ITの電力消費にどう対応するか–シスコに聞く、サステナビリティーの取り組み

今回は「ITの電力消費にどう対応するか–シスコに聞く、サステナビリティーの取り組み」についてご紹介します。

関連ワード (CIO/経営、カーボンニュートラル(脱炭素)等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 世界中の企業が経営課題のテーマの一つにサステナビリティー(持続可能性)を位置付けている。ITの観点では、特に温室効果ガスの排出につながる電力消費の削減が重要な施策となるが、世界的に高まるAIの利用に伴う電力消費の増加が懸念事項として顕在化し始めた。IT電力の課題にどう対処すべか――米Cisco Systems エンジニアリングサステナビリティーオフィス バイスプレジデントのDenise Lee氏に見解を聞いた。

 Cisco Systemsも世界中の企業と同様に、広範なサステナビリティー施策を実行している。Lee氏は、「われわれは、さまざまな領域でサステナビリティーのリーダーシップを発揮し、測定可能であり透明性高く、信頼に足るものを提供することが重要だと考えている」と述べる。

 Lee氏によれば、同社では温室効果ガス排出量の約99%をスコープ3の範囲が占め、内訳はプロダクトの使用が70%、調達・製造が23%、物流が5%だという。このため温室効果ガス排出削減の取り組みは、製品やサービスの開発設計、部品調達、製造、物流、顧客での使用と廃棄までのバリューチェーンにおけるエネルギー効率の改善や再生可能資源およびエネルギーの活用、エネルギー管理をはじめとするソリューションの提供、顧客やパートナーとのサーキュラーエコノミーの推進、ビジネス変革までに至るという。

 同社では、メーカーとしてのサステナビリティーへのアプローチとして、2022年にLee氏が所管するエンジニアリングサステナビリティーオフィスを立ち上げた。特にエネルギー消費の効率化と削減にフォーカスを当てている。主要な指標とするのは、エネルギー消費量、エネルギーコスト、温室効果ガス排出量、炭素集約度、エネルギーミックス(再生可能エネルギーなどの構成)の5つで、これらの測定によって現状の可視化、効率性向上のための自動化を推進し、ポートフォリオ全体に展開して、顧客を含めたエコシステム全体へのサステナビリティーを実現したいとする。

 「この2年ほどは、多くの企業の経営層と会話をする機会が増えている。サステナビリティーをビジネスの必須条件と認識する企業もあれば、商機拡大と見る企業もある。さらに現在は、多くの人々がAIの爆発的な利用の拡大に伴うエネルギー消費に関心を寄せている」(Lee氏)

 2022年後半から続く生成AIブームにより、そのベースとなる大規模言語モデル(LLM)開発での電力消費の増加が懸念事項となり始めた。特に日本では、クラウドのハイパースケーラー各社が今後数年間で数千億円規模のAI/クラウドデーターセンターへの投資を表明しているため、AIの推進とサステナビリティーの両立が大きな課題になることも想定される。

 Lee氏は、「ラック当たりの電力消費は、一般的なデータセンターは7~12キロワット(kW)だが、AIでは100kW以上になる。日本は、データセンターを設置すべき国として世界で第10位に位置付けられている」と指摘する。

 NVIDIAなどは、電力効率に優れた製品開発を推進して、AI開発に伴う電力消費の抑制を目指しているが、それだけではなくLee氏は、テクノロジーを活用してデータセンター全体での包括的なアプローチが必要だろうと話す。

 「例えば、欧州ではスマートビルディングを認定する基準があり、データセンターでも同様のことが考えられる。実際に地域や場所の事情に応じておのおのに工夫をしているデータセンターは多い。ハードウェアのアプローチは、チップセット頼みにはなるが、統合システムとして捉えればネットワークやコンピュート、ストレージなどの各要素で、電源や冷却、ファシリティーなどでも工夫する。最終的には、いかにエネルギー効率と性能に優れたシステムを実現するかであり、(Ciscoの立場では)ネットワークの設計もプロセッサーと同じくらい重要な要素になる」(Lee氏)

 Ciscoは、「Nexus」や「Catalyst」など各種ネットワーク機器、統合システムの「UCS」などの製品における省電力化に長年取り組んでいるが、Lee氏は、革新的なネットワーク技術の代表例に、LANケーブル1つで通信と最大90ワットまでの給電ができるPower over Ethernet(PoE)を挙げる。「Ciscoの技術者は25年前からPoEの開発に貢献し、交流電源から(効率的な)直流電源を安全に取り扱うことができる環境を実現した」

 さらに、“次世代のPoE”として開発を進めているのが、「Fault Managed Power」(FMP)になる。FMPは、PoEと同様に1本のケーブルで通信と給電が可能で、給電能力は380ボルト、ワット数は無制限という。構造は、PoEが4本のツイストペア銅線なのに対してFMPは8本で、1本当たり500ワット以上に対応できるとする。2023年に米国のNational Electrical Codeで正式に規格化された。

 Lee氏によれば、現在は米国の8つの州で承認、12州で承認審査の段階にあるといい、米国時間の4月8日には、Cisco、Belden、Panduit、Prysmian Groupが創設メンバーとして、新たに「FMP Alliance」の設立を発表した。

 「FMPは、堅牢かつ安全で信頼に優れたエネルギー効率の高い電力の供給を可能にする。一部のオフィスビルやホテルで(実証目的などで)導入が行われており、この技術は既に利用可能だ。われわれはFMP Allianceのパートナーと協力しており、早ければこの先の12カ月において市場への提供が実現されるかもしれない」

 「ただ、(PoEよりも)高い電力を扱えるので、われわれとしては事故など万一の事態が起きないよう細心の注意を払い、慎重に開発とテストを進めている。この有用な技術が世界で利用されるためにも各市場での承認も得ていく」

 このほかにもLee氏は、「Cisco Validated Designs」と呼ぶ高い信頼性や効率性のためのITシステム設計・構築・運用の資料を各産業分野に応じて提供したり、排出権取引などの財務面などの施策を推進したりしていると説明した。

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