百貨店の“来店客全体”は若者多数–エッジAIが導いた新たな打ち手
今回は「百貨店の“来店客全体”は若者多数–エッジAIが導いた新たな打ち手」についてご紹介します。
関連ワード (マーケティング、リテールテック最前線等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。
本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
本連載では、エッジAI基盤「Actcast」を展開するIdeinの代表取締役で最高経営責任者(CEO)の中村晃一氏が、米国小売市場の最新動向を見定めるとともに、自社のエッジAIの活用事例を解説する(連載第3回)。
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今回の記事では、大型百貨店におけるエッジAIの活用方法を考えたい。大型百貨店はリテール業界の中でも来店客数が圧倒的に多く、属性や人流をくまなく分析するのは難しいとされていた。その結果、会員カードを持つ来店客など、一部のデータを基に経営判断せざるを得なかったといえる。
しかしエッジAIやIoTを活用することで、来店客の膨大なデータを分析することが可能になってきた。そしてそれらを分析すると、今までの常識を覆す発見が幾つもある。
こうした考えを実証しているのが、そごう・西武で行われている実証実験だ。同社では2022年からIdeinのエッジAIカメラで来店客の行動や目的を可視化し、店舗改装やイベント企画のヒントにしている。実際にどんな発見があり、どう施策につなげたのか。以下に解説する。
そごう・西武がエッジAIカメラで来店客の属性や行動を分析してきた理由の一つは、来店客の「固定化」が進んでいると感じたためだ。多くの人が想像する通り、百貨店の売り上げを担う来店客は高齢層に固定されつつあると考えていた。
しかし、エッジAIカメラで来店客を分析した結果、それはある意味“思い込み”であり、十分に若い世代と接点を持てていることが分かった。その話は後ほど説明するとして、同社は来店客の固定化という危機感から、新しい客層の取り込みや将来顧客の獲得の重要性を認識しており、若い世代へのアプローチを模索していた。それがこの取り組みの背景にある。
過去にもそごう・西武では、若い世代に向けた施策を行ってきた。その一例が、「西武渋谷店」にある「CHOOSEBASE SHIBUYA」だ。いわゆるOnline Merges with Offline(OMO)の取り組みで、店頭でのオフライン購入、場所を選ばないオンライン購入のどちらも行える売り場となっている。従来の百貨店には少なかったDirect to Consumer(D2C)方式のブランドも増やし、20代をはじめとした若年層が数多く足を運んだ。
このような施策を行いつつ、さらに新しい来店客を取り込むため、販売データでは確認できない非購入客も含めたデータを分析し、潜在ニーズを掘り起こしたいと考えた。ECでは、サイト来訪者がどこから来てどうサイトを巡回し、何を買ったのか、あるいはどこで離脱したのかが全て可視化される。そのようなECの当たり前を実店舗でも実現したいと考え、エッジAIカメラを使った取り組みに至った。
具体的には2022年、「西武池袋本店」と「そごう大宮店」において、対象フロアごとにエッジAIカメラを設置し、来店客の年齢や性別といったデモグラフィックデータ(デモグラ情報)を取得して分析した。なお、当時から現在に至るまで個人情報保護には万全を期しており、エッジAIカメラで取得した画像データは、来店客の年代・性別の推定、および顔の特徴を示すデータを抽出後、カメラ内で即座に破棄するとともに、抽出したデータも特定の個人を識別できないよう匿名化している。
そごう・西武は、これまで会員カードによって来店客のデモグラ情報を取得していたが、カード契約をしている来店客だけでは限定的なデータしか取れない。また、店舗の出入口で来店客の画像を収集し、人の動きや属性を分析することは実施していたが、これもあくまでその瞬間のデータしか残らない。エッジAIカメラでは、定量的に大量の人流をデータ化できる点が大きな違いだった。
2023年には、来店客の「移動」に着目。顔の特徴点をベクトルデータ化してIDを付与する技術「ReID」により、そごう大宮店における来店客のフロアをまたいだ移動履歴を分析。その足取りから、目的が食品フロアへの目的購買なのか、非目的購買(ついで買い)なのかを可視化し、年代/性別ごとの傾向がないかを分析している(図1)。
店舗が競争力をつけるには、まずデモグラ情報や人流、移動履歴といった「現状」の把握が大切だ。とはいえ、大量の人流を人間の目だけで判断するのはどうしても限界がある。そこでこうしたエッジAIカメラの活用は有効になるだろう。