第3回:感染症リスクとサプライチェーン
今回は「第3回:感染症リスクとサプライチェーン」についてご紹介します。
関連ワード (今こそ考えるサプライチェーンリスクマネジメント、経営等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。
本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
前回は、サプライチェーンを覆うリスクについて、ハザードリスク・社会リスク・経営リスクに分類しつつ、事業への影響を縦軸に、発生頻度・発生可能性を横軸においた「リスクマップ」による整理をご紹介しました。そして、その中でも重要性の高まっている地政学リスクとESG(環境、社会、ガバナンス)リスクを取り上げました。今回は、新型コロナウイルス感染症の流行でわれわれが認識を改めなくてはいけなくなった「感染症リスク」について解説します。
2020年前半から感染拡大した新型コロナウイルスによって、世界中のサプライチェーンは逼迫(ひっぱく)と混乱をきたしました。ロックダウンによって中国や東南アジアで工場稼働が停止する一方、オンラインエコノミーの拡大でコンピューターや通信機器向けの半導体について需要が急増して不足が発生するなど、各社は生産調整に追われました。
これまでいわゆる事業継続計画(BCP)で想定されていたのは、自然災害や事件・事故といったハザードリスクです。感染症も自然災害の中に分類されますが、地震や台風を想定してBCPを策定していた企業はあっても、感染症の蔓延を前提に綿密な計画を立てていたのは、2002~2003年に感染拡大した重症急性呼吸器症候群(SARS)の影響を受けた企業など一部に限られるのではないでしょうか。
下図は、コロナウイルスの流行がどのようにサプライチェーン逼迫へつながったのかを、単純化して示したものですが、現実にはもっと複雑な因果関係が絡み合っていたはずです。その理由は、サプライチェーンにおける活動量にブレーキをかける事象(景気悪化や感染による業務の停滞など)と、アクセルを踏む事象(コロナ対策関連製品やオンラインショッピングの需要急増など)が同時に存在し、お互いに影響を与え合うからです。
次に、時間的に区切りを設け、感染拡大期と収束期にそれぞれどのような影響が出たかをまとめてみます。
感染が各国に広がってパンデミックが宣言されたことにより、経済活動全体に急ブレーキがかかり、生産・販売が縮小しました。当然、船舶や飛行機による輸送に対する需要も、それに合わせて急激に縮小することとなります。ただし一方で、「巣ごもり消費」に対応するモノやサービスについては、コロナ禍以前と比較して需要が急拡大しました。一言で言うと需要と供給のバランスが短期間で急激に歪められたわけです。
感染の勢いが弱まり、ワクチンが普及することで収束のフェーズに入ります。経済は再始動するものの、拡大期に急激に縮小した海上輸送力・航空輸送力をすぐには戻すことは難しく需要が供給能力を上回る状況となります。また、一度変わったライフスタイルはすぐには戻りませんので、需給予測を正確に行うことは困難です。
何より難しいのは、第1波、第2波、第3波といった形で感染が拡大と収束を長期間にわたって何度も繰り返していることです。この点がその他のハザードリスクとは明確に違う性質だと言えるでしょう。
下図は、自然災害と感染症で、それぞれ業務レベルがどう変化するかを示したものです。台風や地震などの自然災害では、発災と同時に業務レベルは一気に落ち込みます。例えば、工場に浸水が発生し、生産がストップした場合を想定してみてください。その後BCPを発動し、水をくみ出して生産ラインの復旧を進めたり、代替生産先を確保したりするなどの対策を実施することで、業務レベルは基本的には不可逆に回復していきます。