日本のデジタル化はハイペース、次の段階に–シスコシステムズの責任者
今回は「日本のデジタル化はハイペース、次の段階に–シスコシステムズの責任者」についてご紹介します。
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シスコシステムズは、国のデジタル化にまつわるさまざまな課題の解決を支援する「カントリー デジタライゼーション アクセラレーション」(CDA)プログラムを2021年から日本で展開している。米国本社でCDAのグローバル責任者を務めるシニアバイスプレジデント グローバルイノベーションオフィサーのGuy Diedrich氏は、「日本は予想以上に早いペースで取り組みが進んでおり、第2段階を開始したい」と述べる。Diedrich氏に、日本の現状と海外での事例などを尋ねた。
Diedrich氏によると、CDAではこれまでに44の国や地域で1200件以上のプロジェクトを実施している。日本では、2021年2月に「CDA 1.0」として、「安心安全な公共インフラ」「教育のデジタル化」「テレワークの推進と高度化」「新型コロナウイルス対策・遠隔医療」「サプライチェーン」「規制改革とデジタル社会」の6つを注力分野に設定し、各種プロジェクトの支援に乗り出した。
CDAでのプロジェクト期間はおおむね3年程度といい、Diedrich氏は「この期間より早く進むケースは全体の2割ほどだが、日本は他のどの国よりもかなり早い。日本はデジタル化の課題設定が明確かつ具体的であり、関係者の熱意が極めて高い。彼らとわれわれの間で早い段階から強い信頼関係を築くことができ、取り組みを進める原動力になっている」と話す。
日本でCDAを本格始動する以前から進められていたプロジェクトもあるが、Diedrich氏は成功したプロジェクトの1つに、「教育のデジタル化」で取り組む「GIGAスクール構想」の支援を挙げる。特にコロナ禍が始まった2020年初頭は、政府が全国の学校に休校を要請。「学びを止めてはならない」とオンライン授業の環境構築が急務になり、約1年で端末やアプリケーション、通信回線などオンライン授業に必要なインフラがほぼ全国に行き渡った。運用面などを含めて当初は幾多の問題も生じたが、徐々に改善されつつある。緊急事態とはいえ、まずインフラがなければGIGAスクール構想の目指すデジタルを活用した新しい教育を実践することは難しいし、日本は短期間でこれを成し遂げた。
CDAの内容は国や地域によって異なるというが、Diedrich氏は、誰もがネットワークに接続できるようになることがCDAのベースにあると述べる。この点はいかにもネットワークシステムメーカーの同社らしい観点だろう。「そもそもネットワークに接続できなければ、質の高い医療や教育のようなサービスを利用することができない。『コネクテッド』になることがまず大事な点だ」(Diedrich氏)
通信事情が脆弱な国や地域でのCDAは、通信インフラの整備から始まるため、より長い期間を要するケースが多いという。日本などは世界的に見て良好な通信インフラが整備されているとされるが、例えば、英国で実施したCDAの取り組みの1つに、英国全土の鉄道路線にブロードバンド網を整備する「Connected Rail」というプロジェクトがある。「現在は列車に乗っている間も高速のインターネットにつながり、移動中の車内で快適に仕事ができるようになった」(同)とのことだ。
これから日本では、「CDA 2.0」として「持続可能性(サステナビリティー)」「社会インフラ」「業界エコシステム」を新たな注力領域に設定し、ビッグデータや第5世代移動体通信システム(5G)などを活用した電力網のさらなる効率化や生産設備の高度化といった各種のプロジェクトを支援していくという。
Diedrich氏は、これらの領域においても海外のCDAではユニークな取り組みが進んでいると話す。
「一例に米国カリフォルニア州での電気自動車(EV)を利用した双方向型配電の構築がある。カリフォルニア州ではEVが急速に普及したことでEVへの充電ニーズが急増し、電気の供給能力が足りなくなる問題が発生した。そこで、われわれはEVへの充電だけでなく、EVから電力を供給する仕組みを整備した。例えば通勤でEVを利用しているなら、夕方帰宅して自宅の配電設備にEVを接続し、EVのバッテリーからも電力を供給する。深夜はEVに充電する翌朝の出勤時は満充電のEVを利用するといった具合に、効率的な電気利用の実現をサポートした」
この他にも、米国暖房冷凍空調学会(ASHRAE)が米国アトランタに開設した拠点オフィスでは、NTTと共同でカーボンニュートラルを実現するスマートビルを構築している。サプライチェーン領域では、半導体不足の解消に向けて台湾メーカーの支援を進めているという。
Diedrich氏は、ネットワーク接続が基本的人権の1つだと言い切る。デジタル社会でいかに素晴らしいサービスが提供されようとも、誰もがそこにネットワークを通じてアクセスできなければ、意味がないからだ。
「いまだ全世界の人々の40%がインターネットへの接続手段を持てないでいる。そのような人々がインターネットへ接続できるようになれば、少なくとも5億人が貧困から解放され、世界のGDP(国内総生産)に換算して6兆7000億ドル(約858兆円)の経済効果をもたらす。このようにCDAは、倫理的、道徳的であるだけでなく経済的な恩恵も創出する取り組みであり、日本での成果は国内にとどまらず世界に波及することを知ってほしい」とDiedrich氏は話す。