老舗製薬会社の生き残り戦略はシステムの内製化 自由なデータ活用、開発の高速化を実現
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政府による「Society 5.0」の掛け声の下、IoTなどから得たデータを分析して社会に役立てる“データ主導社会”への移行が国家レベルで進んでいる。1678年から医薬品の製造・販売を続ける老舗製薬会社・田辺三菱製薬にも変革の波が否応なく押し寄せている。
同社は、生き残りをかけたデジタルトランスフォーメーション(DX)戦略の一環として、クラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」上に、データ分析基盤と、医薬情報担当者(MR)が訪問先などで収集した情報の蓄積と分析を行うデータベースを構築した。
ICTマネジメント室のプロジェクトメンバーの奮闘によって、会社のデジタル化は着実に前進している。そんな立役者たちの活躍ぶりとは?
社内外のデータ利活用で新薬開発をスピーディーに
デジタル革命が進行する時代だけに、企業は社内外から取得したデータをフルに活用し、変化し続けるビジネス環境への適合が求められる。
製薬業界は一般企業と異なり、国の規制で薬価(医療用医薬品の公定価格)がコントロールされている。しかも、2021年度からは、薬価を毎年改定することが決まっている。つまり、国が定めたルールの下で、自社製品の市場価格が毎年下がり続けるという、厳しい状況が待ち受けている。
田辺三菱製薬の小林弘幸氏(ICTマネジメント室)は「常に新薬を開発し市場に送り出す努力を続けなければビジネスが縮小し、生き残れない」と厳しい口調で説明する。
ただ、新薬の開発は10〜20年といった長期スパンの事業。うまくいかなかった場合の高いリスクと背中合わせの状態で、難しいかじ取りを常に求められる。
このようなデジタル化の潮流の中、田辺三菱製薬では、中期経営計画においてデジタル基盤の整備を強力に推し進めると宣言している。
同社はまず、新薬の開発や研究に医療関係のデータを活用し、創薬に掛かる時間の短縮を図る方針を立てた。社外からは投薬や通院などの情報を集めたビッグデータ、社内からは各種ビジネスデータをクラウド上に一元的に集約して分析し、新薬開発や臨床研究を加速させようとしている。
SIer依存状態からの脱却
「システムがまともに動かない!」──数年前、尾崎宏道氏(ICTマネジメント室、※「崎」はたつさき)のもとに、助けを求める悲鳴にも似た声がユーザー部門から届いた。ユーザー部門が主導してクラウド上に構築していたデータ分析基盤のプロジェクトが暗礁に乗り上げていたという。
暗礁に乗り上げた理由は後述するとして、製薬業界におけるデータ分析の現状について述べておこう。製薬会社の間では、国の事業として公開されている、患者単位の匿名化された医療データ「リアルワールドデータ」を分析し、新薬開発や薬の安全性確保、販売の促進につなげる動きが加速化している。
リアルワールドデータというのは、医療機関が導入している電子カルテや医療報酬明細書(レセプト)から得られる情報などをまとめたもの。例えば、患者の年齢、性別はもちろん、どんな病気で、どんな医薬品を処方され、診療報酬はいくらだったのか、といった総合的な情報が記録されている。患者が病院に掛かるたびに情報が増えるため、1つのデータが1TBを超える大きさになる。
田辺三菱製薬は、分析業務に力を入れるため、担当するユーザー部門からSIerに依頼して、リアルワールドデータを分析する基盤の構築を進めていた。しかし、ユーザー部門主導ということもあり、システムの構築そのものがSIerに依存状態になっていたという。
システムの中身はブラックボックス化しており、内部の構造に手を出せなかった。開発費用も高額で、社内からは「このままでいいのか」という疑問の声も上がっていたという。
それだけではない。システムのパフォーマンスにも問題が顕在化していた。SIerが導入したクラウドは、1個で1TBを超えるデータを扱うには、あらゆる面で力不足だったという。
当時はデータ販売の専門会社から、リアルワールドデータを購入していたため、自社で用意するデータに比べてファイルが扱いづらく、データ分析基盤への取り込みや処理が滞る事態に直面していた。前述の「システムがまともに動かない!」という、ICTマネジメント室への応援要請は、ここに大きな理由がある。
プロジェクトを進めるユーザー部門も手をこまねいていたわけではない。ブラックボックス化を問題視した一部メンバーからは、SIer依存状態を見直す動きもあり、その流れでICTマネジメント室に応援要請が来たという部分もある。
ICTマネジメント室は複数のクラウドサービスを比較し、分析基盤の内製化を前提に改めて検討し直した。SIerへの依存状態からの脱却である。
