リテールメディアで新たな収益源–課題先進地域・北海道に見るエッジAI活用術
今回は「リテールメディアで新たな収益源–課題先進地域・北海道に見るエッジAI活用術」についてご紹介します。
関連ワード (マーケティング、リテールテック最前線等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。
本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
本連載では、エッジAI基盤「Actcast」を展開するIdeinの代表取締役で最高経営責任者(CEO)の中村晃一氏が、米国小売市場の最新動向を見定めるとともに、エッジAIの活用事例を解説する(連載第4回)。
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人口減少、過疎化、少子高齢化――これらは日本の社会課題として取り上げられるが、特に地方にとっては喫緊かつ大きな問題だ。これらの課題はリテール業界にも大きな影響を与えているが、そうした中でエッジAIを活用し、新たな収益源の確保や売上増加を図る取り組みが進んでいる。今回は「課題先進地域」と呼ばれる北海道におけるリテールDX事例について、Ideinと、そのパートナーであり北海道発のエッジAIスタートアップ・AWLのナレッジを基に解説する。
日本は世界に先駆けて高齢化が進んでいる。中でも北海道は少子化、過疎化、高齢化が進んでいる地域だ。中心都市である札幌に対しては設備投資が行われ、地価も上がっているが、土地が広大なため北海道全域をカバーする財源がない。2025年までに人口5000人以下の町が過半数以上になると予測されており、国土交通省によれば「5000人」という商圏はビジネスやサービスのボーダーラインと言われ、この数を下回ると成り立たなくなる。
例えば銀行、一般病院、飲食店などのサービス施設は収益が見込めずに出店しなくなるだろう。こうしたサービス施設がなくなれば、その地域は住みづらくなり、結果として人口が流出してしまう“負のスパイラル”に陥ることになる。
その社会課題解決に取り組もうとしているのが、北海道札幌市に本社を構え、道内を中心にドラッグストアチェーン「サツドラ」を展開しているサツドラホールディングス(サツドラHD)だ。2019年より「ドラッグストアビジネスから地域コネクティッドビジネスへ」をビジョンに掲げ、ビジネスモデルの転換を進めている。
「地域コネクティッド」とは、単に店舗数を増やすのではなく、ドラッグストアを起点に、地域に関わるヒト、モノ、コトをつなぎ、未来を創造していこうという概念だ。課題先進地域である北海道でいち早くビジネスモデルを確立することで、沖縄など今後同様の課題に直面すると予想される地域に適用し、収益を上げることを目指す。実際、同社は現在、沖縄にも3店舗を構えている。
課題先進地域である北海道で必要となってくるのは、小さな商圏でも成立するビジネスモデルの確立だ。その中でも、リテールの改善のためにサツドラHDがタッグを組んだのがAWLだった。
サツドラHDのグループ会社でドラッグストアを経営するサッポロドラッグストアー「サツドラ」では現在、既設の防犯カメラをAI化する「AWLBOX」、さらにデジタルサイネージに接続するAIカメラ「AWL Lite」を導入。来店客の動きを追う天井吊り下げ型と、来店客の視線を追うサイネージ連動型の2種類のAIカメラが店内を撮影し、その映像からAIが来店客の滞在時間や広告の視聴時間、来店客の属性を判別する。このデータを分析することで、売り場や店舗のオペレーションの改善などに生かしている。
AWLは、1店舗から実証実験を開始し、対象店舗を徐々に拡大していった。ただ、店舗によってカメラを設置できる位置は異なり、天井や床の色の違いでAIカメラの精度が低下するなど、店舗ごとに異なる対応が必要だった。
そこで同社では、1つのAIモデルで全てを完璧にこなすのではなく、個別の環境に合わせてファインチューニングを自動化し、店舗ごとに特化したモデルを作ればよいと発想を転換。ファインチューニングの技術や再学習のプロセスなどの研究開発を強化していった。
この取り組みによる具体的な成果としては、店舗内のデータを活用した商品配置の最適化や在庫管理の効率化が挙げられる。例えば、サツドラでは来店客のうち8割ほどが入口から直進しているという前提で商品陳列の設計をしていた。しかし、AIカメラから得られた店舗のデータを分析した結果、入店後直進する来店客は全体の約5割しかいないことが分かった。なお、こうしたデータの取得も従来は人力で行わなければいけなかったが、AIカメラの導入で人手をかけることなく、より正確に行えるようになっている。
また、AIカメラが取得したデータとPOSデータをひも付けることで、商品の購入に至ったかを可視化した。このデータは、小売店に商品を置くメーカーにとっても大きな価値がある。オフラインではこれまで掴めなかった「売れる/売れない」のプロセスが分かるようになったためだ。
さらに、AWLのAIカメラから取得したデータを基に、店舗内のデジタルサイネージへ最適な広告を表示することも可能となった。設置されたAIカメラが来店客の性別や年齢などの属性を瞬時に解析し、時間、天気、気温といった要素と併せて、最適な広告を配信する。
サツドラはこのデジタルサイネージ広告をメーカーに販売し、健康食品から飲料メーカー、日用品メーカーなど幅広い分野からの出稿を受けた。あるエナジードリンクの広告を出稿したところ、販売数量が1.6倍に伸びたケースもあった。サツドラはAWLのエッジAIカメラを導入することで、販売促進による売上増に加え、広告配信という新たな収益源の確保に成功したのだ。