AIによる不正取引検知の現状と将来性
今回は「AIによる不正取引検知の現状と将来性」についてご紹介します。
関連ワード (特集・解説、金融犯罪の不正取引検知へのAI活用等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。
本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
本連載は、私たちの生活でも被害を受ける恐れのある「デジタル金融犯罪」を取り上げる。前回に続き、最先端の金融犯罪対策として、不正取引検知への人工知能(AI)活用(AI不正取引検知)の可能性と当社の取り組みを説明していく。
三菱UFJ銀行と共同実施した、AIを用いて現金自動預け払い機(ATM)での不正取引を検知するPoC(概念実証)を行う際の課題と解決策を説明する。ポイントは、「不均衡データ」に対するアプローチと「特徴量」のエンジニアリングの2点である。
まず、不均衡データに対するアプローチについて説明する。PoCで用いたデータは、不正取引が正しい取引に比べて極端に少ない不均衡データであった。銀行取引では、1件の不正取引が数万件の正しい取引の中に埋もれている。不正取引と正しい取引の比率が1:数万~数十万という「超不均衡データ」の中から不正取引を見つけ出すのは、AIが苦手とする領域だ。AIの判定は1:1や1:10程度の比率でこそ高い精度を発揮するためである。
こうした超不均衡データの解決策として当社は、「超不均衡データへのアプローチ」を産業界で初めてATM取引の領域で実用化した。具体的には、学習用データの比率調整を実施した。正しい取引データを間引く「Under Sampling」と、不正取引データをかさ増しする「Over Sampling」を行った。この際のポイントが、データの特徴量を最も引き出せる水準に比率を調整することである。
次に、「特徴量のエンジニアリング」について説明する。特徴量のエンジニアリングとは、特徴量の調整・チューニングである。ここで言う特徴量は、犯罪者のさまざまな行動パターンであり、犯罪かどうか判断する基準となる。当社のAIエンジンは、数百に及ぶ特徴量を想定し、それぞれの特徴量の数値も細かく調整している。特徴量の想定と調整は、金融犯罪手口に対する深い知見と、データサイエンティストの知見・ノウハウを融合させないと実現不可能である。
当社の「金融犯罪対策センター」(以下FC3)には、責任者をはじめ犯罪者と最前線で対峙(じ)してきた銀行出身のメンバーが複数在籍しており、金融犯罪対策の豊富な知見を有している。そのため、特徴量のエンジニアリングを実現できた。また当社のAIチームが、学術機関との共同研究を通じて保有しているAI先端技術を活用し、アルゴリズムと特徴量の組み合わせによる最も精度の高いモデルの探索を網羅的に実施した。