経済安全保障の対象となるクラウドは「国産」にすべきか–IIJ社長の現実的な提案とは
今回は「経済安全保障の対象となるクラウドは「国産」にすべきか–IIJ社長の現実的な提案とは」についてご紹介します。
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本連載「松岡功の『今週の明言』」では毎週、ICT業界のキーパーソンたちが記者会見やイベントなどで明言した言葉を幾つか取り上げ、その意味や背景などを解説している。
今回は、IIJ 代表取締役社長の勝栄二郎氏と、ソーラーウインズ・ジャパン 代表取締役社長の脇本亜紀氏の発言を紹介する。
インターネットイニシアティブ(IIJ)は先頃、2021年度(2022年3月期)の決算を発表した。勝氏の冒頭の発言はその発表会見の質疑応答で、「行政のデジタル化にはデータ保護の観点から国産クラウドの使用が望ましいとの見方があるが、IIJとしてはどうお考えか」と聞いた筆者の質問に答えたものである。
IIJの2021年度の連結業績は、売上収益(売上高に相当)が前年度比6.3%増の2263億4000万円、営業利益が同65.3%増の235億5000万円と好調に推移した。勝氏はこの好調ぶりについて、「デジタル化の波が一段と強くなっている。これに対応していきたい」と述べた。なお、クラウドサービス事業についても2021年度は同9.4%増の286億6000万円と伸長した。2021年度の総括については、図1をご覧いただきたい。
今回の会見では、2022年度(2023年3月期)の目標と、2023年度(2024年3月期)までの中期計画の進ちょくについても明らかにした。2022年度は売上収益で前年度比10.5%増の2500億円、営業利益で15.5%増の272億円と、二桁の増収増益を目指す構えだ。中期計画の進ちょくを合わせた概要については図2をご覧いただくとして、以下では勝氏の冒頭の発言に注目したい。
会見の質疑応答で筆者が問いかけた中の「行政のデジタル化にはデータ保護の観点から国産クラウドの使用が望ましい」との見方は、日本のクラウドサービス事業者が以前から訴えてきたことだ。IIJも国産クラウドを運営する1社として、勝氏がその要望をたびたび発信してきた。
本サイトでの筆者のもう1つの連載「一言もの申す」から、2021年1月7日掲載の記事では「政府は産学界から上がる『国産クラウド育成』の声に対処せよ」と題して、勝氏の訴えに国立情報学研究所 所長の喜連川優氏が強い賛意を示した様子を紹介した。
そうした経緯に加え、今回、筆者が改めて国産クラウドについての話を取り上げたのは、5月11日に成立した経済安全保障推進法においてクラウドサービスがその対象になる運びとなり、国産クラウドの必要性がますます高まると見たからだ。そんな筆者の質問に対し、勝氏は次のように答えた。
「行政がこれからクラウドサービスを採用する際には、国産クラウドに対する要望も高まってくるだろう。が、実際に国産クラウドだけで全て対応できるかというと、それは現実的ではない。そこで提案したいのは、外資系のクラウドサービスも含めて用途に応じてマルチクラウドの利用形態にすればどうか。例えば、非常に高い機密性が求められるデータ処理の用途には国産クラウドを適用するといった具合だ。当社はマルチクラウド利用の実績とノウハウを蓄積しており、大いにお役に立てると考えている」
確かに、選択肢が広がるマルチクラウド利用は現実的かもしれない。勝氏の「マルチクラウド推し」の発言は、行政向けクラウドの採用がいよいよ本格的に動き始めたことを示しているようにも見て取れた。