AWSの量子チップ「Ocelot」–アナログの「猫量子ビット」で量子エラー訂正を効率化

今回は「AWSの量子チップ「Ocelot」–アナログの「猫量子ビット」で量子エラー訂正を効率化」についてご紹介します。

関連ワード (量子コンピューティング等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 Amazon Web Services(AWS)は先週、画期的な量子コンピューティングチップを発表した。クラウドコンピューティング大手3社の中では3番目の発表となり、Microsoftは2月中旬に、Googleは2024年12月に発表している。

 Amazonの研究チームによると、同社のチップ「Ocelot」は、従来のチップトランジスターに似たアプローチを採用することで、量子コンピューティングの基本的な構成要素である量子ビットの使用を大幅に効率化できる可能性があるという。

 Natureの先週号に掲載された技術研究論文では、カリフォルニア州パサデナのAWS Center for Quantum Computingに所属するHarald Putterman氏が筆頭著者となって、デジタルの1と0ではなくアナログ回路の使用により、量子チップを機能させるために必要な物理量子ビットの数を大幅に削減できることを説明した。

 Amazonのブログ投稿では、この取り組みについてNatureの論文よりも詳しい内容が平易な言葉で説明されている。

 これまでにも、Microsoftが2月中旬に「Majorana 1」チップを、Googleが2024年12月に「Willow」チップを発表している。

 3社のチームはいずれも、量子チップ開発の本質的な問題に直面している。これは、十分な数の物理量子ビットをグループ化して、個々のエラーを平均化し、加算などの演算操作に使用できる信頼性の高い検証可能な「論理量子ビット」をいかにして作成するか、という問題だ。

 各社の違いは、論理量子ビット実現の最も効率的な手段として選択した物理量子ビットの種類にある。GoogleのWillowは標準的な超伝導素材を採用しており、MicrosoftのMajorana 1は珍しいマヨラナ粒子(粒子と反粒子が同一の粒子)を使用している。

 Putterman氏とチームのアプローチは、いわゆる「猫量子ビット」を使用するもので、同氏らはこれが他よりも優れていることを示そうとしている。

 「Ocelotは猫量子ビットアーキテクチャーを用いたAWS初のチップであり、量子エラー訂正の実装における基本的な構成要素として猫量子ビットが適しているかを確認する初期のテストだ」とAWSのブログ投稿に記されている。

 猫量子ビットという名前の由来は、箱の中の猫が生きているか死んでいるかを考える量子の実験で有名な飼い猫、すなわちシュレーディンガーの猫だ。猫量子ビットはアナログ量子ビットであり、大半の量子チップを構成するデジタル量子ビットではない。アナログ量子ビットはデジタルの1と0のように数えられるのではなく、波のような連続した値として測定される。このケースでの値は、光成形導波管に閉じ込められた光子の集合としての振幅だ。

 オセロット(ocelot)とは米国南西部と南米に生息する野生の猫のことで、Ocelotというチップの名称は飼い猫や猫量子ビットと合わせた面白い言葉遊びになっている。

 カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のJohn Preskill氏などの科学者は20年以上前に、量子ビットをより効率的に作成する手段として、量子分野におけるアナログコンピューティングを研究した。Ocelotチームのアプローチのベースとなったのは、フランスの国立デジタル科学技術研究所(INRIA)の研究チームが2019年に説明した実験だ。

 Putterman氏とチームは、猫量子ビットの測定により、「表面コードデバイス(従来のデジタル量子ビットデバイス)の49量子ビットに対して、5分の1未満の量子ビット数、すなわち5個のデータ量子ビットと4個の補助量子ビット」で量子エラー訂正を達成できると主張している。

 AWSによると、量子ビットの効率化は、シリコントランジスターがコンピューターチップにもたらした革命的な変化に似ているという。「コンピューティングの歴史は、適切なコンポーネントのスケーリングが、コスト、性能、さらには実現可能性に大きな影響を及ぼすことを示している」とAWSのブログ記事に書かれている。「コンピューターの真の革命が始まったのは、トランジスターが真空管に取って代わり、スケーリングの基本構成要素になったときだ」

 デジタルの代わりにアナログを使用するという選択は、デジタルではなくアナログコンピューティングの利点を引き出すことに重点を置いた電子機器の並行分野の一部だ。数えるのではなく測定を行うアナログには、デジタルチップよりも優れた点がある。例えば、数えるのが面倒な変数を操作できるほか、あいまいな値を持つ可能性がある変数を扱うことができる。

 現在のバージョンのOcelotチップには、いわゆる猫量子ビットが5個しか含まれていない。これは、実際の論理演算を実行するには不十分だが、量子ビットの情報を保存するには十分な数だ。

 アナログには課題があるものの、AWSの研究者はGoogleやMicrosoftの研究者と同じく、適切な量子ビットを選択したと考えており、チップ上に十分な数の量子ビットを作成し、将来的には実際に機能するコンピューターを組み立てられるとみている。

 AWSのブログ記事には次のように記されている。「Ocelotのアーキテクチャーは、ハードウェア効率の高いアプローチでエラー訂正に対応できるため、量子コンピューティングの次の段階であるスケーリング方法の学習に取り組むうえで、有利な立場にあると考えている。ハードウェア効率の高いアプローチを使用することで、社会の利益になるエラー訂正量子コンピューターをより迅速かつ高い費用対効果で実現することが可能になる」

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