二極化とともに拡大するAIインフラへのニーズと対応–F5の技術・製品総責任者に聞く
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企業のAI利用が世界的に拡大する中で、AIのインフラに対するニーズも鮮明になりつつある。長年にわたりネットワーク負荷分散やアプリケーションデリバリー、ウェブアプリ基盤などを手掛ける米F5も近年にAIインフラ領域への注力姿勢を鮮明にしている。同社で技術と製品の総責任者を務めるチーフイノベーションオフィサーのKunal Anand氏に、AIインフラの現状や取り組みの方向性などを聞いた。
Anand氏は、2024年9月に日本法人のF5ネットワークスジャパンが行った事業戦略説明会に登壇し、「今後数年のうちに大半のアプリケーションがAIを実装する」と述べていた(関連記事)。それから約6カ月を経た2025年3月下旬時点で、「既にわれわれの顧客の50%以上がAIを利用している状況だ」(Anand氏)と述べ、急速なAIの拡大ペースを指摘する。
Anand氏によれば、現在のAIインフラの導入パターンは2つに大別される。1つは、AIの開発・運用のための巨大なコンピューティングリソースを備えた「AI Factory」と表現されるデータセンターの大規模環境だ。世界的なクラウド提供事業者(ハイパースケーラー)がけん引してきたが、最近では世界的な通信事業者や金融、自動車などの大企業も導入に乗り出しているという。
「3月の『GTC』(NVIDIAの年次開発者会議)でお会いしたある銀行幹部は、既に3つのAI Factoryを構築中で、新たに約700人のAI科学者の新規雇用を計画していると話された。また、大手自動車メーカーの顧客はわれわれの製品上で自動運転のモデル構築やその学習のワークロードを実行している。このように、ペタバイト規模のAIのデータがわれわれのソリューションで日々処理されている」(Anand氏)
もう1つは、AI Factoryを必要とするほどにはまだ至っていない一般的な企業や組織だ。主な利用はAIの推論であり、クラウドなどの大規模言語モデル(LLM)などへのアクセスとなる。内容は生成、要約、情報検索など千差万別だが、金融や医療といった規制要件が厳しい業界でも、もはや日常的に使われているといい、利用実態の可視化や管理、機微情報の外部漏えいリスクなどセキュリティやプライバシーへの対応が喫緊の課題として浮上している。
こうした動向を踏まえてAnand氏は、F5では、AIを中心としたアプリケーションのデリバリーとセキュリティを統合したプラットフォーム「F5 Application Delivery and Security Platform」の構築に注力していると話す。AIインフラでの高速な処理性能の提供と優れたエネルギー効率の実現、AI利用におけるセキュリティの担保に焦点を当てているほか、生成AIやAIアシスタント機能の製品への実装も進め、ユーザーの業務支援も推進しているという。
上述のAI Factory領域では、GTCの基調講演にも参加し、F5の中核となる「BIG-IP」とNVIDIAのGPUプラットフォームの連携の深化などを発表。ソフトバンクともAIインフラ領域での連携を推進していくことも明らかにした。
もう一方のAIの推論を中心とする一般的な企業や組織の領域では、3月にAI利用時の性能管理や可観測性、保護の機能を包括的に搭載する「F5 AI Gateway」の一般提供を開始した。クラウドサービスを中心としたAI利用の管理ソリューションは、APIゲートウェイ型の拡張で提供されているケースが多いが、Anand氏は、既存のAPIゲートウェイではAIにまつわる課題へのきめ細やかな管理や制御に制約があるとし、まずAIに特化したF5 AI Gatewayを開発、提供したという。
「F5 AI Gatewayについては、特に顧客の最高情報セキュリティ責任者(CISO)からの関心がとても高く、セキュリティやコンプライアンスの担保などについて多くの時間を割いて彼らと会話をしている」(Anand氏)
ここでは、日本を含む大手顧客やパートナーらと共にフレームワーク相当のAIのセキュリティソリューションの実現に向けて協働しているほか、製品・サービス面では顧客がすぐに適用可能な機能やポリシー類を標準搭載し、利用に応じてチューニングをしていくこともできる。
直近では、データセキュリティ企業のLeakSignalを買収しており、LeakSignalが持つAI関連データとアクセスなどの検出や識別、可視化、監視、ポリシーベースの制御といった機能をF5の製品・サービスに順次統合していくという。
なお、AIへのアクセスはAPI経由が多いだけに、Anand氏は今後数年のうちにAIとAPIの双方のゲートウェイを統合していくだろうとも述べた。
また、AIアシスタント機能では、SaaSプラットフォーム「F5 Distributed Cloud Services」での提供を皮切りに、今後はBIG-IPへの実装を順次行い、ユーザー業務の支援強化や運用自動化を推進していくという。これにより、効率的な監視やプロアクティブな問題への対処、設定の最適化、自然言語による照会とアドバイスの提供など可能になるほか、AIによる推奨のルールやポリシー、コードの生成、適用なども行えるようになるとしている。「日本では、特に自動化とDevOpsに対して顧客から大きな関心が寄せられている」(Anand氏)
Anand氏は、前職のImpervaで最高技術責任者と最高情報責任者を兼務したほか、メディアやテクノロジー、航空宇宙の組織などでセキュリティ、テクノロジー、データ、エンジニアリングを担当し、AIと機械学習分野でも15年以上の経験を持つという。そうした経歴もあってコードレビューから製品やサービスへの理解を深めていくなど、同社の経営幹部でありながらユニークなアプローチを実践しているそうだ。
「私の役割の根幹として最も大切にしているのは、確かな品質の製品やサービスを顧客に提供すること。特に日本の顧客は品質を最重要視しているが、実はこの点をあまり理解していない外資系ITベンダーが少なくない。まず品質を大切にする。その上でAIの利用を拡大させていく顧客のニーズに応え、AIで顧客の課題解決も図り、アプリケーションとセキュリティの包括的なソリューションで顧客に貢献していく所存だ」(Anand氏)