尾崎氏は「他社と比較検討した上で、さまざまな要件に柔軟性をもって対応できる点を評価し、Microsoft Azureの本格導入に踏み切る決断を下した」と話す。
デジタル化が求められるMRの活動
Microsoft Azure上には、分析基盤と別に、病院などの医療現場で医師への情報提供を行うMRが、収集した情報の蓄積と分析を行う業務支援システム「ZEUS」(Zoom on Effective Ultimate System、ゼウス)も構築した。製品別売上データ、MRの活動データ、Web閲覧データ、顧客情報を蓄積している。
同社がZEUSを構築した背景には、医療機関の訪問規制やセキュリティ強化などの環境変化がある。MRが医師と面談できる機会は以前から減少傾向にあったが、コロナ禍に入り、規制が強まった。さらに、デジタル技術の進歩を受け、医師の情報収集におけるプロセスが多様化し、インパクトのある情報提供活動のために個別最適化が求められるようになった。
そこで、新たなコミュニケーション手段として、これまではリアルが主軸だったMRの活動をデジタル化し、次の段階に駒を進める必要性が生じたというわけだ。しかし、SIerが構築したシステムは度重なる改修により複雑化しており、内部の構造に手を出せないようになってしまっていた。社内からは「このままでいいのか」という疑問の声も上がっていたという。
ZEUSを構築したのは2017年だが、MRを取り巻く環境変化に対応するため、常に進化を求められている。現在では蓄積したデータを活用しながら顧客ニーズに合った情報提供を支援するなど、機能の充実ぶりを誇る。
このように、ZEUSが進化に応じて機能を追加できるのも、Microsoft Azureが、適材適所で機能やリソースを提供できる、柔軟性に富んだサービスであることの証左であろう。
Microsoft Azureの柔軟性の高さを物語るエピソードはこれだけではない。尾崎氏は「以前は社内の至る所に散在していたデータを一カ所に集約するための基盤を整備した。せっかくだから、今後は、創薬やサプライチェーンなど、各部門で活用していきたい」と目を輝かせる。
現在は、日本マイクロソフトのサポートを受けながら、各部門のデータ分析ニーズに対応するために、Microsoft Azureで提供されている各種製品を活用して、いくつかの実験を始めているところだ。
クラウド製品は活用できる領域が広範囲に及ぶ。そのため、サポートにも極めて高い専門性が求められる。「日本マイクロソフトは、こちらからの専門的な要望に高度な人材を割り当てて対応してくれる。ビジネスのスピード感を生み出すためにシステムの内製化を目指す当社にとっては最適なサポートだ」(尾崎氏)とサポート体制を評価する。
内製化がDX推進の契機に
小林氏は、このプロジェクトの隠れた目的であり、最大の成果でもあるSIer依存からの脱却について語ってくれた。
今回のデータ分析基盤とZEUSの両プロジェクトを軌道に乗せたことで、システム内製化の重要性に対する理解が社内に芽吹き始めた。それは、ICTマネジメント室の存在感を高める結果をもたらすことになりそうだという。ユーザー部門とのコミュニケーションが円滑になり、DXを推進する中で、彼らがどんなシステムを求め、どんなニーズに対応すればよいのかが拾いやすくなった。
ICTマネジメント室内部も同様だった。データ分析に関わるシステムの内製化にかじを切ったことで「DXに関するスキルやノウハウを蓄積できる。クラウド環境が整い、システムが使いやすくなってきたことが、デジタル人材の育成や、優秀なチームづくりにもつながる」(小林氏)と期待している。
クラウド活用以外にもデジタル化対応の機運が高まっているそうだ。プログラムを書けない人が、研修で体験したRPAの組み上げに夢中になり、持ち場に帰っても積極的に取り組む状況が生まれている。
小林氏は最後に「うちのような製薬企業が競争を勝ち抜くためには、データ活用が重要です。データ分析システムの内製化体制を拡充する必要がある。そうしないと、これからのデータ主導ビジネスの流れに取り残される。そういった意味でも、今回のプロジェクトでMicrosoft Azureを採用し、内製化に踏み切ったことが、弊社のDXを大きく前進させるきっかけになった」と締めくくった。
(後編)
1678年創業の「たなべや薬」をルーツに持つ田辺三菱製薬。そんな同社がデジタルトランスフォーメーション実現に向けて動き出した。その重要なインフラとして選択したのがクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」だ。
創薬の効率化に向け、クラウド上にデータ分析基盤と業務支援システムを構築したプロジェクトチームに話を聞いた。
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