ICT集積地アイルランドにおけるIoT事情–後編
今回は「ICT集積地アイルランドにおけるIoT事情–後編」についてご紹介します。
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多くのグローバルIT大手企業が拠点を置くアイルランドは、今や世界最大の情報通信技術(ICT)サービスの輸出国となっています。前回は、IoT(Internet of Things)の現状について、製品やサービスを手掛ける企業がデータを「収集」「接続」「変換」するために必要な環境や人材など、アイルランドにおけるエコシステムを中心にご紹介しました。今回はその後編として、スマートモビリティーやスマート製造を例に、IoTによるサービスの進化を現実のものにすべく、企業やアカデミアなどがテストやシミュレーションを行う2つの研究施設をご紹介します。
近未来の技術革新として期待されるスマートモビリティーでは、自律型制御システムが不可欠であり、その実現に向けてIT企業が大きな役割を果たします。現在の開発においては、もはやハードウェアやエレクトロニクスの知識を持つ自動車会社の専門知識だけでなく、ソフトウェアやプログラミングの分野での専門知識が重要になりました。また、将来のモビリティーに対応するインテリジェントカーは、単独で機能するだけでなく、交通状況や天候など環境中のほかのスマート要素と円滑に相互作用することが求められます。
スマートモビリティーの実現には、これら全ての分野の技術を組み合わせた共同プロジェクトによるテストや開発が行うための環境が必要です。そのため、多くの企業が日本の「Toyota Woven City」やロンドンの「Smart Mobility Living Lab」、アイルランドの「Future Mobility Campus(FMCI)」 などの専用のテスト環境で、自社のソリューションをテストする方法を模索しています。これらのテスト環境の多くは、自律走行車、コネクテッドカー、電気自動車、共有車(ACES)、航空モビリティー、スマートシティーインフラの研究・開発・イノベーションを推進するために、特別に設計された大規模なキャンパス施設となっています。
アイルランド西部のグレーターリムリック・シャノン地区にあるFMCIには、Jaguar Land Rover Automotive、General Motors、Cisco Systemsなど自動車やテクノロジーのグローバル企業やアカデミア(学術界)、研究所などが参画し、データ分析やエンジニアリング、ソフトウェア開発などさまざまな分野において共同開発や研究を行っています。
ここでは、コントロールセンターが監視する一連の相互接続された道路や交差点、自律走行型駐車・積載ゾーンなどの環境が整備され、開発中の技術検証や改良につなげるためのデータ収集、さらに新たな技術開発へつなげるためのさまざまな洞察を得ることできます。現在進められているプロジェクトでは、衝突を回避するための車両間通信から、雨や霧などの気象情報やドライバーの生理データから判断する休憩の必要性などをコントロールセンターに知らせる車両間通信まで、さまざまな技術検証が行われています。特に、革新的なプロジェクトとして、FMCIスペースを利用したドローンによるエアタクシーのサービスの技術検証に注目が集まっています。
このようなテスト環境は、技術の進歩に合わせて急速に進化しています。FMCIでは現在、テストトラックに最新のデータ取得ポイントやスマートノードが設置されています。これらにより、自律走行車とのリアルタイムな通信、最新情報の取得を行い、車両制御システムが潜在的な危険を警告する技術の検証などが可能になり、研究や検証のさらなる深化に貢献しています。
さらに、豊富な専門知識と研究データを持つリムリック大学をはじめとするアカデミアと最新のハードウェアや先進的な事業プランを持つテクノロジー企業が双方のリソースやアイデアなどを持ち寄ることで、新たに組成された数多くの研究プロジェクトが進められています。FMCIは、グローバルなテクノロジー企業とアカデミアなどとのネットワークやパートナーシップが形成される場として機能しており、今後も多彩な研究開発プロジェクトが産み出され、大きな成果を挙げるだろうと期待されています。
FMCIは、スマートモビリティー分野の規制の発展にも貢献しています。スマートモビリティーを実現するためには、技術や環境の急速な進歩に合わせて、的確な規制を設ける必要があり、現在FMCIは、アイルランドの公道で自律走行車の走行を可能にする法律を提唱している有力な組織の一つです。現在の規制下で自律走行車は、FMCIのキャンパス内しか走行できません。実用化へ向けた次のステップとして、実際の公道でテストを行い、技術や安全性の検証し、実用化へ向けたさまざまな問題の解決を図ることが不可欠です。公道における自律走行車のテストについて、道路交通に関する次期法律案において考慮されるよう、今後も規制当局への働きかけを行います。