中国で監視を強化する企業にネットユーザーが反発、その背景にあるもの
今回は「中国で監視を強化する企業にネットユーザーが反発、その背景にあるもの」についてご紹介します。
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本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
中国では最近、仕事中の息抜き(中国語で「模魚」)を監視する企業がしばしば話題に挙がるようになった。直近で問題になった2つの事件を紹介する。
まずは2021年11月、業務とは関係のないゲームやチャット、音楽視聴などをしていたとして、大手家電量販店の国美(グオメイ)が従業員11人を処分して話題となった。「部署Aの社員Bが(動画最大手の)『騰訊視瀕』(テンセントビデオ)で数十GBを消費した」「部署Cの社員Dが中国向け『TikTok』の『抖音』(ドウイン)で数GBを利用した」といった内部情報が明らかにされている。
これに中国のネットユーザーが反応。この報道に対する読者アンケートでは、「成果を上げれば問題ないのに、何が悪いのか」という意見が大半を占めた。加えて、「息抜きにコンテンツを見ることの何が悪いのか」「どのサービスをどれくらい利用したという個人情報を勝手に収集・公開していいのか」といった点も議論となった。これまで中国でこうした話題が大きく報じられることはめったになかった。
2月には、大手知識共有サービス「知乎」(ズーフー)で大規模な人員削減が実施され、そこで利用されたとする「従業員退職監視システム」が話題となった。これは、深セン証券取引所に上場するセキュリティ企業の深信服科技(Sangfor Technologies)が開発したもので、従業員の離職リスクを推測するサービスになる。求人サイトの閲覧回数や履歴書の提出・応募などに応じて、従業員の離職傾向を低中高の3段階に分類するという。
同社の製品説明によれば、企業はシステム内で退職傾向のある従業員の詳細を確認できるという。例えば、ある従業員は転職サイトに23回訪問し、履歴書を9回提出しており、転職に関連するキーワードを含むチャット履歴が254件あったというレポートが記載されていた。
また、製品マニュアルには「主要スタッフの突然の離職による損失を防ぐ」とも書かれている。確かに中国のインターネット業界を日々確認していると、主要人材が重要ポストをめぐってあちらこちらへ移り行く様子が日本以上に目につく。
同社のシステムには、離職傾向を分析するほかにも、情報漏えいを追跡分析する機能などもあるという。PCだけでなく、スマートフォンにも対応する。社内のネットワークに接続してインターネットにアクセスしていても、利用した端末やアプリ、時間が記録され、仕事の効率がどれほど低下したか分かるようになっている。業務と関係のあるなしを識別し、通信を最適化することも可能であるという。
深信服科技はこれまで「多くの企業が利用していて合法」という姿勢を示していたが、「企業が従業員の監視を続けていいのか」とのネットユーザーの声が挙がると該当ページを削除したりして事態の沈静化を待った。ただ、毎日経済新聞の取材には「以前から該当機能は提供しており、数ある機能のうちの1つに焦点が集まっている状況だ。セキュリティ対策の一環に過ぎず、監視対象もイントラネットであり、インターネットでのスタッフの監視はしていない」とコメントしている。
同じくセキュリティ企業の奇安信科技集団(QiAnXin Technology)も転職活動をチェックするサービスを運用しているし、イントラネットの監視システムを開発する企業は多くある。PCの画面を一定間隔で取得し、画像として保存したり、光学文字認識(OCR)でテキストを抽出・分析したりするシステムもある。国家知識産権局によると、「従業員の勤務状況を分析」する特許の出願が近年増加しているという。
ネットワーク技術に詳しい人であれば、社内端末のネット閲覧履歴を調べられることは知っているだろう。話題になったサービスは、端末の行動記録を管理者に分かりやすい形で可視化し、離職リスクを予測した上でアラートを出すというものだ。それだって最近開始されたサービスではなく、数年前から導入・運用されている。
これまでも社内ネットワークのトラフィック監視は可能だったにもかかわらず、まるで初めて明らかになったかのような報じられ方やネットユーザーの反応を見るに、社内で従業員の端末が監視されている可能性があるのを知らなかった人々が中心に騒ぎとなっているように思える。なにせ「監視されることに人権はあるのか」といった言葉も出ているのだ。
では、なぜ今になって話題になるのか。これまでインターネット業界は“ブラック労働”はあっても明るい未来のある花形業界だった。しかし、阿里巴巴集団(アリババ)や騰訊(テンセント)をはじめ、各社が政府の方針により路線変更を余儀なくされ、大規模な人員削減を実施した。残業を規制する動きも加速した。企業としては従業員に効率良く働いてもらう必要性が高まった。
少しでも濃密に働いてほしい企業側と、息抜きも許されないストレスフルな従業員側の行きついた先、言い換えればお互いに余裕がなくなってきた結果が、今回の件の背景にあるのではないかと思っている。