レッドブルF1のCIOに聞く、生成AIの試行やクラウドの最適化

今回は「レッドブルF1のCIOに聞く、生成AIの試行やクラウドの最適化」についてご紹介します。

関連ワード (クラウド等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

本記事は、ZDNet Japan様で掲載されている内容を参考にしておりますので、より詳しく内容を知りたい方は、ページ下の元記事リンクより参照ください。


 モータースポーツの最高峰と言われる「Formula 1」(F1)は、自動車のみならずITにとっても先端テクノロジーの“実験場”となっている。2025年シーズンの第3戦・日本グランプリ(GP、4月4~6日、三重県鈴鹿サーキット)を前に日本オラクルが開催したメディアインタビューでは、英Oracle Red Bull Racingチームの最高情報責任者(CIO)を務めるMatt Cadieux氏が、生成AIの試行やクラウド環境最適化の取り組みなどについて語った。

 Oracle Red Bull Racingは、F1に参戦するトップチームの1つ。4年連続でドライバー部門の年間王者となったエースのMax Verstappen選手(オランダ出身)に加え、今回の日本GPから角田裕毅選手が日本人F1ドライバーとしては初めて、F1のトップチームに参加することでも注目を集める。また、同チームは2021年から米Oracleと協業し、「Oracle Cloud Infrastructure」(OCI)などのサービスをレースカー開発やレースでの戦略の立案や検証、チームの業務運営に至るまで幅広く導入、利用している。

 Cadieux氏は、長年にわたりチームのIT部門を指揮する。「Oracleとは数年にわたってOCIやアプリケーションの実装や活用で協働し、チームの運営やビジネス、ITの幅広い領域で成果の向上に取り組んでいる。われわれはアーリーアダプターであり、先端テクノロジーをいち早く導入、活用してF1での優位性を築き上げてきた」と話す。

 OCI利用の一例が、クラウドのハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)環境を駆使したシミュレーションになる。

 F1チームは毎年、新モデルのレースカーを開発する。シーズン前や最中はもちろん、後半には翌年向けモデルに着手するため1年を通じた開発作業になる。開発費用は年間数百億円規模と言われる。実車の走行試験は開発費抑制の規則から、特例を除きシーズン前の数日間(2025年は3日間)に制限され、設計や性能検証などはシミュレーションを駆使するしかない。だが、シミュレーション費用が潤沢なチームほどレースで有利になるため、前年シーズンの成績に応じて上位のチームほどシミュレーション費用を規制するルールとなっている。

 また、レース本番でもシミュレーションが駆使される。2025年シーズンは世界で24のGPが開催され、10チーム・20人のドライバーが参戦。1000分の1秒単位で順位を競い、着順などに応じたポイントが付与され、シーズンを通じて獲得したポイントの総合計でドライバーとチームの王者を決める。レース本番は基本的に3日間で、3回の練習走行でレースカーを調整し、予選のタイムで出走順を決め、決勝で順位を争う。GPによっては「スプリント」と呼ぶ短距離レース(2025年は6GPで実施)もあり、競技構成は複雑だ。

 GP期間中にチームは、常に変化する気象条件やレースカーの性能変化、消耗の進行などに加え、ライバルチームの動静も見ながら、上位獲得のための膨大な戦略パターンを立案、検証する。特に約1時間半の決勝レースでは、1分、1秒単位で変化に応じた正しい戦略を瞬時に選択、実行しなければならず、シミュレーションがその結果に大きく影響する。

 このようにF1のシミュレーションでは、高度な演算能力や膨大な計算資源を必要とする一方、コストの制約や管理が極めて厳しい。しかも高水準の性能と安定性、信頼性が要求される。Cadieux氏は、「われわれはモンテカルロ法などにより数十億回ものシミュレーションを実行し、実行頻度なども常に変わるが、OCIは性能、信頼性、従量課金ベースのコストモデルで優れている。(英国拠点の)オンプレミス環境ならシーズン前に必要なITリソースを予測して必要なシステムやファシリティーを設計・構築し、運用しなければならず変化へ対応できない。すぐに使え、使った分のコストで済むのがクラウドだ」と話す。

 Cadieux氏によると、同チームが構築しているOCI環境では、シミュレーションのワークロードでArmベースの「OCI Compute A2」「同A4 Flex」インスタンスを利用し、英国拠点と世界各地のサーキット間の通信はMPLSの高速ネットワークを基本としつつ、低遅延通信を担保するためOCIのさまざまなリージョンを複数組み合わせている。「クラウドにより英国のオフィスや工場、サーキットのガレージやピットなどをぶ多様な構成になる。IT部門にとってはその運用管理が課題だが、ユーザー(開発部門やレース運営部門、バックオフィス部門など)には全く心配がない環境だ」(Cadieux氏)

 さらにチームのIT部門は、2024年からITインフラの簡素化や標準化、サーキット現場へのOCIの拡張にも取り組む。仮想化基盤を「Oracle Virtualization」や「Oracle Linux KVM」で標準化し、「Container Engine for Kubernetes」でコンテナー環境を構築、運用しているという。英国拠点と各サーキット現場のIT基盤を共通化したことでCadieux氏は、「ITチームはとても規模が小さい。簡素化と標準化で最適化し、プラットフォームに集中できるようになる。障害や問題への対応が容易になり、コスト削減につながる。仮想化基盤もOracleで共通化しコストを削減できる。予算制限の措置に対応する上でも重要だ」と取り組みの意義を強調する。

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