ソフトウェア開発で考える「事業・技術・組織」の最適化–不動産バーティカルSaaSの例
今回は「ソフトウェア開発で考える「事業・技術・組織」の最適化–不動産バーティカルSaaSの例」についてご紹介します。
関連ワード (ソフトウェア等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。
本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。
本連載は、「事業戦略から考えるソフトウェアアーキテクチャーと開発組織」と題して、全3回にわたり、事業継続・拡大のためには事業フェーズに合わせたソフトウェアアーキテクチャーと組織を見直し続けることの重要さをお伝えしてきました。今回は最終回として、これまでに見えてきた事業・技術・組織を適合させていくことの重要性や、そのために事業責任者がどのように意思決定をしていくべきなのかについて、より経営の視点からお話したいと思います。
どのような企業においても、自社が提供する商品やサービスに関して、どこに、どれだけのリソースを投下していくのかは、重要な問題でしょう。前回の記事や前々回の記事では、私が執行役員 CTO(最高技術責任者)を務める不動産テック企業のイタンジでの事例を絡めて説明してきました。
一方で、今回のお話は、ソフトウェア開発が事業と結び付くあらゆる企業にとって当てはまるのではないかと思います。事業が継続する限り、ゴールのない話になるため、私たちも常に道半ばであり、最適解を模索する真っただ中にいます。ぜひ同様な立場で、今この瞬間もトライアンドエラーを続ける皆さまにとって、何かしらのヒントや勇気づけるきっかけなどになれたら幸いです。
冒頭でお伝えしたように、今回のテーマは「事業・技術・組織」をいかに「あるべき事業の形」に適合させていけるか、ということです。一定の年数で続いているソフトウェア開発事業においてよく問題になるのが、事業を「本当はこういうふうにしていきたい」というのに対して、技術や組織といった問題が足かせになってしまって身動きがとれないというようなお話です。
技術や組織が行き詰まっていて、本来最も優先すべき「事業」をあるべき姿に変革していくことができない時、その壁をどう乗り越えるのか――これは、私たちも周期的に直面する課題です。事業の在り方、あるべき事業の形に対して、そこにどう合わせにいけるのか、それを達成するための組織作り、技術導入の意思決定をしていくかということです。
分かりやすくするために、簡単な例を挙げましょう。例えば、あるSaaS商品を開発販売している企業があります。顧客が直接触れるプロダクトの部分ではなく、そのSaaSプロダクトの裏側にある基盤となるようなシステムのアーキテクチャーが、ある特定の時代に最適解とされた形式で構築されており、現時点では既にその開発当時のことや開発言語が分かる人間が社内に1人しかいない、あるいは、その都度とりあえず継ぎ足すような開発で対処してきてしまったため、スパゲッティ状態で確認と検証に時間がかかり、軽微なはずの機能追加でも非常に時間がかかる、開発速度が遅くなってしまっている、事業としてフロント部分にあるプロダクトの開発の優先度を上げた場合このような状態になることもあるでしょう。
これは極端なケースですが、大なり小なり、思い当たる節がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は、当社でも似たような事例があります。今では解消に向かっていますが、非常にコアな部分のシステムを管理できる人間が非常に限られており、いざ事業的に大きな変更が求められた際の対応が困難になっていました。まさに当時、事業的な意思決定が技術と組織に影響を与え得る状況であり、次の事業拡大を妨げかねないネガティブな材料になってしまっていたわけです。
とはいえ、投資できるリソースは有限です。全てを理想的な状況にするために、いつでもベストなバランスで運用していくことは、現実的には不可能といっていいでしょう。そこで私が考えるのは、「全てはバランスである」ということです。
三角形をイメージしてみてください。それぞれの頂点が、「事業・技術・組織」に当たります。常に安定した正三角形であり続けるのではなく(それは内部環境的にも外部環境からの影響を受けるという意味でも至極難しいので)、その時々で、どこか1つの角を尖らせたらバランスが崩れる――今度は、その分引っ張られてしまった他の2点を調整していくというイメージです。
その時々の事業フェーズによって、事業(拡大)を優先させるべきなのか、技術面を補完・強化すべきなのか、強い組織体制を築くために採用や組織再編を行うべきなのか――全てに等しくリソースを投下することはできないため、今一番経営にとってインパクトをもたらすと思われる箇所に割り振っていくということです。