営業DXサービスへと路線変更した「Sansan」–担当幹部に聞く背景と狙い

今回は「営業DXサービスへと路線変更した「Sansan」–担当幹部に聞く背景と狙い」についてご紹介します。

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 コロナ禍で取引企業や新規顧客企業の担当者と名刺交換する機会が減る中、名刺管理サービス「Sansan」は2022年4月に営業DXサービスへと路線変更した。以前から提携する帝国データバンクの企業データベースと、Sansanが名刺管理領域で蓄積してきた「接点データ」を掛け合わせて新たなサービスの醸成を狙っている。その背景と狙いを同社で執行役員 Sansan Unit ゼネラルマネージャーを務める加藤容輔氏に聞いた。

 2007年に登場した名刺管理サービス「Sansan(旧Link Knowledge)」は、われわれのビジネスに大きく寄与してきたのはご承知のとおりである。埋没しがちな名刺データを人工知能(AI)分析と人的入力を組み合わせ、従業員が得た名刺を企業のデータベースに蓄積することで顧客接点を活発化させてきた。

 だが、2020年当初から今も続くコロナ禍のソーシャルディスタンスは名刺交換の機会を減らした。名刺データ化週次枚数は、2020年5月11日週に前年同期比-65.1%と落ち込む。ただし、同年6月29日週には-13.6%まで回復。Sansanを契約件数で見た場合、2019年5月期 第1四半期末の5362件から、8644件(2023年5月期 第1四半期末)と約1.6倍に拡大している。

 コロナ禍に対応するため、2020年3月にリモートワーク時でも名刺交換できる「オンライン名刺交換機能」で機能強化を図った。2021年12月にはメール接点をデータとして蓄積する「スマート署名取り込み」を追加している。

 しかし、Sansanに関して「事業は堅調だが成長率が鈍化している」(加藤氏)ことから、2022年4月には名刺管理サービスから「営業を強くするデータベース」へと大きく舵(かじ)を切った。「機能的な対応ではなくコンセプトから考え直した」と同氏は説明する。

 2023年5月期 第1四半期末のSansanストック売上高は前年同期比14.1%増、その他の売上高は同48.1%増、契約件数は同8.2%増、契約当たり月次ストック売上高は同5.5%増と堅調で、解約率も1%以下を維持してきた。それでも「我々は30%成長を基本的に目指している。SaaSビジネスモデルにおいて高い成長率は重要。機能拡張だけで30%成長の推進力を取り戻すのは難しい」(加藤氏)との判断からプロダクト刷新に至っている。

 さらに、会社として、Sansanとキャリアプロフィール「Eight」を事業の柱としていたが、インボイス管理サービス「Bill One」や契約DXサービス「Contract One」などを加えたマルチプロダクト戦略へと移行。体制も事業部制からプロダクトユニット制になり、加藤氏が担当するSansan UnitがSansanのイノベーションに責任を持つことになったのも背景にあるという。

 「会社の目線では、コロナ禍によって紙の名刺の流通が減るというのはピンチだが、あえてチャンスと見た場合に何ができるだろうという考えが強かった」と加藤氏は振り返る。

 営業DXサービスとしてのSansanは、100万件以上の企業情報を、従業員の接点ある・なしに関わらず閲覧可能な「企業DB」タブを新設。既存の接点データと掛け合わせながら、営業やマーケティング活動での活用を見込んでいる。また、「Microsoft Teams」や「Google Workspace」との連携もSansanが持つ強みの一つだが、企業が運用するウェブサイトの問い合わせフォームとSansanを連携させて、氏名や企業名、メールアドレス、電話番号などフォームに入力した顧客情報をSansanへ登録する「スマートフォーム」で顧客接点を拡大させる。

 さらに「Sansan Data Hub」のデータ統合機能で生成した精緻(せいち)化データを顧客関係管理(CRM)や営業支援システム(SFA)、マーケティングオートメーション(MA)ツールと連携させ、効果的なマーケティング活用を狙う。

 企業データと顧客に対する接点データに着目した理由について加藤氏は、「名前と役職の関連付けが重要。(Sansanに蓄積した接点データと企業データを組み合わせて活用する機能強化で)企業と従業員、両面からデータを増やしていく」と述べながら、コロナ禍で顕在化した営業部門の課題を解決するためにデータを集約しながら、新たな気付きを得る営業DXを目指すと説明した。

 路線変更後のSansanの評価について、加藤氏は、エンタープライズ領域では一定の手応えがあるものの打ち手がさらに必要とする一方で、「反応が顕著なのは中小企業領域。企業データと接点データから営業DXが実現できる。例えばセミナー開催を伝える時も、オンライン・オフラインと複数のバリエーションを持てる。かつ、営業活動を行っていない企業データから、営業部門やマーケティング部門の活動も可能。これが鮮明に反応している。これまで皆さんが困っていた領域」だと、新規営業に苦慮していた中小企業の反応を語った。

 さらに「日本は製造業が多いものの、新たな製品・サービスを提供しないと厳しいことに気付いている。だが、自社の研究開発資産だけでは実現できないため、各製造系企業のアイデアを組み合わせなければならないが、ここが難しい。そこでカギを握るのは共通の知人。組織の壁を越えるために人脈を活用し、Sansanを研究開発(R&D)に活用する例は少なくない」と新たな可能性を提示した。今後同社は前述した30%成長を実現するために複数の仕掛けを用意し、中期的にはコラボレーション領域の強化を図る。

 「いずれにせよ、日本の営業の労働生産性をデータで助けたいというのはある。コロナ禍によって営業の労働生産性は下がっているがノルマは上がっている。そこをデータの力で手助けしたい。それにより、営業部員もより強みを生かした営業ができるのではないかと考えており、それを実現したい」(加藤氏)

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