日本マイクロソフトのトップ人事を読み解く

今回は「日本マイクロソフトのトップ人事を読み解く」についてご紹介します。

関連ワード (経営等) についても参考にしながら、ぜひ本記事について議論していってくださいね。

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 日本マイクロソフトは、6月10日に代表取締役 社長の吉田仁志氏の退任を発表した。社長退任が7月1日付というタイミングは、Microsoftの新事業年度のスタートに合わせたものであり、ここで人事の動きがあるのは例年のことだ。2022年も組織変更などが行われることになるだろう。だが、吉田氏の退任は突然の印象が拭えない。

 同社は、社長人事発表前日の6月9日に、オンラインイベント「ハイブリッドワーク 2022~リモート ワークの先へ! 新しい働き方の多様性~」を開催し、その冒頭に吉田氏が登壇、11年ぶりにリニューアルした東京・品川本社の狙いについて言及した。また、5月25日に行われた「Microsoft Build Japanスポットライト」には生中継で登場し、同社にとってインダストリアルメタバースへの取り組みが重要な鍵になることなどを強調していた。

 そうした経緯からも退任が6月に入ってから決定したものと思われる。また、この時期は、新事業年度の事業計画策定が完了したタイミングである点も見逃せない。

 例年なら、5月には米国本社およびアジア太平洋・日本(APJ)地域管轄での承認を得て、社内のリーダーシップチームで方針が共有され、これを7月中旬には社内に向けて発表。その後に社長の記者会見やインタビューを通じてメディアにも内容が公表される。それだけに今回のこのタイミングは、新事業年度の計画が承認されながらも吉田氏の退任が決まったという構図が浮き彫りになる。

 実は、日本マイクロソフトの社長職に対する評価は米国本社とAPJが行い、評価項目は100以上で、その内容も幅広い。それは、社長だけでなく役員も同様だ。ある関係者は次のように話す。

 「日本IBMや日本ヒューレット・パッカード(HPE)などの外資系企業から日本マイクロソフトに移籍しても長く続かない役員が多い。Microsoftの厳しい評価制度に合わないことが理由の一つなのは間違いない」

 外資系企業の中でも特に厳しいといわれるMicrosoftの評価制度が人事に及ぼす影響は大きいといえそうだ。

 今後の日本マイクロソフトの動きとして気になるところもある。1つは業績の成長にブレーキがかかっていることである。2020事業年度(2019年7月~2020年6月)の売上高は前年比23%増の7429億円、営業利益は46%増の392億円だったものの、2021事業年度(2020年7月~2021年6月)の売上高は6%増の7834億円、営業利益は5%減の371億円だった。売上成長率が鈍化し、減益という状況である。

 2022年度業績(2021年7月~2022年6月)は、11月頃にならないと明らかにならないが、クラウドビジネスが業界全体の成長を上回る実績になっていたり、クラウド市場におけるシェアも拡大していたりするという。さらに、Surfaceも高い成長を遂げているという。日本マイクロソフトの社長の評価では、Windows 11の業績は直接的には影響せず、「Microsoft Cloud」による事業領域が評価対象だ。その点では、クラウドビジネスが、業界全体を上回る成長を遂げていることが評価されてもいいだろう。今後の課題は、その成長率をいかに高めるかということになりそうだ。

 2つ目は、日本市場で“最大の案件”とされるガバメントクラウドでの出遅れである。2021年10月の入札では、Amazon Web Services(AWS)とGoogle Cloud Platform(GCP)が採択され、Microsoft Azureはそこから漏れた。採択の結果について、デジタル庁の牧島かれん大臣が、「クラウドサービス事業者と直接契約することで、中間マージンなどの費用負担の軽減も考慮をした」とコメントしたが、その時点で日本マイクロソフトには、デジタル庁と直接契約を行う窓口がないという課題が判明し、デジタル庁との連携や情報収集力が弱いことを露呈した格好ともいえる。

 現在公募を行っているガバメントクラウドの案件を獲得できないと、公共分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)案件で大きく出遅れてしまいかねない。公共分野では、2020年度に生徒1人1台のデバイス環境を実現する政府主導の「GIGAスクール構想」が推進され、Googleの「Chromebook」が一気に躍進したが、今後の教育市場における巻き返しも課題となるだろう。

 そして、3つ目が、日本マイクロソフトの“タレント不足”である。この3年で、日本マイクロソフトのシニアリーダーシップチームは大きく様変わりした。それは外資系企業の姿として異例ではないものの、幅広い事業範囲をカバーするだけのタレントがそろっていないことをこれまで以上に感じざるを得ない。

 それはメディア向け説明会でも感じることがある。2022年3月に行われたサステナビリティーに関する説明会では金融イノベーション本部長の藤井達人氏が説明に立った。開発者向けイベントのMicrosoft Build Japanスポットライトでは、クラウド&ソリューション事業本部長の手島主税氏が説明を行った。いずれも直接の担当領域ではない役員が説明しており、現時点でCTO(最高技術責任者)や開発者向け専任役員が不在な点からも、タレント不足を感じざるを得ない。

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