第3回:企業はコンテンツの供給プロセスを今すぐ整備せよ

今回は「第3回:企業はコンテンツの供給プロセスを今すぐ整備せよ」についてご紹介します。

関連ワード (CX視点で見るエンタープライズITの未来、マーケティング等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 企業の売り上げ・収益拡大の鍵を握るのは、どれだけ優れた顧客体験(CX)を提供できるかという“CX力”にかかっている。そんなExperience-Led Growth(エクスペリエンス主導の成長)時代に企業が取り組むべきは、収益を上げるためにCXのPDCA(計画、実行、確認、行動)サイクルを回して大規模パーソナライズの体験価値を向上させ、さらに投資対効果(ROI)を評価していく取り組みだ。しかし多くの企業では、このPDCAを実現するために必要なIT環境が整備されていない現状がある。

 最終回となる今回は、コンテンツを制作・展開する一連のプロセスの整備に必要なIT要件を解説するとともに、その取り組みは決してクリエイティブだけのものではなく、企業にとって欠かせない戦略であることを、実例を交えて説明したい。

 前回は、CXの中核を成すパーソナライズの大規模化を踏まえて生成AIが果たす役割について取り上げた。CX分野における生成AIは、カスタマージャーニー分析の支援やツール使用時のアシスタントのほか、マーケティングコピー(商品やサービスの魅力を伝えるための文言)の作成やコンテンツ制作支援などさまざまな機能で現場業務を支えてくれる。

 本連載は「CXの観点からエンタープライズITの未来を考える」ことに主眼を置いているため、CXには欠かせないコンテンツ制作分野のIT化について言及することが多い。事業会社の情報システム担当者の中には、コピーやコンテンツの制作は外部の制作会社に委託しているので「制作支援の生成AIを導入する必要はない」と考える方もいるだろう。

 ただしウェブサイトや広告イメージの方向性を決めるのは事業会社だ。変化が速く大規模化が進んでいるCX分野で、制作会社とのやりとりで時間をかけてイメージを作るより、自社内で叩き台を作って関係各所と共有したり、仕様を固めてから制作案件として依頼したりした方が意思決定のスピードは速くなる。

 とはいえ、生成AIを導入すればすぐに大規模パーソナライズが実現できるわけではない。なぜならパーソナライズはコンテンツが制作・供給された「後」に実現されるものだからだ。生成AIを使っていくらキャッチコピーや画像を素早く大量に作り出しても、供給までのプロセスが未整備ならば、結局いつまで経ってもパーソナライズにつながらず、PDCAサイクルを回すこともできない。

 前回、「特にCXを左右するパーソナライズを本当に実現しようとなると、ほとんどの企業ではシステム環境がネックとなる」と書いたが、今回取り上げるのはまさにこの「システム環境」の部分になる。以下、コンテンツ供給プロセスのことを「コンテンツサプライチェーン」と呼んで詳しく見ていこう。

 ここでコンテンツサプライチェーンの定義について説明しておこう。コンテンツサプライチェーンとは単なる業務フローではなく、コンテンツの企画・制作・配信・測定の全プロセスに関係する人材やツール全てを含んだ概念だ。「供給プロセスの整備」というと、ワークフローの整備と考えられがちだが、コンテンツサプライチェーンが示す範囲はもう少し広い。なぜなら、コンテンツが企画されてから供給されるまでの間にはさまざまな課題があり、ワークフロー整備だけでは追いつかないからだ。

 では、コンテンツサプライチェーンにおける企業の課題とは何だろうか。大きく3つの課題がある。

 第1に、制作担当者やマーケター、経営層などステークホルダー(利害関係者)が入り混じっていて意思決定プロセスが複雑になっていることだ。ある製品のキャンペーンを企画する時の例を考えてみよう。

 まず、社内からは製品担当のマーケター、開発者、PR担当の役員、制作担当者がチームを組む。制作会社側も、制作担当責任者、画像制作チームとその担当者、キャッチコピー制作チームとその担当者でチームを組む。これだけの人数になると、制作過程での確認1つ取っても誰が最終責任を負うのか分かりにくくなるし、製品担当のマーケターが了承してもPR担当役員が反対するなど、意思を1つにまとめるだけでも時間がかかってしまう。

 第2に、複数のステークホルダーが入り乱れた結果、制作中の制作物の管理が行き届かなくなり、サイロ化してしまうリスクがあること。実際、コンテンツアセットのサイロ化に悩んでいる企業は多い。マーケティング部門がアセットを保管していると思ったらPR部門が持っていたり、ひどい場合はどの部門がどんなアセットを持っているのか分からなくなったりするケースもある。

 例えば、タレントを起用したコンテンツを制作し、管理しきれなくて流出したら大問題に発展するだろう。また、契約期間が終了するとタレントの写真はすぐに取り下げる必要があるが、アセットの所在を管理できずに一部でも残っていたら契約違反になってしまう。コンテンツ管理のサイロ化は非常に奥が深い問題なのだ。

 第3に、コンテンツ管理システムやアセット管理システムが複雑なため、一部の情報システム担当者やエンジニアでないと利用できないツールが多いこと。更新頻度が多いキャンペーンの場合、コンテンツを取り替える頻度も高くなるが、そのたびに情報システム担当者やエンジニアの手を煩わせることになってしまう。更新作業はそもそも情報システム担当者やエンジニアの本業ではないので、依頼されてもすぐには取り掛からないこともあるし、その分マーケターのストレスは高くなる。

 この3つの課題は、コンテンツ制作特有の課題ではない。人が多すぎて意思決定のプロセスが分からなくなる、資産がサイロ化して管理しきれない、知識・経験不足でテクノロジーを活用しきれない、これらは多かれ少なかれ事業会社のほとんどが抱えている課題だ。

 特に近年は部門やチームごとでクラウドのストレージサービスを利用するケースが目立ち、アセットのサイロ化は深刻なものになっている。クラウドストレージは大容量で安価に利用できるため人気が高く、社内IT資産の効率化になるという利点もあるが、一方でセキュリティリスクや資産管理の煩雑さがデメリットにもなる。コンテンツサプライチェーンの整備を機に、情報システム部門として情報資産・データ資産の管理に本腰を入れる必要も出てくるだろう。

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