PublickeyのIT業界予想2024。ハイパースケーラーの優位性高まる、AzureはAWSに追いつくか? ITエンジニアの給与レベル上昇
今回は「PublickeyのIT業界予想2024。ハイパースケーラーの優位性高まる、AzureはAWSに追いつくか? ITエンジニアの給与レベル上昇」についてご紹介します。
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本記事は、Publickey様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
新年明けましておめでとうございます。今年、Pubickeyは15周年を迎えます。長きにわたってこの小さなメディアを続けられているのも読者の皆様のおかげです。今年もPublickeyをどうぞよろしくおねがいします。
さて、2024年最初の記事では今年のIT業界、特にPublickeyが主な守備範囲としているエンタープライズ系のIT業界について、期待を込めた予想をしてみたいと思います。
続くモノやサービスの値上げ、生成AIの爆発的普及など
まずは予想の前提となる、世の中全般に関する現状認識について書いておこうと思います。
1年前を振り返ってみると、ロシアによるウクライナ侵攻や長引く新型コロナウイルスの感染拡大の影響などの複合的な要因で、石油や天然ガスを始めとするエネルギー価格の上昇とインフレへの懸念が高まっていました。
国内ではこうした状況に円安も加わり、その変化は緩やかではあったものの、ガソリンなどのエネルギーや食品など多くの身近な商品やサービスが相次いで値上げされた1年でした。
一方でこうした値上げが従業員の給与の上昇にはなかなか反映されない、という状況でもありました。
2024年もこうした状況が大きく変わることはなく、それをインフレと呼ぶかどうかは別としても、エネルギーを始めとするさまざまな商品やサービスの価格はよくても据え置き、おそらくその多くは緩やかに値上がりしていく、という状況にあると予想されます。
そしてこの1年で圧倒的に状況が変化したのはAIの分野でしょう。一昨年末にChatGPTが登場して1年もたたずに、生成AIはIT業界だけでなくビジネス全体を変えうる画期的な技術である、というコンセンサスが、IT業界だけでなく世界中のビジネスマンから政治家にまで浸透したことは間違いありません。
そしてこの分野はChatGPTを生み出したOpenAIと手を組んでいたマイクロソフトが、Copilotという名称を用いてGitHub、Office、WindowsにまでAIを組み込んで提供するという、圧倒的なスピードと実行力で先行しています。
2024年はマイクロソフトだけでなく、多くの企業が自社の商品やサービスにAIを組み込んで展開することになりそうです。
一方で世界情勢の暗い面として、2022年2月に始まったロシアによるウクライナへの侵攻は今年で3年目へと突入し、昨年(2023年)に始まったイスラエルによるパレスチナ自治区ガザ地区への攻撃も長期化の様相を見せています。
アジアでも、中国が台湾を始めとする周辺地域への軍事的な威嚇を続ける中で、今年は1月に台湾の総統選挙、11月には米国の大統領選挙があることで台湾や米国は中国に対する強気の姿勢を見せざるを得ず、中国との緊張関係は続きそうです。
こうした軍事的衝突や緊張の下、ITの持つさまざまな能力は相手を弱体化させるための武器として積極的に使われていくことになるでしょう。これは同時に、ITにおけるより堅牢なセキュリティの構築やデマ拡大の防止、AI兵器の制限といった議論を今まで以上に活発化させることになるかもしれません。
書きたいことはまだまだあるのですが、ひとまずこの辺を下敷きにして2024年のIT業界を予想してみましょう。
Publickeyによる2024年のIT業界予想
ハイパースケーラーの優位性がAIでさらに高まる
ここ数年でクラウド市場はAWS、マイクロソフト、Googleに代表される大規模クラウド事業者、いわゆるハイパースケーラーによる市場の寡占化が進んできています。2023年末のクラウドインフラ市場を見ると、この3社だけで市場の65%を占めているのです。
こうした中でいま起きているのは、今まで以上に膨大なコンピューティングパワーが必要となるAI関連のワークロードへの要求の高まりです。
ハイパースケーラーは高価なGPUや独自のAIプロセッサに大規模な投資を行うことで、これに応えることができます。実際、AWS、マイクロソフト、Googleは3社ともに独自のAIプロセッサを開発し、またNVIDIAとの戦略的提携も相次いで発表しました。
参考:大手クラウドはクラウド専用チップで戦う時代へ。各社がクラウド基盤に専用SoC、サーバにArm、AI処理に独自プロセッサを相次いで採用
下記はマイクロソフトが「Microsoft Ignite 2023」で発表した、AIの学習や推論処理を高速に実行可能な独自設計のAIアクセラレータチップ「Azure Maia」を搭載した専用ラックです。
AIへの投資だけではなく、より高度なセキュリティの実現、Armサーバなどの新しいサーバアーキテクチャへの対応、環境負荷への対応など、クラウドの内部は以前よりも高度に複雑化しており、競争力を維持するための継続的な投資が欠かせません。
そうした投資を大規模に行えるハイパースケーラーと、そうではない中小以下のデータセンター事業者との差は、ますます開いていくことになるのではないでしょうか。
Microsoft AzureのシェアがAWSを追い抜くか?
