東芝、複雑な状態のモノをピッキングするロボットハンドAIを発表

今回は「東芝、複雑な状態のモノをピッキングするロボットハンドAIを発表」についてご紹介します。

関連ワード (製造 x IT等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 東芝は、物流現場などに導入するロボットハンドが対象物を正確かつ高速につかむことができるAI技術を開発したと発表した。ピッキングする対象物の形状や置かれた向き、角度が異なっても、複数の吸着パッドを持つロボットハンドのつかむ位置とつかみ方をAIが計算し、従来は自動化が難しかった乱雑に置かれている多様な物品を94.5%の確率でピッキングすることに成功した。物流倉庫のピッキング作業の自動化に貢献できるとしている。

 東芝 生産技術センター ロボット・メカトロニクス・機器技術領域 ロボット・自動化技術研究部 フェローの大賀淳一郎氏は、「特徴検出と姿勢検出による2段階の深層学習を用い、乱雑に置かれ向きがバラバラの物品でも、大きさに合わせて複数の吸着パッドの数を正確に選択し、安定してつかめることを可能にした。2020年に研究を開発し、実用化レベルにまで到達した」と説明した。

 また、「将来的には、人とロボットの間に安全柵がない環境でもロボットによるピッキング作業の自動化を図れるようにしたい。昼夜を問わずに稼働する環境も実現できるだろう。今後実際の物流倉庫での実証やさらなる研究開発を進めて信頼性を向上させ、2026年度以降にこの技術を搭載した製品の実用化を目指す」と述べた。

 物流倉庫の自動化が進む中で、ピッキング作業の自動化が進んでいないという実態がある。ECサイトを通じた購入が広がり、物流倉庫では、注文に応じて保管している箱から指定された数量の物品をピッキングして配送を準備する作業が増加している。

 だが、大型物流倉庫では、数千~数万種類の物品を取り扱い、異なる形状や外観の物品が混在している。さらに、商品の入れ替わりが激しいなどの背景もあり、ピッキングを自動化できる対象が限定的だったり、物品が変わる度に技術者の知見に基づいてプログラミングを行う必要があったり、コストアップにつながるなどの課題があった。

 このように物流需要の増大と人員不足から、物流倉庫のピッキング作業の自動化は喫緊の課題となっている。夏は暑く冬は寒いという作業環境の物流倉庫もあり、ロボットによる自動化が求められているというニーズも見逃せない。

 一部では、深層学習を用いた研究も進んでいるが、吸着パッドを1つだけ搭載したシンプルなロボットアームを対象にしたものが多く、効率化には限界があった。大賀氏は、「吸着パッドが1つではさまざまな大きさの物品に対応できない。複数の吸着パッドなら多様な大きな合わせて使用する吸着パッドの数を選択しピッキングできる。だが、複数の吸着パッドを組み合わせる上でハンドの向きとパッドの接触位置を正確に計算する必要があり、課題だった」と話す。

 東芝が開発した技術は、まずカメラを使って物品が入った箱をRGBD(三原色と深度)画像で撮影し、色と深度と確認する。深層学習で画像全体の特徴を検出した後に、向きがバラバラになっている物品を正面から捉えるようにする射影変換を行い、各面の特徴を捉える。その結果に対してロボットのハンドの向きや使用すべき吸着パッドの数といった姿勢検出を行い、AIでロボットが物品をつかむ位置やつかみ方を算出する仕組みだ。

 大賀氏は、「1段階目のモデルで接触可能な面を検出し、2段階目のモデルで検出した面の向きをそろえて学習することで、乱雑に置かれ向きがバラバラの物品でも正確につかめるようにした。1段目モデルの計算結果を活用して2段目モデルを計算するため、必要な計算の一部を省略して高速化を実現した。また、対象物の面と接触が可能な吸着パッドの最大個数を計算し、サイズや向きなどに応じて最適なパッドを使い、安定して物品をつかむことができる」と解説する。

 AIの学習は、技術者によるプログラミングが不要で、ロボット導入後に、対象物の種類が増えた場合でも追加学習を容易にできる。「人手でプログラミングをするのではなく、データを活用するだけで、様々な物品をピッキングできるようにすることで、現場の自動化を促進できる」(大賀氏)という。

 東芝は、今回開発したAIの有効性を計算機で検証。ダンボール箱や洗剤ボトル、アクリル製の箱、スプレーの4種類を対象に、同様の条件でほかの研究と比較した場合、計算速度は10分の1以下の0.47秒となり、成功率は6.2%向上して80.1%を実現、世界最高の平均計算速度と平均成功率を達成したという。

 「ほかの研究では5.62秒を要し、5秒ほどロボットが考えてから動き出すというイメージだった。0.47秒ではアームが動く時点で計算を終了し、すぐに取りに行くという様子で作業ができる。一度ピッキングに失敗しても、再度撮影して学習した結果からもう一度トライでき、停止しない」(大賀氏)

 実機ロボットに今回のAI技術を適用してピッキング作業を行ったところ、94.5%の確率で、乱雑に置かれた形状や外観の異なる物品のピッキングにも成功。これにより、実用化レベルにあることを確認したとしている。

 東芝によると、複数の吸着パッドを制御することで、各種サイズの四角い箱や円形容器のほか、封筒、袋、ボトル、ブリスターパック、チューブ容器などの自動ピッキングも可能とし、現時点では2kg程度までの物品を対象にしている。まずは、東芝が販売するピースピッキングロボットなどへの採用を目指し、東芝の物流ソリューションの自動化を促進する考えだ。

 同社は、この技術を10月14日からアブダビ首長国で開催されているロボティクス分野の世界トップクラスの国際学会「IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems 2024」で発表した。

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