第53回:情シスは人材採用の優先順位が低い
今回は「第53回:情シスは人材採用の優先順位が低い」についてご紹介します。
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ほぼひとり情シスである1.5人情シス(1人分は専任、0.5人分は兼任)を抱える中小製造業の社長と話をした時のことです。その会社は情シス担当者の努力もあり、かなりIT化が進んでいました。IT要員を拡充すれば、IT活用による業務の効率化がさらに進み、ビジネスが伸びるだろうと感じていました。また、当時の情シス担当者の仕事量は1人分を超えている現状でした。
そこで「なぜ情シスを増員しないのですか?」と尋ねたところ、「余裕があれば情シスも増員したいが、他に優先しなければならない人材が幾つもある」と社長は回答されました。すぐにでも欲しい人材としては、生産能力を高めるための工場関係者、顧客の細かいニーズに対応するための開発技術者、既存顧客が先細りなので新規顧客を開拓できる営業担当などが挙がりました。
IT業界ではどの企業も大規模採用を続けています。ユーザー企業の情シス部門でも積極的に人材を採用しています。先端IT人材である人工知能(AI)やデータアナリストなどは、大手企業で引く手あまたの状態です。これらのことから、IT業界の中にいると未曾有の人材不足を感じます。しかし、この中小製造業では優先順位が異なります。
前述の社長の言葉を思い出して、最新のデータとして厚生労働省が2022年8月に発表した「一般職業紹介状況[季節調整値(除パート)](令和4年7月分)」を調べてみました。ITエンジニアのカテゴリーである「情報処理・通信技術者」の求人倍率は1.48倍でした。新型コロナウイルス感染症の拡大直後の2020年6月を底に回復し始め、現在では感染症の拡大前を上回るほどの数値にまで増加していました。このデータから、IT業界における人材不足は現実問題と言えるでしょう。
しかし、「情報処理・通信技術者」よりも求人倍率の高い職種が幾つもありました。建築業界では人材不足のために休暇を取れない、工期が遅れるといった問題が発生していることを裏付けるように、「建築・土木・測量技術者」では求人倍率が5.41倍でした。「介護サービス」では3.7倍、「医療技術者」では2.96倍となっていることから、日本が超高齢社会であることを実感するところです。
そして、前述の製造業の社長の話がデータに現れていました。「生産工程職種」は1.9倍、「事務-生産関連」は1.8倍で、製造現場の職種の方がITエンジニアより求人倍率が高かったです。また、「営業職」は1.83倍、「開発技術者」は1.68倍であり、いずれもITエンジニアの数値を上回っていました。
ひとり情シスの方々も増員要求をしてはいます。しかし、人材不足で疲弊している部門が他にもあること、そして優先する職種を積極的に採用している様子を目の当たりにしています。人材採用の予算枠は一緒なので、あまり大きな声で増員を進言できないという声も多いです。製造現場の人員や営業職、開発技術者などを社長が優先したい気持ちも、ひとり情シスが増員の進言をためらう気持ちも理解できます。しかし、サイバーセキュリティなどのリスクに対応できていない、ITシステムが老朽化しているといった差し迫った要件がある場合には、情シス人材の優先順位をもっと上げてほしいと思うところです。