NEC、製造現場に量子着想技術を本格導入–生産計画の立案工数を90%削減
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NECとNECプラットフォームズは1月20日、量子アニーリング技術を生産計画立案に適用する実証で大きな成果を確認したとして、3月からNECプラットフォームズの国内4工場に本格導入すると発表した。製造業の顧客企業への販売提供も予定している。
量子アニーリングは、量子コンピューティング処理を疑似的に行う技術で、特に膨大な組み合わせパターンから最適なものを高速に算出する用途に適している。NECは、複雑な設定条件を伴う生産計画の立案に量子アニーリング技術を適用する実証を2019年から進めており、2020年2月からは同社のIT機器製品を生産しているNECプラットフォームズの福島事業所などで導入実証を重ねてきた。2022年6月の展示会では、その成果の一部を発表している。
同日記者会見したNEC 量子コンピューティング事業統括部長の泓宏優氏は、人間の手では困難な組み合わせパターンの最適解を導く方法として、人工知能(AI)/機械学習(ML)と量子アニーリングがあり、一連の実証から製造現場の課題解決には量子アニーリングが向いていると説明した。
泓氏によれば、AI/MLでは膨大な過去の学習データを使って計算結果の精度を改善していくが、計算のアルゴリズムを改善させるための根拠(AI/MLが計算出力したある結果の根拠)を把握することが難しい一方、量子アニーリングでは、ある試行内容に対する結果が明確であり、それを根拠に実効性のある改善を図れるという。
「アニーリングでは変更したロジックに対する結果からその根拠を明確にすることができ、現場が抱えるさまざまな組み合わせ最適化の業務課題に対して有効な手立てになることが分かった。生産計画での実証の成果を基に、例えば、災害時における最適な避難経路を瞬時に算出するといった多様な応用ができると期待され、来年度(2023年度)以降、さまざまな展開をしていけるだろう」と泓氏は述べた。
NECプラットフォームズ 生産技術本部 マネージャーの重岡雅代氏によると、同社での実証は、国内2拠点でプリント配線板の表面に電子部品を実装、接合するSMT(Surface Mount Technology)ラインにおける生産計画の立案を対象に行った。SMTラインは、プリント基板を製造する共通工程として1つのラインで製造する品種が多く、複数品種を混流生産する。生産品種を変更する際にラインを停止して部品や治工具、設備設定などを変更するため、ラインの停止頻度を極力減らすことが生産率向上に不可欠であり、変更作業での段取りが少ない生産計画を立案することが求められる。
現在は多品種少量生産で、近年は世界的な半導体不足など部品調達が予定通りとならない状況が生じている。こうしたことで納期や生産数量などの急な変更が起こり、立案した通りに生産計画を行うのが難しく、熟練担当者の経験と勘を駆使して対応している。同社は平均して1日当たり30品種の生産計画を立案し、計画パターンは4×10の30乗という膨大な数になるという。
計画を立案する際には、例えば、同一品種の生産を優先するようなパターンだと、急な納期の前倒しといったスケジュールの変更へ柔軟に対応するのが難しいという。他方で、スケジュールを優先して変更が頻発すれば、ラインを何度も停止するため生産効率が下がる。このようなことを複数のラインで同時的に実施し、かつ担当者や治工具の割り当て条件なども随時変わる。
泓氏によると、実証では、計画を立案する熟練担当者自身の経験や勘(暗黙知)を量子アニーリングで計算実行するアルゴリズムにしていく開発が最も困難だった。「システム自体の導入なら半年から1年ほどでできるが、実証に要した時間は想定より長かった。人が持つ知識や経験をコンピューターで実行できるよう明文化することが難しい」(同氏)という。
実証の結果は、熟練担当者の作業で1~2時間を要した計画立案時間が数秒程度に短縮され、工数を90%削減できる効果が確認された。品種を変更する際の生産ラインでの段取り工数も50%削減され、設備稼働率が15%向上したとしている。
この成果を踏まえて3月からNECプラットフォームズの福島、白石、大月、掛川の各事業のSMTラインの生産計画に量子アニーリングを本格導入する。重岡氏によれば、今後SMT以外にも量子アニーリングの適用を拡大させるとともに、海外拠点ではタイ工場のSMTラインにこれをまず適用する予定だという。
量子アニーリングを使った生産計画立案の仕組みは、製造向けソリューションメニューとして顧客への販売も準備しているといい、スマートインダストリー統括部 シニアビジネスプランナーの北野芳直氏は、データを活用して生産を高度化させる「ものづくりDX(デジタルトランスフォーメーション)」を提供していく方針を明らかにした。
泓氏によると、2022年末までに約100社の顧客とこの仕組みの商談を進めているといい、導入費用の目安は、同社の規模で数千万~数億円になるとのこと。2023年度から1~2年をかけて中規模製造向けに、より安価な製品化も進めていくとしている。