AIが差別化要因ではなくなる日、在るべき組織の姿とは–ITR・内山会長が提言

今回は「AIが差別化要因ではなくなる日、在るべき組織の姿とは–ITR・内山会長が提言」についてご紹介します。

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 アイ・ティ・アール(ITR)は11月26日、年次イベント「IT Trend 2024」を開催した。今回のテーマは「AIネイティブカンパニーへの挑戦」。最終セッションでは会長/エグゼクティブ・アナリストの内山悟志氏が登壇し、「ポストDX──AIコンバージェンス時代の競争戦略と組織デザイン」をテーマに、競争優位につながるAIの活用とそれを実現する組織の運営について解説した(基調講演の記事はこちら)

 コンバージェンス(融合)について、同氏は「テクノロジーと需要が組み合わさると製品やサービスの量産化が進み、さらに新たなテクノロジーや需要が組み合わさることで、性能が向上する」現象であると説明する。中でもAIは、さまざまなソフトウェア/ハードウェアに組み込めるので、コンバージェンスの中核をなすと予想される。

 今後は、統合基幹業務(ERP)、サプライチェーン管理(SCM)、顧客関係管理(CRM)などのサービスにおいて、あらかじめAIを組み込む動きが進むと見られる。商取引、顧客接点、社内業務など、あらゆる企業活動で処理される情報は、AIの学習データとしてリアルタイムに収集・蓄積され、多くの業務が自動化・最適化の対象となる。

 しかし、AIの活用は他社との差別化を保証するものではない。業務の効率化を目的としたAI活用は、短期的には企業の競争優位性の確保につながるが、いずれはコモディティー化し、大きな差別化要因にはならなくなると想定される。

 内山氏は「ERPシステムが登場した2000年前後、『ERPさえ導入すれば競争優位になる』という幻想があったが、今は基幹系システムの活用は当たり前である。私の学生時代は表計算ソフト『Microsoft Multiplan』が出た頃で、それを使いこなせればすごいと思われたが、今は皆表計算ソフトを使っている」と過去のテクノロジーを振り返りながら説明した。

 そこで企業は、顧客体験(CX)の向上や市場の開拓など、新規価値の創出においてもAIを活用する必要があり、こうした取り組みはコンバージェンスによって加速するという。

 その上で内山氏は、もう一つの差別化要因として「AIが得意でない領域において、いかに人間の力を活用するか」を挙げた。AIに対して人間が優位と考えられる能力には、「ホスピタリティー」「リーダーシップ」「クリエーティビティー」がある(図1)。

 内山氏は「マネジメント」と「リーダーシップ」は別物であるとし、過去のデータを基に指示を出すマネジメントはAIで置き換え可能だが、信頼や情熱に基づいて人を動かすリーダーシップは人間ならではの能力だと語った。

 同氏は、組織におけるクリエーティビティーの向上において重要な要素として「セレンディピティー」(幸福な偶然を引き寄せる力)を挙げる。企業は「セレンディピティーが発生しやすい環境」を整えることで、コンバージェンスが後押しされ、イノベーションが促進されるという。

 内山氏は、AIコンバージェンスが盛んになる2020年代後半には、業種の壁を越えた多数のクラスターが形成され、企業は外部連携の巧拙が問われるようになると予測する。産業構造の変化に伴い組織構造も変わり、クラスター型組織はチームや企業を越えた連携、各チームにおける一定の権限の保持、自在なチーム参加・編成などの特徴を持つという。

 こうしたクラスター型組織は、分散型自律組織(Decentralized Autonomous Organization:DAO)と類似している。DAOの特徴には、「中央集権的な管理者が不在」「活動履歴は全て公開され、参加者全員に共有される」「利益は参加者に報酬として分配され、その額は各人の貢献度に基づく」などがある。

 DAOの考え方を取り入れたクラスター型組織を組成する要件として、内山氏は「組織目的の再定義」「多様性と透明性の確保」「事実の見える化と意思決定の民主化」「評価・報奨の仕組みの再設定」を挙げた(図2)。

 しかし、さまざまな目的を持つ企業全体をすぐにクラスター型へ切り替えることは現実的ではない。そこで企業は特定の目的を持つ組織を切り出し、その組織を「特区」として例外的な制度を適用することで、小規模なクラスター型組織を組成する。こうした組織を徐々に増やすことで、企業全体をクラスター型組織に移行する。クラスター型組織では、外部の組織や個人など、ほかのクラスターと連携するとともに、新しい制度や仕組みを全社に適用する。最近は大手企業を中心に「社内DAO」などと呼ばれる取り組みが見られているという。

 内山氏は「クラスター型組織とAIが組み合わさると、コンバージェンスが加速する」と強調した。業務にAIを活用するとデータが分類・整理されて組織のナレッジとなり、業務の精度や品質が向上する。そしてナレッジに課題やニーズを組み合わせるとコンバージェンスが進み、イノベーションが生まれる。さらに、イノベーションの過程で収集されたデータはAIを通してナレッジに追加され、同氏はこのサイクルを「知の循環」と評した(図3)。

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