そのハイパースケーラーのなかでも1位を走り続けるAWSを激しく追い上げているのがMicrosoft Azureです。
調査会社Canalysの2023年12月の発表によると、クラウドインフラ市場においてAWSのシェアは31%、Microsoft Azureのシェアは25%と、その差は6ポイントにまで縮まっています。
このまま同じペースで差が縮まるとすればMicrosoft AzureがAWSに追いつくのは2025年以降になるのですが、Microsoft AzureはOpenAIとの提携によるAI関連のサービスに注目が集まった結果、これまで以上に速いスピードでシェアを伸ばしているとされ、成長率ではGoogleを抜いて3社の中でトップになっているのです。
参考:クラウドインフラのシェア、生成AIブームによりマイクロソフトが上昇率でGoogleを抜いてトップに、AWSを猛追中。2023年第3四半期。Canalysの調査
もしかしたら2024年中にいずれかの調査で、Microsoft AzureがAWSを上回るという結果が出るかもしれません。
AIインテグレータの勃興
クラウドの登場から現在までを振り返ると、クラウド市場の急成長に伴ってクラウド専業のシステムインテグレータと呼ばれる新しい分野の企業の急成長が見られました。あえていくつか名前を挙げるとすれば、例えばテラスカイ、サーバーワークス、クラスメソッド、アイレットといった企業です。
クラウドのシステムインテグレーション事業は、それまでのシステムインテグレーション事業とは異なる技術的ノウハウや製品知識などが求められ、しかもAWSに代表されるクラウドの技術や製品そのものが急速に進化し続けるため、最適なシステム構築には継続的なキャッチアップが必須である、という特徴がありました。
これらにうまく対応できた技術者と企業が成功を収めたといってよいでしょう。
現状のAIも似たような状況にあるように見えます。他を引き離してトップを走るOpenAIは現在も急速に技術を進化させ続けており、その製品固有の技術の理解と同時に継続的なキャッチアップが欠かせません。
そしてAIを何らかのシステムと統合するには、データのベクトル化やプロンプトエンジニアリングといった、従来のシステムインテグレーションでは求められなかったAI分野特有の技術や、AIのモデル毎に異なる特徴などの知識と経験が必要となります。
日本国内のほとんどのITエンジニアは現時点で、こうしたAI分野のシステムインテグレーションに必要な知識や経験について、ほぼまっさらな状態でスタートラインに立っていると言えます。
だからこそ、たとえ小さな組織であったとしても、ここからAI市場の急成長の波に乗れる可能性が大いにあることは、クラウドとともに急成長してきた企業の実例が教えてくれているはずです。
今から5年後か10年後に、AIの急成長に乗って大きくなった企業がいくつも登場していることを期待します。
WebAssemblyの開発環境の充実
実は昨年(2023年)の予想記事に、この「WebAssemblyの開発環境の充実」を書いたのですが、2023年にWebAssemblyの開発環境が充実したかどうかを振り返ってみると、自己評価としてこの予想はあまり当たったとは言えないと考えています。
とはいえ、2023年にはWebAssemblyにとって大きな進化がありました。ガベージコレクション機能が正式機能としてChrome、Microsoft Edge、Firefoxの主要なブラウザで実装されたことです。
参考:WebAssemblyのガベージコレクションが正式機能に、最新版のChrome 119で。Firefoxも今月リリースのFirefox 120で正式機能になる見通し
これによりKotlinやDartといったプログラミング言語がWebAssemblyをターゲットにしたバイナリ生成機能を提供することが発表されています。
また、今年リリースされる.NET 9で、マイクロソフトは本格的に.NETをWebAssemblyに対応させる動きがあります。これが実現すれば、.NETの開発環境はほぼそのままWebAssembly対応の開発環境になる可能性が高く、WebAssemblyの開発環境が一気に充実することになります。
またWebAssembly自体も、コンポーネントモデルを実現するWASI Preview 2仕様の登場によって大きく進化しようとしています(.NET 9ではWASI Preview 2に対応するはずです)。
参考:WebAssemblyの「WASI Preview 2」で、WebAssemblyコンポーネントの組み合わせによるアプリケーション開発を実現へ
というわけで、2024年こそWebAssembly関連技術は目に見える躍進があるのではないかと考えています。
ITエンジニアの給与レベルが上昇する
最後の予想は少し期待を込めて、ITエンジニアの給与レベルが上昇する、としました。
日本国内ではガソリンなどのエネルギーから食品や日用品にいたるまで多くのモノやサービスの値上げが続いています。
一方で国内企業は全体に好調な業績が続いており株価も堅調な動きを見せている状況であり、次はこうした業績を背景に、給与の増加が期待されています。
であれば、多くの企業にとってソフトウェアが重要さを増しているなかで、ITエンジニアの給与レベルの上昇は待ったなしでしょう。
すでにITエンジニアそのものが競争力の源泉となっている多くのIT系企業では、優秀なITエンジニアの給与レベルの上昇は起きています。それが広く一般企業におけるITエンジニアの採用や活用においても波及し、ひいては国内全体の給与レベルの上昇につながる動きへと発展し、給与の全体的上昇は国内消費の活発化を誘発して好景気の引き金になる、といいなと思っています。
さて、2024年の予想を書いてきました。今年は昨年よりもよい年になることを願いつつ、この予想が当たるかどうか、PubickeyなりにIT業界を見つめていくつもりです。
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