三井住友信託銀行とアクセンチュアが目指す、デジタル証券の可能性と今後の課題

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 三井住友信託銀行は2022年3月末、三井住友トラスト・ホールディングスのDX子会社Trust Baseとともに、アクセンチュアのブロックチェーン技術を用いたデジタルアセット(資産)基盤「Accenture token exchange infrastructure」(axia)の概念実証(PoC)を開始したと発表した。

 axiaとは、名称に「exchange」(交換・両替)を含んでいるように、「ブロックチェーン技術を使ったデジタルアセット全体の発行・取引・流通を目的としたプラットフォームソリューション」(アクセンチュア 金融サービス本部 証券グループ 日本統括 マネジング・ディレクターの早川逸平氏)だ。取引履歴の記録や管理にブロックチェーン技術を使用し、プラットフォーム内は各種金融資産・権利の裏付けにトークン(デジタル権利証)を用いる。

 特徴的なのは、axiaを利用する顧客のビジネスに応じた拡張性を備えている点。「各社が扱いたいトークンやビジネスモデルなど事業戦略に沿った流通基盤の構築を念頭に置いた。例えば、証券会社なら取引にセキュリティトークン(デジタル証券)を利用する」(早川氏)。現在、経済産業省・法務省は産業競争力強化法の特例にある、諸条件を満たせば債権譲渡通知の確定日付をシステム上で処理した日付で代替可能にする「規制のサンドボックス制度(新技術等実証制度)」の実証計画を推進している。

 アクセンチュアは参画企業の1社として同計画に取り組んでおり、効力発生済み権利関係の変動などを第三者に主張する第三者対抗要件をブロックチェーン技術で満たすPoCを実施中だ。既に実験は完了し、「最終報告書を経済産業省と法務省に提出する段階」(早川氏)に至っている。

 axiaはトークンの管理や承認通知などコア機能を備え、Ethereum(イーサリアム)系のブロックチェーン基盤を採用した「ブロックチェーン層」。外部システムと連携する「アプリケーションサーバー層」。受託者や発行体、仲介業者、証券会社とAPI接続する「アプリケーションフロント層」の三層構造。プラットフォームの稼働基盤は現在、Amazon Web Services(AWS)のみだが、今後はMicrosoft AzureやGoogle Cloudへの対応も予定している。

 さらに、他社が運用するセキュリティトークンオファリング(STO)基盤との相互運用性の確保、中央銀行デジタル通貨(CBDC)や海外決済システムとの連携も視野に入れている。axiaを利用したシステムを開発するTrust Base 取締役CEO(最高経営責任者)兼三井住友信託銀行 デジタル企画部 主任調査役の田中聡氏も「権利が流通する仕組みを作れたのは大きな一歩。また、証券・銀行との接続に自社開発が必要になる場合も少なくないが、アプリケーションサーバー層のAPIはありがたい」とコメントを寄せた。

 デジタルの世界では保守性よりも革新性が重んじられるが、田中氏は「既存の決済業務や資産を多く抱える金融機関は守るべきものも多く、(中央集権型から分散型への完全移行に)時間を要するだろう。受託者の責任に関する議論も残っている。ただ、分散型へ移行した後には金融機関としての新しい役割が生じるはず。そこに応えていくために研究・開発に努めているのが現状」と説明しつつ、個別手数料をなるべく抑えた小口取引など、新しい市場創出にもつながると予見した。

 国内やシンガポールでは不動産のSTOが中心となっているが、世界では未上場株式のSTOに注目が集まる。アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部 シニア・マネジャーの藤瀬秀平氏は、グローバルにおけるSTOの市場規模について「当初はスロースタートだが、発行額観点では約10年で50兆円程度になる」と予測する。その理由として、これまで流動性を持つことが難しかった様々なアセットがトークン化を通じて流動性が生まれやすくなることに加えて、発行済み証券などを投資家間で売買するセカンダリーマーケット(二次市場)の活性化や、2020年代後半にCBDCの導入などが見込まれるためだと説明した。

 早川氏も「株式や債券など既存資産の取引も、新しいプラットフォームに置き換わる可能性は十分にある。デジタルで完結する基盤を用意すれば、利益を上げにくい証券会社も移行してくるだろう」と予見する。ただし、「現段階のSTOは初期段階にある。仲介業者である証券会社からすれば発行体の発言力が強く、売れる商品を持っている発行体が利用するプラットフォームを選択せざるを得ないため、様子見ムードが強い」と指摘する。

 他方で、「個人投資家はセキュリティトークンを利用した商品に対する関心度が高い。だからこそ初期投資費や相互運用性の確保、セカンダリーマーケットとの連携が課題の一つだと捉えている。さらに非金融系顧客はサービスに能動的で、法整備が整ったタイミングで(取り組みを)始めても一気に置いていかれる可能性が高い」(同氏)と述べながら、axiaを金融に限らず信頼性を持った社会基盤に育て上げるため、技術力の向上に務めるとした。

 デジタルアセットを大まかに分類すると、仮想通貨を指し示す「ペイメントトークン」、不動産や債権を扱う「セキュリティトークン」、会員権や優待券など汎用的な「ユーティリティートークン」、非代替性トークンの「NFT」がある。

 axiaでは汎用的なビジネス基盤を目指しており、早川氏は「セキュリティトークンを手始めにユーティリティートークンの拡充を目指す。ペイメントトークンも暗号資産やステーブルコインの即時決済を実現するために連携していく」といい、「昨今はメタバースの文脈でNFTに関する問い合わせが増えている。もしかしたら近い将来、ビジネス規模が急拡大する可能性がある」と話す。

 axiaを利用する企業やその恩恵を受ける消費者の拡充が喫緊の課題だ。その上で、田中氏は「axiaが発展すれば個人投資家による売買や、ユーティリティートークンなど利用の幅が増えるだろう。顧客への直接販売や信託銀行の商品を直接提供できるチャンスであり、UI/UX(ユーザーインターフェース/ユーザーエクスペリエンス)にこだわることで、大きな差別化になるだろう」と語った。

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