拡大するデジタルサービスの赤字–日本のITベンダーはデジタル小作人を続けるのか

今回は「拡大するデジタルサービスの赤字–日本のITベンダーはデジタル小作人を続けるのか」についてご紹介します。

関連ワード (CIO/経営、デジタル岡目八目等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 クラウドなどデジタルサービスの収支がどんどん悪化している。財務省が2月8日に発表した国際収支統計によると、デジタルサービスの赤字が2022年の4.8兆円から2023年には5.5兆円に膨れ上がった(図1)。三菱総合研究所(MRI)によると、円安もあるものの、外資系のクラウドサービスやソーシャルメディアへの広告の増加が大きな要因とみる。DXや生成AIの活用がさらに進めば、赤字額はさらに拡大するだけではなく、日本のITベンダーらが“デジタル小作人”に追いやられる。MRI 主席研究員の西角直樹氏と研究員の綿谷謙吾氏にデジタルサービスをめぐる状況を聞いた。

–なぜ、デジタルサービスの収支が赤字に陥っているのか。

綿谷氏 :日本が(クラウドなどデジタルサービスの)競争に負けたからだ。日本銀行によるデジタルサービスの分類を見ると、著作権などの使用料とコンピューターサービス、専門・経営コンサルティングサービスの赤字が大きく拡大している。おそらく使用料にはOSなどのライセンス、コンピューターサービスにはクラウドサービス、専門・経営コンサルにはソーシャルメディアへの広告が入っている。ただし、国際収支統計は3000万円以上の取引しか入っていないので、例えば私が個人で生成AIを契約したものは数字に反映されていない。

西角氏 :勝者総取りというデジタルサービスの特性もある。最初に規模を拡大した企業の一人勝ちになる。それに米国と中国の2カ国が大きな経済圏を持っており、スタートラインから有利でもある。日本が技術力やサービス内容の良さなどで勝負するのは難しくなっている。

–つまり、赤字はもっと大きいということ。しかも、赤字幅はさらに拡大する。

綿谷氏 :コロナ禍を契機に在宅が増えた2020年から一気にデジタルサービスの利用が増えて、赤字が拡大した。赤字を減らすには、日本発のサービスが生まれることだが、今の状況を見ると赤字は拡大するだろう。クラウドだけではなく、生成AIのような新しいサービスも出てくる。

西角氏 :赤字はもちろん経済に影響するが、国際分業から捉える必要もある。例えば、農産物のように自給率の低さを問題視するかどうかだ。海外からデジタルサービスの提供がストップすれば大きな問題になるが、ストップしなければ問題にはならない。経済安全保障の視点から見ると、多くのデジタルサービスが米国製とすれば、米国との関係が良好であるかぎり問題はないという見方もある。もちろん自給率を高めるのは、例えば補助金を出して国産クラウドや大規模言語モデル(LLM)の開発を支援、育成する手もある。使用料を下げるために、サイドローディングを認める手もあるだろう。

綿谷氏 :別の問題もある。どこかの企業に集中することによるレジリエンスだ。例えば、ビッグテックがこけたら、日本企業の業務が全て止まってしまうといったリスクだ。加えて、独占や寡占によって手数料や使用料が20%から30%に上がっても、利用をやめるわけにはいかないだろう。交渉力がなく、ロックインで諦めることになる。

–確かにエンタープライズアプリの外資系ITベンダーがサービスの使用料を値上げしても、リプレース先がなければやめるわけにはいかず、値上げを飲むしかないだろう。政策などで解決できることはあるのだろうか。

西角氏 :デジタル経済における寡占の問題、ビッグテック依存の問題、デジタル敗戦などを真摯(しんし)に受け止めることだ。そして、デジタル敗戦を繰り返さないよう、今から「こんなことを考える」といった政策提言をしている。

 例えば、デジタル産業の構造を見定めて、プラットフォームレイヤーは独占状態にあるが、その上に競争力があり付加価値のある領域で勝負するなどだ。競争力の源泉にコンテンツやLLMなどが考えられるが、大事な勘所を持っていかれるとバリューチェーンにおけるコントロールを失う。つまり、どんなに稼いでも吸い取られる“デジタル小作人”になってしまうということ。付加価値を取れるところを握ることだ。

–ほかに有効な策はあるのだろうか。

綿谷氏 :日米の給与格差が広がっている(図2)。転職サイトなどを見ると、ソフトウェアエンジニアの平均給与の中央値は、日本の6万ドルに対して、米サンフランシスコのベイエリア(シリコンバレーのこと)では24万ドルを超える。こんなに差があると、優秀な人材が国内にとどまるのかと懸念される。事実、Googleなどのビッグテックに転職するエンジニアがいる。ASEAN(東南アジア諸国連合)との賃金格差も縮まっている。

◇ ◇ ◇

 優秀な人材が海外に流出する問題は以前から指摘されていたこと。経済産業省は6年前のDXレポートで、ソフトウェアエンジニアの平均給与を600万円から2025年までに1200万円に上げることを提案していた。だが、いまだに600万円以下の受託開発の上場会社は少なくない。給与を大幅に上げなければ、日本のソフトウェアエンジニア力はますます失われていくだろう。同時に、AIやロボティクスなどの海外依存が広がっていく。負け癖から脱することだ。

COMMENTS


Recommended

TITLE
CATEGORY
DATE
TikTokのライバルとなる60秒以内の動画サービス「YouTubeショート」が米国に上陸
ネットサービス
2021-03-30 15:40
「Android」で「Gmail」アプリのスワイプの動作を設定するには
IT関連
2022-09-25 05:08
清水建設、クラウドで建設現場のデジタル化と標準化を推進
IT関連
2022-09-29 15:02
「Android 13」開発者プレビュー第2弾、アプリ通知はユーザーの許可が必須に
IT関連
2022-03-19 21:52
ソフトバンク、メイン・サブブランド間の乗り換え手続きを簡素化 SIMロック解除も自動で
企業・業界動向
2021-08-11 20:51
就任1カ月のSAS日本法人–新社長は「今の思い」をどう語ったか
IT関連
2023-06-03 06:41
「閃光のハサウェイ」劇場販売Blu-ray、5万枚突破 公開5日までに
くらテク
2021-06-20 03:51
富士ソフト、1万人の社内検証を基にした「ChatGPT」導入をサービス化
IT関連
2023-08-05 17:38
イーロン・マスク氏の妻Grimes、ブロックチェーンのNFT作品を約600万ドルで販売
ブロックチェーン導入事例
2021-03-03 09:53
京都市立芸大、誤送信で135人の入学者情報流出 「gmail」を「gmai」と入力ミス
セキュリティ
2021-04-02 18:50
京都府とダッソー・システムズ、持続可能な社会の実現に向け連携強化
IT関連
2024-11-09 00:33
スマートホームの接続性のための新規格「Matter」 旧ZigBee Allianceが発表
企業・業界動向
2021-05-13 20:56
パテントトロールに反撃–先行技術で特許の無効化を目指すオープンソース界
IT関連
2024-11-21 14:07
コーセー、新店舗でデジタルネイティブ世代の顧客体験を向上
IT関連
2024-09-03 12:40