第6回:自己規律、自己組織化–アジャイルとともに成長していくチームと開発者たち
今回は「第6回:自己規律、自己組織化–アジャイルとともに成長していくチームと開発者たち」についてご紹介します。
関連ワード (不確実性の時代に、アジャイル開発で向き合っていこう、開発等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。
本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
現代社会は多くのものがソフトウェアで成り立っており、絶えず変化するニーズに応じられる柔軟でスピーディーな開発が求められています。その一方、何が正解(ゴール)なのかが分からない、という不確実性の時代でもあります。不確実性に対処するには「アジャイル開発」が最も有望ですが、その成功裏の実践には、従来の常識の解体と再構築が必要です。エンタープライズにおけるアジャイル開発の実践が待ったなしの状況の中、理論、課題、近年の動向も踏まえ、実例を交えながら幅広く解説します。
早いもので本連載も折り返し地点を迎えました。前半はウォーターフォール開発と対比させる形でアジャイル開発の生い立ちと特徴、特にアジリティー向上のために無駄を省き早く価値を生み出す仕組みや、早い段階でリスクを解消し品質を向上させるメカニズムが巧妙にビルトインされて(組み込まれて)おり、それらがなぜ機能するのかを、主に開発方法論の観点から述べてきました。今回と次回は視点を少し変えて、メンバーの自己規律やアジャイル開発におけるリーダシップのあり方といったマインドセットの観点から重要なポイントを解説します。
「サイバネティクス」という言葉をご存じの方は多いと思います。乱暴を承知で一言でまとめると、「社会を根幹の部分で成立させているのはコミュニケーション(通信)であり、従って社会を理解するためには、人間(動物)と機械とのあいだの『通信』と『制御』を一体かつ複合的に観察することが重要」という考え方から発展した学問です。サイバネティクスにおいては、通信と制御の仕組みを「フィードバックループ」とみなし、そこに入出力されるものを全て情報として捉えますが、フィードバックとは、人間(動物)であれ、機械であれ、人工知能(AI)であれ、ある機能を持ったシステムが何らかの目的をもって何らかの行動や作用を起こした時に、結果として起こった反作用を取り込むプロセスのことを指します。例えばコップを手に取る場合、われわれは視覚から指先までの全ての器官を動員し、フィードバックを伝達し、コップをつかむという行為を成立させています。
このフィードバックには、「正」と「負」の2種類があり、正のフィードバックが今起こっている状態を継続・強調させる方向に働くのに対し、負のフィードバックは、その状態を打ち消す方向に働きます。正のフィードバックは安定的な状態であってもそれが無限に続くことは不可能である一方、負のフィードバックは最初は不安定な状態にあっても、その状態を解消する方向に働くため、しばらくすると安定的な状態に移行します。この2つのフィードバックを生かし、世界を席巻したのがいわゆる「オートメーション」、自動制御の技術です。
開発活動においてもフィードバック、とくに不安定な状況にある際に発せられる負のフィードバックシグナルを検知し、その状態を打ち消す方向に作用させることが極めて重要になってきます。必要なのは、(a)過去を顧み軌道修正を行うための定期的なチェックポイント(場)、(b)フィードバックを検知するためのセンサー(技法)、そしてこれが最も大切なのですが、(c)負のフィードバックに対する本能的な拒否反応や感情に注意を払い、自分たちの感情について率直かつ生産的な話ができるルール(マインドセット)を作ることです。アジャイル開発において毎スプリント(反復)の最後に実施する「ふりかえり」または「レトロスペクティブ」と呼ぶ極めて重要なプラクティスがこれに該当します。以下でその概要を見ていきます。
フィードバックは収集するだけでは価値が生まれず、チーム内で共有し、内容の確からしさを関係者が合意することで初めて次のアクションにつながります。そのためには定期的なチェックポイントの場を設ける必要があります(図1)。E. Yourdon氏の著名な本「Death March」にもある通り、延々と続く恐怖のプロジェクトの問題点は、過去をふりかえり軌道修正を行うためのチェックポイントが存在しないことです。
開発メンバーや開発プロセスからフィードバックシグナルが発せられていたとしても、それに気づかなければ改善は望めません。開発メンバーに「何か困っていることがあるか?」と直接尋ね、フィードバックを促すことは多くの組織で既に行われているでしょう。ただ、尋ねられた方も、果たして全体像や正しい原因を掴めているのか、どう説明すれば理解してもらえるのか、といった別の悩みを抱えています。漠然と尋ねるのではなく、先人たちが確立した、データを収集しアイデアを出す上で有効な技法を採用するところから始めるのが良いでしょう。