費/残業代が不要(利用料は必要)で、休憩もせずに24時間稼働し続けられます。人間のように学習力や処理能力に差があったり、記憶や能力が個人に帰属して他者に伝承しにくかったりといったこともありません(図1)。テクノロジーが人間の仕事を奪うことはもはや避けることはできないと考えるべきです。

 本連載の前回「ポストDX時代の企業像」では、AIが前提となる時代には、組織能力として価値創出力、問題解決力および変化適応力の3つが必要と述べましたが、これらを土台として、さらに差別化や競争優位性を発揮するには、AIをどのように活用することが求められるのでしょうか。

 まずは、商取引や顧客接点などの企業活動においては、AIの活用方法の巧拙や学習されるデータの量や質が、当初は一定の競争優位性の源泉となることでしょう。AIを他社よりもうまく活用することで生産性と顧客満足度を高めることが当面の間、優位性の確保に寄与することに疑いの余地はありません。しかし、それらもいずれはコモディティー化し、大きな差別化要因とならなくなることが予想されます。それは、表計算ソフトや統合基幹業務(ERP)システムがもはや企業の競争優位の源泉とならないのと同様です。

 一方、インターネットの時代には、GoogleやAmazonがいち早くこれを活用して競争優位性を獲得しましたが、彼らはインターネットを効率化や生産性向上のためだけに活用したわけではありません。当初は、知名度が低く赤字経営であったかもしれませんが、インターネットを活用して新規の価値を創出し、市場を切り開いたことで競争優位性を揺るぎないものにしていったのです。

 テクノロジーの活用においては、それがいかに革新性に優れたものであっても、効率化や生産性の向上のためだけに活用していたのでは、競争優位性に対して当初は一定の貢献を果たすものの、時間の経過と共にその度合いは減衰し、いずれ当たり前の存在となっていくことは避けられません。

 一方、Amazonが、ECだけでなく、Amazon Web Services(AWS)のクラウド事業、動画配信サービス、AIスピーカーなどを展開していったように、テクノロジーを新規価値の創出に活用し、コンバージェンスによって応用分野を広げることで、さらに新たな顧客体験や市場が切り開かれ競争優位性が増幅していくことは周知のとおりです(図2)。

 現在、多くの企業がAIの試験的導入やAI活用人材の育成を進めていますが、その目的が効率や生産性の向上のためだけにとどまっているとすれば、長期的には競争優位性への貢献度が薄れていくことを念頭に置かなければなりません。

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