クラウド/データセンター領域でも存在感–英アームが描くインフラ向け事業戦略
今回は「クラウド/データセンター領域でも存在感–英アームが描くインフラ向け事業戦略」についてご紹介します。
関連ワード (ITインフラ等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。
本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
アームは9月15日、インフラストラクチャー向けプロセッサー「Arm Neoverse」の最新ロードマップを明らかにした。
Neoverseは、データセンターやクラウド、第5世代移動体通信システム(5G)基地局のようなエッジコンピューティング環境での利用を想定したプロセッサー。これまで主に携帯電話/スマートフォンのようなモバイル機器やIoTデバイスに搭載されてきた同社のプロセッサーアーキテクチャーをより高い処理能力の求められるコンピューティング領域に拡大したものだ。2018年に発表され、2019年に最初の製品「Neoverse N1」が市場投入された。
英Arm 最高経営責任者(CEO)のRene Haas氏はビデオメッセージの中で、今期の業績が順調に推移していると説明。データセンター向けシリーズのNeoverseについては「電力効率が最重要」であるといい、「それこそがArmのDNAだ」と基本的なアーキテクチャーは一貫している点を強調した。
アーム 応用技術部 ディレクターの中島理志氏は、米Amazon Web Services(AWS)のシニアバイスプレジデントでディスティングイッシュトエンジニアであるJames Hamilton氏が自社のプロセッサ開発に関して説明した資料を引用し、2013年の時点でAWSのカスタムハードウェアに関する将来展望として「Armアーキテクチャーのプロセッサーがサーバー分野でも拡大していく」「サーバーのイノベーションはSoC(システムオンチップ)によってもたらされる」「よってAWSは(Armアーキテクチャーベースの)独自プロセッサーを開発すべきだ」と語られていることを紹介した。その後、AWSが仮想マシンサービス「Amazon Elastic Compute Cloud」(Amazon EC2)向けの独自プロセッサーとして開発された「AWS Graviton2」がNeoverse N1の最初期の採用例となっている。
また、最近ではネットワークでやりとりされるデータに対する暗号化やセキュリティ関連の処理などをCPUからオフロードして専用に処理するための「DPU」(Data Processing Unit)と呼ばれるプロセッサーが各社から発表されている。この主要な実装(「AWS Nitro」「Intel Mount Evans」「Marvell OCTEON」「NVIDIA BlueField」「AMD Pensando」)はArmアーキテクチャーに基づいており、クラウド/データセンターのインフラにおいても重要な役割を果たしているという。
Neoverseは当初、スケールアウトによる性能向上を重視する「バランス型」のNシリーズが市場投入されたが、現在は「高性能版」と位置付けられるVシリーズ、「スループット」を重視したEシリーズが加わっている。新たなロードマップでは、Vシリーズの新型「Neoverse V2」(開発コード名:Demeter)が追加された。既にパートナー各社がNeoverse V2ベースのプロセッサーを開発しているといい、具体例として、NVIDIAが独自の汎用CPUとして投入予定の「NVIDIA Grace」がNeoverse V2ベースで開発中だという。
応用技術部 FAEの喜須海統雄氏は、Neoverseの各シリーズについて「V-シリーズは性能の最大化とTCO(総所得コスト)の最適化、Nシリーズは電力消費量当たりの性能効率、Eシリーズはスループットの効率」をそれぞれ重視して開発されていると説明。その上で、Neoverse V2に盛り込まれた技術として「整数演算性能の向上」「2MBのプライベートL2キャッシュ(V1比2倍)」「SVE2 4×128bit」「BF16/INT8 MatMul(行列積)サポート」「最大512MBのシステムレベルキャッシュ」「CMNメッシュで最大4TB/s」「DDR5/LPDDR5メモリーのサポート」「CXL 2.0サポート」「Armv9セキュリティ」などが紹介された。
長引くコロナ禍やウクライナ情勢の影響、さらには半導体不足もまだ解消されてはおらず、景気動向も不透明な状況となっている。クラウド大手各社も投資を手控える姿勢を示しているとされ、データセンターインフラの成長は直近では減速局面に入っていると報じられる状況だ。とはいえ、中長期的には計算資源の増強は必須だし、かつ環境問題への影響も考えれば、今後も電力効率を重視しつつ処理性能を引き上げていくというアプローチが引き続き重視されることは確実だろう。
元々は大きな電池を積むことが難しいモバイル機器などでその電力性能が高評価を得たArmのプロセッサーアーキテクチャーだが、現在ではデータセンターインフラにおいても地位を確立した形だ。今後、Neoverse V2ベースのプロセッサーが市場に出てくることで、さらにその存在感が高まることになりそうだ。