DX先進企業のニチガスが考える、デジタル推進組織の在り方(前編)
今回は「DX先進企業のニチガスが考える、デジタル推進組織の在り方(前編)」についてご紹介します。
関連ワード (CIO/経営、先進企業が語る「DX組織論」等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。
本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
この数年で多くの企業が事業戦略の中核にデジタルトランスフォーメーション(DX)を据えるようになり、一部では成果も見え始めている。ただし、ほとんどの企業は組織づくりやデジタル活用ができても、DXの本質である「デジタル技術によるビジネスモデルの変革」まではたどり着けていないのが実情である。
DXで着実に成果を上げている企業とそうでない企業は、一体何が違うのか。この連載では、「DX成功の鍵は実効性が備わった“専任の推進組織”にある」との仮説のもと、DX先進企業のDX組織が持つミッションや機能、設置の背景などを紹介し、機能するDX推進体制の構築と運用のポイントを探っていく。
今回は、DX先進企業として注目を集め、各種メディアでも先進的取り組みが紹介されている日本瓦斯(以下、ニチガス)のDX推進を支える組織を掘り下げる。
ニチガスは現在、創業時から行っているLPガス(液化石油ガス)小売事業を中核とした「総合エネルギー小売事業」と、事業を通じて開発したシステムや培ってきたオペレーションのノウハウを他のエネルギー事業者に提供する「プラットフォーム事業」を展開している。そしてその背景には、ITやデジタルの積極的な活用がある。
これまでの具体的な取り組みとしては、まず2014年に業界に先駆けてフルクラウドで拡張性を備えた基幹システム「雲の宇宙船」を開発。営業支援、配送、検針、保安といった業務をスマートフォンやモバイルベースで行えるように改革を実施し、それ以前から取り組んでいた物流改革と併せて業務効率化を実現している。
その後も、ガスメーターをオンライン化するIoT機器「スペース蛍」を開発し、検針・保安の自動化および配送の効率化を実現。その他にもさまざまな事業者から別々の通信規格で送られてくるデータを収集統合する基盤「ニチガスストリーム」、さまざまなサービス向けアプリケーションの開発環境となるオープンAPIプラットフォーム「データ・道の駅」、さらにLPガス事業に関わるIoTリアルデータや物理資産を仮想空間上に再現し、AIで分析・処理を行えるデジタルツイン基盤「ニチガスツインonDL」など、続々と新しいテクノロジーを活用したシステムを開発して、業務改革および外販ビジネスに挑戦している。
プラットフォームアプリとしても、法人向けの複数システムを横断して検索できるサービス「ニチガスサーチ」や、月々のエネルギー使用量やサービスの利用料金を表示するアプリ「マイニチガス」を提供している。それらの取り組みの成果として、経済産業省などが毎年選定する「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」およびその前段の「攻めのIT銘柄」に7年連続で選出され、2022年度にはグランプリを獲得している。
そのようなニチガスのDXを支えているのは、エネルギー事業本部という本筋の事業部門傘下に組織された情報通信技術部である。同部署はグループ全体のITを統括する社内唯一のIT組織となっている。当然組織の中には重要システムの開発、システムやネットワークの保守といった一般的な情報システム部の役割も担っており、専任のDX専任組織というわけではない。同社のDX推進体制がそのような形になっている理由について、エネルギー事業本部 情報通信技術部 部長の岩田靖彦氏は次のように説明する。
「ニチガスでは経営陣を筆頭に、デジタルを活用して業務改革に取り組むことが社員の意識に浸み込んでいる。その中で専任組織を作っても結局幅広い業務を全部抑えきれないので、ピントが合ったDXができない。DX推進者が現場から離れたら、どうしても机上感が出てしまう。そこで当社のDX推進体制は、現場で困っている人自身が考えてDXを進めていき、それをわれわれが支援する形となっている」
一般的には、全社で新たにDXを進めたいが、それが簡単ではないために推進本部や専業子会社を作り、専門人材を集めてその旗頭的組織を中心にDXを進めようとする。それに対しニチガスではデジタル活用のマインドが既に定着し、現場で困っている人たちが解決策としてデジタルを使って何かをする、業務を効率化するという体制がかなりの部分で既に出来上がっているため、DX人材を集約した専任部隊は必要ないという図式が成り立っているのである。
ニチガスでのDXの推進は、メディアにも数多く登場している取締役会長執行役員の和田眞治氏や代表取締役社長執行役員の柏谷邦彦氏などの経営陣が方針やキーワードを打ち出して、それをどのように実装するかを活用する当事者である現場が考え、そこからIT部門に相談が来て一緒になって仕上げていくという形となっているという。
そのため、本人たちも業務改善が自分事になっているので、自分たちでこうしたい、こうできないかと考えた上でデジタルツールを導入する。その習慣が定着しているために現場だけで完結することも多く、現在同社では、社内で稼働する約3割のデジタルツールは事業側だけで導入から運用までを担っているという。