第2回:大規模パーソナライズに生成AIが欠かせない理由
今回は「第2回:大規模パーソナライズに生成AIが欠かせない理由」についてご紹介します。
関連ワード (CX視点で見るエンタープライズITの未来、マーケティング等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。
本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
営業の強さが企業成長を後押しした時代から商品力の時代を経て、これからの時代は顧客体験(CX)が企業の成長を促すExperience-Led Growth(エクスペリエンス主導の成長)の時代となる。このCXの根幹を握るのがパーソナライズだ。そんなパーソナライズを実現するために欠かせない技術として注目されているのが生成AIである。今回は、これからの時代のパーソナライズの課題とそれを解決する生成AIの関係について考えていく。
第1回は、CXの観点からビジネスやITの進化を見てきた。今回は、そんなビジネス・ITの進化の中でも生成AIが果たす役割について考えてみたい。
現在、生成AIはさまざまなソリューションに取り入れられている。独SAPは2023年9月、自然言語生成型AIコパイロット(AIアシスタント)である「Joule(ジュール)」を発表した。Jouleは人事や財務、サプライチェーンなどSAPのアプリケーション全てに組み込まれ、業務遂行を手助けするという。例えば、「昨年の財務状況を分析して課題を整理してほしい」というプロンプトを投げると関連アプリケーションからデータを収集・分析したり、「人事面接の質問案を用意してほしい」などと言えば質問案を生成したりなど、SAP自体のエクスペリエンスも変えつつ、ユーザーの業務向上を実現するそうだ。
また、米Salesforceも世界初となる顧客関係管理(CRM)向け生成AI「Einstein GPT」を2023年3月に発表している。発表資料によると、「全てのSalesforceクラウドに対してパーソナライズされたコンテンツを作成し、全ての従業員の生産性を改善し、顧客体験を向上させる」とのことで、これもSAPと同様に全ソリューションの基盤として組み込まれているという。
アドビにも「Adobe Sensei」と呼ぶAI基盤がある。2016年に発表されたソリューションで、「Sensei」はもちろん日本語の「先生」に由来している。かねて「Adobe Creative Cloud」に組み込まれており、「Adobe Photoshop」や「Adobe Illustrator」による画像編集で多くのクリエイターの作業を支援してきた。画像内にある余分なオブジェクトの選択・変更を容易にしたり、画像の色や背景に合わせて塗りつぶしを行ったりなど、手元の細かな動きが要求される作業の負荷はAdobe Senseiによってかなり軽減されている。
電子商取引(EC)の領域では、商品の特徴、全体的な検索傾向、トレンドなどに基づいて、Adobe Senseiが関連性の高い商品を自動的に提案する商品レコメンデーション機能などへの実装が既に行われてきた。
そんなAdobe Senseiも、2023年6月に生成AIを活用した新機能「Adobe Sensei GenAI」を発表した。これは「Adobe Experience Cloud」を構成する「Adobe Customer Journey Analytics」「Adobe Experience Manager」「Adobe Journey Optimizer」「Adobe Marketo Engage」にネイティブ統合され、デジタルマーケティングの成果とCXの向上を支援するものだ。
また、ご存じの読者も多いと思うが、アドビは他にも生成AIの「Adobe Fireflyエンタープライズ版」を発表している。Fireflyはデジタルコンテンツの制作を支援するソリューションで、Adobe Fireflyでデザインの叩き台やイメージを素早く作り、Adobe Creative Cloudや「Adobe Express」などのクリエイティブツールで編集することで生産性が劇的に向上できる。
コンテンツ制作やクリエイティブツールというと、クリエイター向けのテーマと認識して「うちの事業向上には何も関係ない」と興味を示さない方も多いだろう。だが、コンテンツ制作に関する課題はクリエイターだけのものではない。その理由は、前回紹介したようにこれからはCXがビジネス成長を加速していくExperience-Led Growthの時代になり、顧客体験の収益を上げるためPDCA(計画、実行、確認、行動)サイクルを回していく必要があるからだ。
この「PDCAサイクルを回す」ということが、実はなかなか難しい。特にCXを左右するパーソナライズを本当に実現しようとなると、ほとんどの企業ではシステム環境がネックとなるからだ。
そのシステム課題を説明する前に、まずExperience-Led Growth時代のパーソナライズとはどのようなものかを確認しておこう。
かつてのパーソナライズは「この商品を買った人はこれも一緒に購入しています」というように、趣味や好み、年代、性別が近しいオーディエンスの行動データから推奨の商品・サービスを提示するというタイプが多かった。しかし現在のパーソナライズは、ユーザーに合わせて提示する情報を最適化する真のパーソナライズへと進化している。
例えば、あるユーザーが旅行サイトで沖縄への旅行プランを検討したとしよう。そのユーザーが再度同じ旅行サイトを訪れると、トップページには一押しの沖縄旅行プランや航空券のお得なプランが提示されている。奄美諸島など沖縄以外の南東リゾートプランも併せて提示し、選択肢を増やして申し込みの確度を上げることもある。ユーザーも、一から情報を検索するよりは、推奨プランからチェックした方が効率的に検討できる。こうした形で、ユーザーのニーズに合わせて提示するコンテンツを最適化し、ユーザー体験の質を上げるわけだ。
このようにパーソナライズを絶えず実現し続けるには、膨大なコンテンツが必要となる。自社商品が1000種類あり、1商品につきイラストや写真、動画、コピーなどさまざまなアセットを25種類用意するとなると、それだけでコンテンツの数は2万5000に膨れ上がる。
さらにそのコンテンツを15の国・地域ごとに用意すればコンテンツの数は37万5000にもなる。パーソナライズでは、その膨大なコンテンツをユーザーの行動に応じて最適化しなければならないので、バリエーションは無数になる。それだけパーソナライズは大規模になっているのだ。商品がアップデートされるとコンテンツアセットも最新版に合わせて制作しなければならないため、制作サイクルの効率化は大きな問題となってくる。